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三 国 志

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〇一五   青州黄巾軍





北海(ほっかい)


「ご苦労であったぞ劉備とやら。お前のおかげで黄巾賊は逃げ出した。
孔子曰く『孔融に親切にせよ』と申す。善徳を積んだな」
孔融
(こうゆう)


「いや、わしらが近づいたら青州黄巾軍め、あっという間に逃げちまった。
あんまり戦う気はなかったんじゃないかのう」
劉備
(りゅうび)


「違うわよ! この張飛様の勇名を恐れたのよ!」
張飛
(ちょうひ)


「たしかに張飛が全速力で走ってきたら誰でも逃げるわな」
簡雍
(かんよう)


「…………っ」
関羽
(かんう)


「笑ってんじゃないわよ関羽!
――それより孔融、アンタに頼んだこと忘れてないでしょうね」
張飛
(ちょうひ)


「お前たちが朝廷からの使者を殴ったことを取りなしてやれば良いのだろう?
孔子曰く『孔融は帝のお気に入り』と申す。お安い御用だ」
孔融
(こうゆう)


「はっはっは。たまには人助けもするもんじゃのう。
気分もいいし、罪にも問われなくなりそうじゃと良い事ずくめじゃ!」
劉備
(りゅうび)


「断ろうとしてたくせに……」
張飛
(ちょうひ)



譙(しょう)

荀彧
(じゅんいく)

曹操の参謀


「曹操様、朝廷からの使者はなんと?」
曹洪
(そうこう)


「青州にはびこる黄巾賊を討て、とのことだ」
曹操
(そうそう)


「青州黄巾軍だと! 30万を超える大軍ではないか!」
曹仁
(そうじん)


「奴らは焦和(しょうか)や劉岱(りゅうたい)ら悪政を敷いていた太守から土地を奪い、独立を果たしたのだったな。
名声もなく、わずか5000ほどの兵しか持たぬ俺たちにそんな勅命が下るとは……におうな」
夏侯惇
(かこうとん)


「これはこれは……我々の泣き所をよく知られているようですね。あはは」
荀彧
(じゅんいく)


「笑い事ではないぞ荀彧。これは何かの間違いではないのか。俺が都に上がり問いただしてこよう」
夏侯淵
(かこうえん)


「待ちたまえ夏侯淵君。せっかくの勅命じゃないか。光栄なことだよ。僕は受けようと思う」
曹操
(そうそう)


「正気か曹操! これは李稚然(りちぜん)ら董卓残党の罠だぞ」
夏侯惇
(かこうとん)


「いいや、都にいる彼らにはこれ以上何もできやしないさ。あとは僕らと青州黄巾軍の戦いだよ。
韓浩君、鮑信(ほうしん)君に援軍を頼んでくれないか」
曹操
(そうそう)


「ああ、わかった」
韓浩
(かんこう)


「兵力の少ない僕らに、圧倒的な物量の黄巾賊を当てる。たしかにうまい考えだ。
でも発想を逆転させれば、これは大きな好機じゃないかな。そうだろう、荀彧君?」
曹操
(そうそう)


「ええ。黄巾賊を降し、我々の兵力にしてしまいましょう」
荀彧
(じゅんいく)


「な…………ッ!?」
曹仁
(そうじん)


「荀彧君や多くの人材を手に入れた。次は兵力を増やす番だ」
曹操
(そうそう)



青州(せいしゅう)

程昱
(ていいく)
許褚
(きょちょ)
于禁
(うきん)

曹操の参謀

曹操の護衛

鮑信の腹心


「…………どう思う? 程昱君」
曹操
(そうそう)


「そうじゃな……ただの黄巾賊にしてはちと強すぎはせんかのう」
程昱
(ていいく)


「そもそもおかしな話ですよ。いくら黄巾賊がもともとは百姓一揆だとしてもです。
これほどの大軍がひとところに集まって、こんな統率だった動きができるものですかね。
ましてや教祖様だってとっくに死んでるんですよ」
荀彧
(じゅんいく)


「優れた指揮官がおるな。間違いなかろう」
程昱
(ていいく)


「彼らにいるのは指揮官だけじゃないよ。あれを見たまえ」
曹操
(そうそう)


「曹操殿! 背後から伏兵の奇襲だ!」
鮑信
(ほうしん)


「大軍を統率できる指揮官。そして僕らの裏をかき続ける軍師。
どうやら兵力だけじゃなくて、新たな人材も手に入れられそうだね」
曹操
(そうそう)


「それはここを逃げ延びてからの話だ! 早く逃げろ曹操!」
夏侯惇
(かこうとん)


「青州黄巾軍の大頭目・何儀とは俺様のことだ! 逃すか曹操!」
何儀
(かぎ)


「ここは吾が守る。汝は逃げよ」
許褚
(きょちょ)


「殿! 右手からも伏兵だ!」
曹仁
(そうじん)


「截天夜叉・何曼ここにあり! いざ尋常に勝負!」
何曼
(かまん)


「奴は私が引き受けた。曹操殿は逃げよ」
鮑信
(ほうしん)


「すまない。頼んだよ鮑信君」
曹操
(そうそう)


「ひょー! すげえ数の敵だな。まあ、おれっちに任せて鮑信のダンナは下がってなよ」
于禁
(うきん)


「いや、殿軍は私が務める。于禁、お前は曹操殿を守れ」
鮑信
(ほうしん)


「ダンナ……死ぬ気か?」
于禁
(うきん)


「私は曹操殿にとって必要な人材ではない。だがお前は必要となるだろう。だから死ぬな。
そして私の代わりに、曹操殿の行く末を見届けるのだ」
鮑信
(ほうしん)


「……わかったよ。曹操はおれっちが命に代えても守ってやる。
でも、ダンナもできるだけ死ぬなよ」
于禁
(うきん)


「無論だ。さあ行け!」
鮑信
(ほうしん)


「逃げ遅れたな貴様。覚悟はいいか!」
何曼
(かまん)


「逃げ遅れたのではない。天下万民のため捨て石となるのだ。
天下のために必要なのは、鮑信ではなく曹操だからな!」
鮑信
(ほうしん)



青州 南部



「あはは。完全に包囲されてしまいましたな」
荀彧
(じゅんいく)


「何を笑っている! もともと勝ち目のない戦だったが、鮑信も討たれ、いよいよもって進退窮まったぞ」
夏侯惇
(かこうとん)


「諦めるのは早いぞ惇兄。要は大将首を取ればいいのだ。
俺が今から突撃して首を持ってきてやる」
夏侯淵
(かこうえん)


「待て待て夏侯淵! 敵は軍隊ではない、民兵だぞ! 大将なんていやしない!」
曹仁
(そうじん)


「否。大将がいなければここまで見事に兵を動かせんじゃろ。大将はおるぞ」
程昱
(ていいく)


「ついでに軍師もだね。それじゃあそろそろ行くとしようか」
曹操
(そうそう)


「どこへ行くんだ?」
曹洪
(そうこう)


「もちろん降伏勧告をしにさ」
曹操
(そうそう)


「こ、降伏勧告だと? 我々を完全に包囲した、数十倍の敵に?」
韓浩
(かんこう)


「敵ではない、民だ。考えてもみたまえ。
どうして民を守るべき立場の僕らが、民と戦わなくてはいけないんだい?
彼らは行き場を失い、うろたえているだけだよ。だから丸ごと受け入れてあげればいいのさ」
曹操
(そうそう)



青州黄巾軍 陣営

卞喜
(べんき)

青州黄巾軍の頭目


「そう目くじら立てないでくれ。僕らはご覧のとおり十人足らずで、しかも丸腰だ。
その気になればいつだって捕らえられるだろう?」
曹操
(そうそう)


「何を企んでいるか知らんが、我々の指導者に会わせるわけにはいかん。
命が惜しければ立ち去るがいい!」
卞喜
(べんき)


「待て卞喜。ことは俺たちが勝手に判断していい問題じゃねえ。
いちおう指導者にお伺いを立てよう」
何儀
(かぎ)


「その必要はない。……久しぶりだな、曹操」
??
(??)


「あ、あんたは!?」
曹洪
(そうこう)


「ただ者ではないと思っていたが……官軍の将軍様だったとはね。
道理で素晴らしい指揮だったわけだ。でもなぜ君が黄巾賊を率いているんだい?」
曹操
(そうそう)


「黄巾賊の討伐を命じられてた俺が、逆の立場になるなんてな。
俺だって不思議でならんよ。まあ成り行きってヤツだ」
鄒靖
(すうせい)


「鄒靖将軍は董卓に都を追われた後、暴徒と化していた我々をまとめ上げてくれたのだ」
何曼
(かまん)


「さすが官軍の中でも高潔さで知られた鄒靖君だ。
でも失礼だけど、君だけじゃないだろう? 少なくとももう一人、君に力を貸していた人がいるはずだ」
曹操
(そうそう)


「私だ」
??
(??)


「郭嘉! 寝ていろと言っただろう」
鄒靖
(すうせい)


「会いたかった」
郭嘉
(かくか)


「お前が曹操にか? ――こいつは郭嘉。俺の軍師として知恵を貸してくれていた。
肺が悪くてあまりしゃべると咳き込むから、言葉数が少ないんだ」
鄒靖
(すうせい)


「僕も君に会いたかったよ。兵力の差を最大限に活かした見事な用兵だった。
あれではいくら兵の練度で勝っていても太刀打ちできない」
曹操
(そうそう)


「3万」
郭嘉
(かくか)


「ああ、たしかに僕に3万の兵があればもう少しマシな戦いができただろう。
でも君相手に3万じゃちょっと心もとないな。5万は欲しいところだ」
曹操
(そうそう)


「火計」
郭嘉
(かくか)


「そりゃあ火計を使えば5千でも何とかなったかも知れない。
でも僕は君たちを殲滅に来たわけじゃない。できれば戦いたくはなかった。
君たちだってそうだろう?」
曹操
(そうそう)


「火の粉」
郭嘉
(かくか)


「降りかかる火の粉は払うか。君の言うことはいちいちもっともだね」
曹操
(そうそう)


(なんで話が通じるんだこいつら……)
夏侯惇
(かこうとん)


「気に入った! 兵の動かし方だけじゃない。君という人物が気に入ったよ。
良かったら僕の側でその頭脳を発揮してくれないか」
曹操
(そうそう)


「黄巾軍」
郭嘉
(かくか)


「もちろん君だけじゃない。青州黄巾軍30万、全員を迎えるさ!」
曹操
(そうそう)


「鄒靖」
郭嘉
(かくか)


「やれやれ。こんなことになるんじゃないかと思ったよ。
郭嘉、お前の好きにしろ。どうせ俺じゃあ、お前抜きで曹操相手に戦えやしない」
鄒靖
(すうせい)


「そんなことはない。今ここで僕たちを捕らえればいい。
僕の軍の重臣が全員そろってるよ。一瞬で勝負はつくさ」
曹操
(そうそう)


「と、殿……!」
曹仁
(そうじん)


「…………」
何儀
(かぎ)


「意地の悪いことを言うな。お前を捕らえ、首をはねて、その後はどうする?
そうやって討伐に来た全員の首をはねるまで続けるのか? 無理だ。

俺は曹操に降る。だが俺たちは軍隊じゃない。異議のある者は去ってくれて構わないぜ」
鄒靖
(すうせい)


「…………」
卞喜
(べんき)


「…………」
何曼
(かまん)


「あはははは! さすが殿だ!
たった一人で30万人を降伏させてしまったわ!」
荀彧
(じゅんいく)


(鮑信のダンナ……とんでもねえ相手に仕えさせやがったな……)
于禁
(うきん)





かくして曹操は30万の大兵を手に入れた。
一方、都を追われた呂布は流浪の日々を送っていた。
はたして最強の男は、新天地に辿りつけるのか?




〇一六   流浪の呂布