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三 国 志

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〇一四   賈詡の暗躍





長安 西部

胡車児
(こしゃじ)

牛輔の配下


「はあ、はあ、はあ。どうやら追っ手は振り切れたようだな……」
牛輔
(ぎゅうほ)


「パパー。もう疲れて歩けないよー。おなか空いたー」
董白
(とうはく)


「よしよし、もう一息の辛抱だからな。
おい胡車児! 董白をおぶってやれ」
牛輔
(ぎゅうほ)


「…………」
胡車児
(こしゃじ)


「ん? なんだ貴様、俺の言うことを聞けな――ぎゃああああ!!!」
牛輔
(ぎゅうほ)


「パパー! パパー!」
董白
(とうはく)


「おのれ曲者め! よくも牛輔殿を! 成敗してくれる!」
張繍
(ちょうしゅう)


「…………」
胡車児
(こしゃじ)


「董白様、おケガはありませんかな? もう大丈夫です。お父上を殺した曲者めは追い払いました」
賈詡
(かく)


「えーんえーん」
董白
(とうはく)


「誰か、董白様を馬車に乗せて差し上げろ」
張繍
(ちょうしゅう)


「……首尾よく行きましたな」
賈詡
(かく)


「だが良かったのか? あれでも牛輔は魔王様のムコ殿だ。
牛輔を殺しては董卓軍がまとまりを欠くのではないか」
張繍
(ちょうしゅう)


「これは異なことを申される。董卓殿が死んだのに董卓軍の行く末を案じてどうされるのかな?
貴殿が考えるべきは、これからの張繍軍のことであろうに。
張繍軍にとって牛輔殿は、董卓殿の残党をまとめる象徴となりえる、邪魔な存在である」
賈詡
(かく)


「そ、そうだな……。
しかしお前は恐ろしい奴だな。いつの間に牛輔のもとに刺客を送り込んだのだ?」
張繍
(ちょうしゅう)


「牛輔殿だけではない。他の主立った将のもとにも刺客は潜んでおる」
賈詡
(かく)


「……まさか俺のもとにもいないだろうな」
張繍
(ちょうしゅう)


「はてさて。聞きたければ教えてしんぜようか」
賈詡
(かく)


「い、いや冗談だ。悪く思うな」
張繍
(ちょうしゅう)


「張繍! お前は無事であったか」
李稚然
(りちぜん)


「ああ。董白様も保護した。だが牛輔殿は何者かに討たれてしまった」
張繍
(ちょうしゅう)


「董旻殿や李儒も討たれたようだ。王允は我々を皆殺しにする気だぞ」
郭汜
(かくし)


「かくなる上は、どこかへ逃げて山賊にでもなるか……」
李稚然
(りちぜん)


「何を弱気なことを言うか! まだ我々には董白様がおられる。
董白様を旗印に、魔王様の仇討ち合戦をするのだ!」
張繍
(ちょうしゅう)


「し、しかし相手には呂布がいるのだぞ」
郭汜
(かくし)


「呂布の対処は俺に任せろ。長安を我々の手に取り戻すぞ!」
張繍
(ちょうしゅう)


(おやおやこの男、意外に演技力だけは買えるではないか。
小生の言葉をさも自分のセリフのように言いおるわ)
賈詡
(かく)



長安 牢獄

蔡邕
(さいよう)
蔡文姫
(さいぶんき)
荀攸
(じゅんゆう)

大学者

蔡邕の娘

元罪人


「お父様……なんとおいたわしい」
蔡文姫
(さいぶんき)


「いや、王允(おういん)の人物を見誤ったわしが愚かだったのだ。
あやつめ、董卓の一族は老若男女問わず皆殺しにしおった。生き残ったのは逃げ出した牛輔と董白の親子だけだ。
董卓軍の残党も根絶やしにするつもりだろう。
それをやりすぎだと諌めたらこのとおり、投獄されてしまった」
蔡邕
(さいよう)


「士孫瑞(しそんずい)様に相談して、釈放してもらいます」
蔡文姫
(さいぶんき)


「無理をするな、わしはもう年だ。どうせ長くはない。
それより文姫、言いつけ通りわしの著作に目を通したか?」
蔡邕
(さいよう)


「はい。お父様の御本は全て読みました」
蔡文姫
(さいぶんき)


「わしが処刑されれば、著作も全て焼き払われるだろう。
だがお前が内容を覚えていれば、いつかは復元できる。
歴史書はなんとしてでも後世に残さなければならんのだ。
そのためにも文姫よ。しばらくこの国を離れるのだ」
蔡邕
(さいよう)


「国を離れる……?」
蔡文姫
(さいぶんき)


「王允の強引な統治は長くは続くまい。都の内外を問わず、大混乱に陥るだろう。
国外に逃げたほうが安心だ。――荀攸殿」
蔡邕
(さいよう)


「ええ、お嬢様は安全にお逃がしします」
荀攸
(じゅんゆう)


「あなたは?」
蔡文姫
(さいぶんき)


「董卓の暗殺を企んで投獄された腐れ儒者です。
蔡邕様と入れ違いに釈放されました」
荀攸
(じゅんゆう)


「荀攸殿がしかるべき所にお前を送り届けてくださる。
文姫よ、これでお別れだ。いかなる苦境に陥ろうとも、必ず生きるのだぞ」
蔡邕
(さいよう)



長安



「王允! 董卓軍の残党が攻め寄せてきたぞ!」
士孫瑞
(しそんずい)


「フン、頭を失ったのにしぶとい連中だ。
呂布よ、蹴散らしてやれ!」
王允
(おういん)


「……http//」
呂布
(りょふ)


「私の旧友です、彼らは。だから降参するように説得します。
それが失敗したら戦います」
陳宮
(ちんきゅう)


「何を甘いことを……とにかく行け!」
王允
(おういん)


「呂布め! 裏切り者め! 悪びれもせずよくも現れたな!」
張繍
(ちょうしゅう)


「恥を知るならば死んで董白様に謝罪しろ!」
李稚然
(りちぜん)


「董卓軍は董白を先頭に押し立てて進んでくるぞ!」
士孫瑞
(しそんずい)


「ooh...」
呂布
(りょふ)


「そこは危険です、ミス董白。離れて下さい。あなたとは戦いたくありません」
陳宮
(ちんきゅう)


「いやー! 来ないで! 呂布なんて嫌いよ! 死んじゃえ!」
董白
(とうはく)


「…………www.co.jp」
呂布
(りょふ)


「私は持っていません。子供や女性に向ける武器なんて物は。
私は戦えません。さあエンペラー、あなたもお逃げ下さい。私がお守りします」
陳宮
(ちんきゅう)


「ち、近寄るな! ち、朕は、ぼくはお前が怖い!」
献帝
(けんてい)


「………………」
呂布
(りょふ)


「り、呂布! 貴様逃げるのか!?」
王允
(おういん)


「呂布が逃げたぞ! 呂布さえいなければこっちのものだ! かかれ!!」
郭汜
(かくし)


「そ、そんな……貂蝉……」
王允
(おういん)



長安

董承
(とうじょう)

献帝の側近


「王允は殺した。だが呂布と士孫瑞には逃げられちまったぜ」
李稚然
(りちぜん)


「牢屋で蔡邕も死んでいたぞ。もっともこっちは衰弱死のようだがな」
郭汜
(かくし)


「…………ぼ、ぼくを、朕をどうする気だ」
献帝
(けんてい)


「何をおびえられているのですか?
我々は亡き董卓と同じように、陛下をお守りする所存です」
張繍
(ちょうしゅう)


「と、董卓と同じように……」
献帝
(けんてい)


「いいえ、今後は王允に代わり私が陛下をお守りします。
陛下はお疲れだ。諸君は下がりたまえ」
董承
(とうじょう)



長安 張繍邸



「さすがは賈詡だな! これほど上手くいくとは思わなかったぞ」
張繍
(ちょうしゅう)


「呂布は討ち取れなかったが、いくら呂布といえどもわずかの手勢だけでは何もできまい。
さて、今後は地盤を固めるために、強敵になりえる諸侯を潰して参るぞ」
賈詡
(かく)


「強敵と言うと……やはり董卓追討軍を率いた袁紹か?」
張繍
(ちょうしゅう)


「彼奴は北で公孫瓚と遊んでおる。
公孫瓚は要塞を築いて持久戦を挑んでおるそうだ。しばらくはかかりきりになるだろう。
孫堅も死んだいま、第一に除くべき敵は――曹操だ」
賈詡
(かく)


「曹操? あんな小勢に何ができると言うのだ?」
張繍
(ちょうしゅう)


「貴殿は曹操の恐ろしさをわかっておらんようだな。
彼奴は兵力を増強するよりも先に人材を求めておる。
自分に本当に足りない物は何かわかっておるのだ。こういう輩が一番怖い」
賈詡
(かく)


「ならば曹操の兵力が増える前に叩くか?」
張繍
(ちょうしゅう)


「わざわざ小生らが手を下すまでもない。
圧倒的な兵力差で押し潰してしんぜよう……」
賈詡
(かく)





かくして賈詡の暗躍により、董卓の残党が都を占拠した。
一方、雌伏の時を過ごす曹操には魔の手が迫っていた。
曹操は襲い来る罠をかいくぐり、飛翔を遂げられるのか?




〇一五   青州黄巾軍