アイコン
三 国 志

トップページに戻る

〇二一   孫策の逆襲





寿春(じゅしゅん)

楽就
(がくしゅう)

袁術の重臣


「劉繇(りゅうよう)を攻撃している孫静(そんせい)から連絡です。
敵の防備は堅く、苦戦が続いているとのこと」
周瑜
(しゅうゆ)


「あいかわらず孫静は孫堅の弟のくせに大したことないザンスね。
ミーは失望したザンスよ」
袁術
(えんじゅつ)


「劉繇は名門の権威を活かして数万の兵力を集めています。
孫静の手勢だけではやはり難しいでしょう」
周瑜
(しゅうゆ)


「フン、劉繇が名門ザンスか? ミーと比べたらぽっと出の成金ザンス。
で、どうしたら孫静のバカは勝てるザンスか?」
袁術
(えんじゅつ)


「殿! 俺に任せてくれればすぐに大勝してやるぜ!」
楽就
(がくしゅう)


「フッ。楽就殿のお手をわずらわせるまでもありません。
孫静には兵よりも将を送れば助けとなるでしょう。
孫堅の旧臣だった程普(ていふ)や韓当(かんとう)ならば、手足のように使いこなせるはずです」
周瑜
(しゅうゆ)


「周瑜がそう思うならそうすればいいザンス。
ところで、孫堅の息子の……なんといったザンスか? あのボンボンは」
袁術
(えんじゅつ)


「孫策ですか?」
周瑜
(しゅうゆ)


「そうそう孫策。あいつはまた飽きもせず狩りに行ってるザンスか」
袁術
(えんじゅつ)


「はい。来る日も来る日も野原を駆けずり回って、虎やウサギとたわむれているようです。他愛もないものです」
周瑜
(しゅうゆ)


「孫堅の息子だけあって野蛮人ザンスねえ。
周瑜が呆れて、ミーに仕えるようになったのも納得ザンス」
袁術
(えんじゅつ)


「フッ。殿には孫策にはない、名門ならではの気品がありますからね」
周瑜
(しゅうゆ)


「うっひゃっひゃっ。さすが周瑜はわかってるザンス!」
袁術
(えんじゅつ)



寿春(じゅしゅん) 郊外

孫策
(そんさく)
朱治
(しゅち)
呂範
(りょはん)

孫家の当主

孫堅の旧臣

孫堅の旧臣


「袁術の監視はまいたか?」
孫策
(そんさく)


「ええ。影武者の方を追っていきました」
朱治
(しゅち)


「ああ見えてしつこいヤローだぜ。いまだにオレを監視してやがる」
孫策
(そんさく)


「周瑜がわざと監視させてるのだよ。孫策は毎日、狩りに出かけていると思わせるためにな」
呂範
(りょはん)


「たまにゃあ本当に狩りに行きてェもんだな。――で、今日は誰に会うんだ?」
孫策
(そんさく)


「これまでにも多くの人材と会い、協力を取り付けてきましたが、
今日お会いしていただくのは、これまでで最も重要な相手です」
朱治
(しゅち)


「はっきり言って、この二人の協力を得られなければ、今までの努力が水の泡だ」
呂範
(りょはん)


「二人? そんな面倒な相手と二人も会わなきゃなんねェのかよ。
で、どこのどいつだそいつらは」
孫策
(そんさく)


「聞いたことはありませんかな、『二張』の名を」
朱治
(しゅち)


「孫策、この二人を得られれば、いよいよ機は熟すのだ。
がんばって説得しろよ」
呂範
(りょはん)


「超だりィ…………」
孫策
(そんさく)




寿春(じゅしゅん)


「なんザンスか孫策、ミーに改まって話なんて」
袁術
(えんじゅつ)


「急な話で悪ィんだけど袁術さんよ。ちィとばかし兵を貸してくんねェかな。
苦戦してる叔父貴の孫静を助けに行きてェんだ」
孫策
(そんさく)


「フッ。狩りに飽きたら戦争ごっこがしたくなったのか」
周瑜
(しゅうゆ)


「あっはっはっ。まあそんなところだ。オレも20歳になったからよ、初陣に出て一人前になりてェんだ」
孫策
(そんさく)


「さすが山猿……いやいや勇ましいことザンス。
でも残念ザンスが、貸せる兵は余ってないザンスね~」
袁術
(えんじゅつ)


「そうかい。残念だな……。
ところでガラっと話は変わるんだけどよ、袁術さん。
実はオレはこんな物を持ってるんだ」
孫策
(そんさく)


玉璽
(ぎょくじ)


「そ・そ・そ・そ・それは!? ぎ・ぎ・ぎ・ぎ・玉璽!?」
袁術
(えんじゅつ)


「親父が遺してくれた形見なんだけどよ、もし良ければ袁術さんに貸してやってもいいんだが……」
孫策
(そんさく)


「ど・ど・ど・ど・どうすればいいザンスか!? 兵か!? 兵を貸せばいいザンスか!?」
袁術
(えんじゅつ)


「ああ、親父の旧臣の兵を、ほんの少しでいいから貸してくんな」
孫策
(そんさく)


「三千の兵と、馬五百を貸してやるザンス! 貸すだけザンスよ! ちゃんと返すザンスよ!」
袁術
(えんじゅつ)


「わーってんよ。返す返す。その代わり、袁術さんも玉璽は預けるだけだかんな。返せよ?」
孫策
(そんさく)


「もちろんザンス! ミーは約束を破ったことはないザンス! いつの日か返すザンス!
だから気が変わらないうちに兵馬を受け取ってさっさと出ていくザンス!」
袁術
(えんじゅつ)


揚州(ようしゅう)西部

張昭
(ちょうしょう)
張紘
(ちょうこう)
黄蓋
(こうがい)

孫策の腹心

孫策の腹心

孫堅の旧臣


「恐れ多くも陛下の所蔵される玉璽を、袁術めなどにくれてやるとは!
孫策殿にはつくづく呆れ返ったぞ!」
張昭
(ちょうしょう)


「でもそのおかげで兵馬が手に入ったんだぜ」
孫策
(そんさく)


「たかだか兵馬と玉璽を引き換えにするとは、それこそ正気の沙汰ではないわ!」
張昭
(ちょうしょう)


「玉璽が偉大なのではないぞ。偉大なる陛下が持たれてこその玉璽なのだぞ。
陛下以外の誰が持っていようと同じことだぞ」
張紘
(ちょうこう)


「そうそう。袁術なら玉璽をさぞかし大事に保管してくれるだろうよ」
孫策
(そんさく)


「まったく……これがワシと『二張』と並び称される者の言葉だろうか!」
張昭
(ちょうしょう)


「呆れちまったなら隠居生活に戻ってもいいぜ」
孫策
(そんさく)


「何をバカなことを! ワシの目が離れたら諸君はより一層、好き勝手に振舞うに違いないわ!
特に孫策殿には教えなければならぬことが1000はあるのだ! それを教え終わるまでは許さんぞ!」
張昭
(ちょうしょう)


「1000もあんのか……そりゃだりィな」
孫策
(そんさく)


「若殿! よくぞ、よくぞ……。この日を待ちわびていましたぞ!」
黄蓋
(こうがい)


「久しぶりだな黄蓋! そうか、袁術が貸してくれた兵の中にはお前もいたのか」
孫策
(そんさく)


「若殿、いやもうそんな呼び方では失礼に当たる。殿!
我ら3千の寡兵とはいえ、全員が孫堅殿に鍛えられた一騎当千の兵!
必ずや殿の期待に応えてみせましょう!」
黄蓋
(こうがい)


「叔父貴んとこには程普と韓当もいる。これだけそろって負けるわけがねェよ!
さあ、劉繇退治に出陣だ!!」
孫策
(そんさく)



曲阿(きょくあ)

劉繇
(りゅうよう)
太史慈
(たいしじ)
張英
(ちょうえい)
許劭
(きょしょう)

揚州の刺史

劉繇の家臣

劉繇の重臣

劉繇の相談役の人相見



「ふむ? 孫静に袁術のもとから援軍が送られただと?」
劉繇
(りゅうよう)


「ああ。孫堅の子・孫策の率いるおよそ3千が孫静と合流し、こちらに進軍してきている」
太史慈
(たいしじ)


「さ、3千だと。はっはっはっ! たかが3千で我々と戦おうというのか!」
張英
(ちょうえい)


「張英、そう笑っては気の毒だ。
彼らは命を賭して我々と戦お……さ、3千で、我々と戦お、ぶふぉ。ぶふぉふぉふぉふぉふぉふぉふぉ!」
劉繇
(りゅうよう)


「孫策という男、子供の頃に人相を見たが、好戦的で野卑な印象を受けた。
どうやらそのまま大人になってしまったようだな」
許劭
(きょしょう)


「ぶふぉふぉふぉふぉふぉふぉふぉ! いやいや、笑ってばかりもいられんな。
張英、1万の兵を預ける。孫策殿を丁重に出迎えて差し上げなさい」
劉繇
(りゅうよう)


「さすがは殿、たった3千の兵にも礼を惜しみませんな。手厚くもてなしますとも!」
張英
(ちょうえい)



牛渚(ぎゅうちょ)の要塞 孫策軍

孫静
(そんせい)

孫策の叔父


「劉繇という男、傲慢だが決して無能ではない。1万もの大軍で迎撃に出てきたか」
孫静
(そんせい)


「あわよくば我々を踏みつぶした勢いで、そのまま揚州に攻め入ろうと考えているのだぞ」
張紘
(ちょうこう)


「だったら踏みつぶされる前に、こっちから踏みつぶしてやろうぜ!」
孫策
(そんさく)


「ええ。正々堂々と正面から打ち破ります。旦那様はごゆるりとご見物ください」
程普
(ていふ)


「そうはいかねェぜ程普。これはオレにとって初陣なんだ。
オレが先頭切って戦わねェでどうすんだよ!」
孫策
(そんさく)


「よく言った艦長! 背中は俺が守ってやるから安心して戦ってくれ!」
韓当
(かんとう)


「これが孫家の新たな船出だ! 野郎ども、面舵いっぱい! 突撃するぜ!!」
孫策
(そんさく)



牛渚(ぎゅうちょ)の要塞 劉繇軍



「三倍の兵力の我々に対して正面攻撃だと!? 孫策め、気が違ったか」
張英
(ちょうえい)


「無策で向かってくるのは歓迎すべきだが……しかしご覧あれ。
孫策を迎えた孫家の兵の士気は、天を突かんばかりに高まっている。
あれと正面からぶつかるのは得策ではありますまい」
太史慈
(たいしじ)


「何を弱気なことをぬかすか! これは袁術と戦う前の予行演習に過ぎん。
先鋒の樊能(はんのう)、于糜(うび)に迎撃させろ!」
張英
(ちょうえい)


(あれほど意気軒昂とした軍は見たことがない。この戦い、ひょっとするとひょっとするぞ……)
太史慈
(たいしじ)



牛渚(ぎゅうちょ)の要塞前 戦場

樊能
(はんのう)
于糜
(うび)

劉繇の将

劉繇の将



「我こそは劉繇軍にその人ありと知られた猛将・樊能!」
樊能
(はんのう)


「オレこそは孫策軍の総大将・孫策だ! いざ尋常に勝負しろや!」
孫策
(そんさく)


「むう? 貴様、素手で俺と戦うつもりか?」
樊能
(はんのう)


「素手じゃねェ。オレの右手はモリ、左手はイカリだ!」
孫策
(そんさく)


「何を訳のわからんことを! 死ね孫策!!」
樊能
(はんのう)


「モリの一撃、喰らいなッ!!」
孫策
(そんさく)


「ぐふぉぉっ!?」
樊能
(はんのう)


「し、手刀で樊能の首をえぐっただと!?」
于糜
(うび)


「次はお前か!?」
孫策
(そんさく)


「こ、こいつめ!」
于糜
(うび)


「今度は左手、イカリが喰い込むぜェ!」
孫策
(そんさく)


「ば、馬上で首絞めとは……がああああああ!」
于糜
(うび)


「樊能と……ええと、誰だっけこいつ? とにかく二将討ち取ったぜ!」
孫策
(そんさく)


「徒手空拳で敵将を討ち取るとは……なんでもありだなうちの殿は」
朱治
(しゅち)


「敵は泡を喰ったぞ! 蹴散らせえ!」
黄蓋
(こうがい)



牛渚(ぎゅうちょ)の要塞 劉繇軍



「は? 孫策が? 素手で? 二人を?
何を言ってるのだお前は! 寝言は寝てから言え!」
張英
(ちょうえい)


「いや張英殿。いまの伝令の報告がもし本当のことならば……」
太史慈
(たいしじ)


「本当のわけがあるか! 素手で樊能や于糜を殺せる奴がいるものか!」
張英
(ちょうえい)


「それではなぜ前衛は大混乱に陥っているのだ! このままでは全軍が崩壊するぞ!」
太史慈
(たいしじ)


「むむむむむむむ」
張英
(ちょうえい)


「ここはいったん牛渚(ぎゅうちょ)の要塞に退却し、態勢を立て直すべきだ。
兵力差を盾に籠城すれば……いや、遅かったようだな」
太史慈
(たいしじ)


「ああっ! ぎ、牛渚の要塞が燃えているぞ! これはどうしたことだ太史慈!?」
張英
(ちょうえい)


「ただの正面攻撃ではなかったということだ。孫策……恐るべき男だ」
太史慈
(たいしじ)



牛渚(ぎゅうちょ)の要塞

蒋欽
(しょうきん)

孫策の家臣



「おう! ご苦労だったな呂範、蒋欽!」
孫策
(そんさく)


「孫策をおとりにしての、要塞への奇襲攻撃。上手くいったものだな。
だが我々が要塞に火を放つより前に、敵は大混乱していたようだ。何かあったのか?」
呂範
(りょはん)


「聞いて驚くなよ! 艦長が素手で敵将を二人も討ち取ったんだ!」
韓当
(かんとう)


「おお! さすがは孫策どんでごわす!」
蒋欽
(しょうきん)


「……あいかわらず非常識なことだ」
呂範
(りょはん)


「何を喜んでおるか!  素手で戦場に臨むなぞ、君主のやることではないわ!」
張昭
(ちょうしょう)


「はっはっ。張昭みてェにごてごて鎧兜つけてたら動きにくくってしかたねェからよ」
孫策
(そんさく)


「ワシは頭脳労働が務めだからな。自ら槍をとって戦うことはない。
流れ矢への対策に防備を重点的に固めるのは当然だ。
……いやいや待て。武器を持たないことの理由にはなっておらんぞ!」
張昭
(ちょうしょう)


「つまり旦那様は鍛え上げられた肉体そのものが武器なのです」
程普
(ていふ)


「てェこった。そんなことより、劉繇軍の様子はどうなってやがる?」
孫策
(そんさく)


「全軍、本拠地の曲阿(きょくあ)まで退却したぞ。今度は劉繇自ら報復に出てくるぞ」
張紘
(ちょうこう)


「上等だ。まとめて蹴散らしてやろうぜみんな!」
孫策
(そんさく)


「「「「おう!!!!」」」」
黄蓋
(こうがい)
程普
(ていふ)
韓当
(かんとう)
蒋欽
(しょうきん)





かくして孫策は初陣を大勝利で飾った。
だが南の名族・劉繇もこのままでは引き下がらない。
妖しげな怪人物と手を組み、反撃の機会を虎視眈々と窺っていた。




〇二二   江東の小覇王