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三 国 志

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〇〇一   桃園の誓い





黄巾賊 本部


馬元義
(ばげんぎ)

黄巾賊の幹部


「馬元義よ、馬元義はおるか」
張角
(ちょうかく)


「おう、ここだ教祖様」
馬元義
(ばげんぎ)


「ぬしに任務を与える。
洛陽(らくよう)の都に潜入し、協力者と連絡を取るのだ。
そして我の合図を受けたら、都を火の海にするのだ!」
張角
(ちょうかく)


「任せておけ教祖様!」
馬元義
(ばげんぎ)



涿郡(たくぐん)楼桑村(ろうそうそん)


劉備
(りゅうび)
関羽
(かんう)
張飛
(ちょうひ)

楼桑村の青年

放浪の豪傑

元・官軍の将



「ふむ……義勇軍か……」
劉備
(りゅうび)


「なんだいなんだい景気が悪いねえ。
往来の真ん中でため息なんてついちゃってさ」
張飛
(ちょうひ)


「いや、物騒な世の中になったものだと思ってな。
わしにも平和のために何かできることはないものかのう」
劉備
(りゅうび)


「そんなの簡単さね。義勇軍に入ればいいんだよ。
大の男のくせにだらしないったらありゃしないね。
ため息なんかついてる暇があったらさっさと軍隊に入りなさいよ」
張飛
(ちょうひ)


「しかしわしは腕っ節も頭もたいしたことがない。義勇軍に入ってもすぐにおっ死ぬのがオチじゃ。
……見れば、あんたはガタイもいいし腕も立ちそうじゃ。
あんたこそ義勇軍に入ったらどうじゃ?」
劉備
(りゅうび)


「言われなくてもアタイは昔、官軍にいたのさ。
張飛将軍って名前を聞いたことはないかい?
でもお役所仕事に嫌気がさして辞めちまったんだよ。
もう軍隊なんてまっぴらごめんだね」
張飛
(ちょうひ)


「……………………」
関羽
(かんう)


「なんだいアンタは、いきなり割り込んできて。
……うん? よく見たら知ってる顔じゃないか。そのヒゲ! その頭! その青龍刀!
官軍にいた頃に手配書が回ってきたよ。
アンタ、関羽だね! 悪徳商人を殺してそこら中、逃げ回ってるって噂の豪傑の!」
張飛
(ちょうひ)


「……………………」
関羽
(かんう)


「ち、ちょっと、何をするんだよ。アタイをどこにつれてく気だい。
離しなさいよアンタ!」
張飛
(ちょうひ)


「お、おい。わしもつれていくのか?
わしはあんたとケンカする気はないぞ。おい、何をするんじゃ」
劉備
(りゅうび)



官舎


鄒靖
(すうせい)
朱儁
(しゅしゅん)

官軍の将軍

官軍の将軍


「おいおい関羽さんとやら。
どこにつれてくのかと思ったら、ここは義勇軍の受付じゃないか」
劉備
(りゅうび)


「何よアンタ。まさかアタイたちに義勇軍に入れって言うの?
いつから官軍の手先になったのよ」
張飛
(ちょうひ)


「……………………」
関羽
(かんう)


「誰だ、官舎の前で騒いでいるのは。
…………ほほう、これは珍しいお客さんだ。
張飛元将軍に、お尋ね者の関羽じゃないか。
いったい何の用だ?」
鄒靖
(すうせい)


「いや、何の用と聞かれても、わしらはこの関羽さんとやらに無理矢理つれてこられただけでのう」
劉備
(りゅうび)

「鄒靖、何を油を売っておる! 黄巾軍が攻めてきたぞ!」
朱儁
(しゅしゅん)


「おっと、仕事の時間だ。積もる話はまた後にしよう。
……それよりお前たち、せっかくここに来たんだ。少し手を貸してくれないか」
鄒靖
(すうせい)


「アタイたちはそんなつもりで来たわけじゃ――」
張飛
(ちょうひ)


「そうか、故郷が黄巾軍に踏みにじられて、火の海になってもいいと言うのか。
話はわかった。臆病者は早く逃げなさい。しっしっ」
鄒靖
(すうせい)


「……わしは腕も頭もからっきしじゃが、そこまで言われて、はいそうですかと逃げ出すわけにはいかんのう。
張飛さん、関羽さん、ここはいっちょ手を貸してくれんか」
劉備
(りゅうび)


「なんでそういう話になるのよ!
関羽、アンタまさかこういうことになるとわかってて、つれてきたんじゃないでしょうね」
張飛
(ちょうひ)


「……………………」
関羽
(かんう)


「なんとか言ったらどうなのよ! もう、めんどくさいったらありゃしないわね。
やるわよ。やればいいんでしょ。黄巾軍なんてアタイが踏んづけてやるわ!」
張飛
(ちょうひ)



楼桑村 近郊


程遠志
(ていえんし)
鄧茂
(とうも)

黄巾賊の頭目

黄巾賊の頭目


「がっはっはっ! 殺せ殺せ! 略奪しろ!」
程遠志
(ていえんし)


「ケケケーッ! 俺たちにかなう者なんていない! 皆殺しだ!」
鄧茂
(とうも)


「いたぞ張さん、関さん! あいつらが頭目じゃ。
あいつらさえ倒せば黄巾賊はひとたまりもないぞ。やっちまうんじゃ!」
劉備
(りゅうび)


「やっちまうんじゃって、アンタは何してるのよ。アンタも戦いなさいよ。
だいたい張さんだなんて馴れ馴れしいじゃないのよ」
張飛
(ちょうひ)


「じゃからわしは腕には自信がないと何度も言っておるじゃろ。
任せたぞ、張さん! 関さん!」
劉備
(りゅうび)


「……………………」
関羽
(かんう)


「ま、待ちなさいよ。アンタ一人で突っ込む気なの?
官軍に任せてうしろにいれば……って。
ちょっと、もう、なんなのよこいつらは! ひとの話を聞きなさいよね!」
張飛
(ちょうひ)


「んん? なんだこいつは? 俺様と戦う気か?」
程遠志
(ていえんし)


「……………………ッ!」
関羽
(かんう)


「ギャアーーーーーッ!!!!!」
程遠志
(ていえんし)


「て、程遠志! ば、馬鹿な! 程遠志が一撃でやられた!?」
鄧茂
(とうも)


「関羽ーーッ! 待てって言ってるでしょ!
邪魔よアンタ!!」
張飛
(ちょうひ)


「ギェーーーーッ!?」
鄧茂
(とうも)


「す、鄒靖。何なのだあいつらは?
黄巾賊の頭目を一撃で倒してしまったぞ!」
朱儁
(しゅしゅん)


「聞いたことはありませんかな?
千人の官軍に囲まれながら、ただの一人も殺すことなく悠々と逃げ延びた男・関羽。
一度の戦で八百八人の敵を殺した男・張飛の名を」
鄒靖
(すうせい)


「あ、あいつらが、あの関羽と張飛だったのか……。
で、では、もう一人のあの耳の長い男は誰だ?」
朱儁
(しゅしゅん)


「さあ? 誰ですかなあれは」
鄒靖
(すうせい)


「すごいぞ張さん、関さん! 黄巾賊は散り散りになって逃げていったぞ!」
劉備
(りゅうび)


「ふん、あんな連中アタイの敵じゃないわよ。
それより関羽! アンタどういうつもりなのよ!」
張飛
(ちょうひ)


「……………………」
関羽
(かんう)


「一言くらいしゃべんなさいよ!」
張飛
(ちょうひ)


「まあまあ張さん。勝ったんじゃからいいじゃないか。
それよりほれ、ここらはいい桃の木がたくさん生えとる。
桃の木を見ながら、戦勝祝いに一杯どうじゃ」
劉備
(りゅうび)


「アンタは戦場に剣の一本も持って来てないくせに、酒はしっかり持ち歩いてるのね……」
張飛
(ちょうひ)


「それにしても二人は強いのう。
二人が一緒にいてくれるなら、わしも義勇軍に入ってもいいと思ってしまいそうじゃ」
劉備
(りゅうび)


「アタイはもう懲り懲りよ。無口男に無能男と一緒になんて戦ってらんないわ。
鄒靖に褒美をもらったら、アンタたちとはお別れだからね」
張飛
(ちょうひ)


「そうつれないことを言うなって。
こうして桃園で一緒に酒を飲んだ仲じゃないか。
わしらはもう兄弟も同然じゃ!」
劉備
(りゅうび)


「……………………」
関羽
(かんう)


「ほれ見い。関さんもうなずいてるぞ」
劉備
(りゅうび)

「誰が兄弟よ! だいたいアタイはアンタの名前も聞いてないんだからね!」
張飛
(ちょうひ)


「そうじゃったか? これはうっかりしとった。すまんすまん。
わしの名は劉備! いずれは皇帝になる男じゃ!」
劉備
(りゅうび)






かくして劉備、関羽、張飛の三人は出会った。
彼ら三人が乱世を動かす存在になるとは、このとき誰も予想だにしなかった……。




〇〇二   北門の鬼