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三 国 志

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〇二六   呂布、最後の戦い 後編





徐州(じょしゅう)下邳(かひ)城 曹操陣営



「曹洪君。夏侯惇君が敗れたそうだね」
曹操
(そうそう)


「高順の奇襲を受けていったん下がっただけだ。
曹操様がからかってくるだろうから、戦略的撤退だと言ってやれ、とのことだ」
曹洪
(そうこう)


「僕の嫌味が予測できるなら、まだ余裕はありそうだね。
援軍は必要ないだろうからそのままがんばれと伝えてくれたまえ」
曹操
(そうそう)


「……また夏侯惇の血圧が上がりそうだな」
曹洪
(そうこう)


「荀攸君、下邳城の呂布君の様子は?」
曹操
(そうそう)


「ときおり城門を開いて中から打って出てきますが、我々に一撃を加えるとすぐに退却します。
そのため警戒して包囲の輪が少し遠巻きになっています」
荀攸
(じゅんゆう)


「これだけ包囲が緩くなっては、城内への補給を遮断することもできないぞ。
兵糧攻めは無理だ」
韓浩
(かんこう)


「そうみたいだね。しかし相手が呂布君では怖がるなというのも無理だろう。
荀彧君、なにか打つ手はないかな」
曹操
(そうそう)


「……あるにはありますが、正直言ってあまり使いたくない手です」
荀彧
(じゅんいく)


「それなら遠慮なく言ってくれそうな郭嘉君に聞くとしよう」
曹操
(そうそう)


「水」
郭嘉
(かくか)


「……なるほど水攻めか。たしかに兵は呂布君を恐れるが、水は何者をも恐れない」
曹操
(そうそう)


「しかし水攻めは兵はもちろん民をも苦しめます」
荀彧
(じゅんいく)


「呂布君ならばそのあたりの配慮はしてくれると期待できる。
僕たちも食料や薬、住居の確保など戦後の手当ては厚くしよう。それでいいかい荀彧君?」
曹操
(そうそう)


「あはは。もとより私は殿の考えに異は唱えませんよ。
ましてや、殿はもう呂布との戦いではなく、その後のことをお考えだ。
戦の先のことを考え、敵の民のことまで思いやる。もはや勝ったも同然ですな!」
荀彧
(じゅんいく)



徐州(じょしゅう)下邳(かひ)城内




「……jslas908ll;」
呂布
(りょふ)


「私は島国で育ちました。水は友人であり、恐るべき敵でした。
しかしこのように水が悪意を持って襲いかかってきたのは初めてです」
陳宮
(ちんきゅう)


「これでは城外からの補給も、外にいる高順たちとの連携も無理だ。
こっちから打って出ることもかなわねえ。八方ふさがりだ」
楊奉
(ようほう)


「いえ、兵の士気は高く、領民も今のところは落ち着いています。
木材を調達して小さな舟を造れば、状況を打開できます」
成廉
(せいれん)


「……のんきなことだ。舟ができあがる前に餓死するか、溺れ死ぬかに決まってる」
侯成
(こうせい)


「侯成! やる前から諦めるな!
呂布将軍がいらっしゃる限り、逆転の目は常にあるのだ!」
成廉
(せいれん)


「…………」
侯成
(こうせい)



下邳城内 侯成 自室

魏続
(ぎぞく)
宋憲
(そうけん)

呂布の配下

呂布の配下



「簡単な話だ。呂布がいなくなりゃいいんだ」
魏続
(ぎぞく)


「俺たちはよくも悪くも呂布の武勇が頼りだからな。
呂布さえ倒れれば、ひとたまりもねえ」
宋憲
(そうけん)


「……だがあの呂布をどうやって倒す?
正味な話、俺たちや部下が何人集まってもあいつを殺すのは無理だ」
侯成
(こうせい)


「寝込みを襲ったらどうだ?」
宋憲
(そうけん)


「……それで殺せる自信があるならやってみろ」
魏続
(ぎぞく)


「い、いや遠慮しとく」
宋憲
(そうけん)


「酒で酔い潰そうにも、あいつは戦いの最中には一切飲まねえし……」
侯成
(こうせい)


「待て! 誰だそこにいるのは!」
魏続
(ぎぞく)


「話は聞かせてもらった。安心しろ、私は味方だ」
陳登
(ちんとう)


「お前も反乱に加わるつもりか?」
侯成
(こうせい)


「反乱などするつもりはない。……いや、そうあわてるな。
わざわざ反乱など起こさずとも、呂布は殺せると言っているのだ」
陳登
(ちんとう)



徐州 下邳城



「shkllsai9779k!?」
呂布
(りょふ)


「侯成に魏続、宋憲らが舟で城を抜け出し、敵に囲まれただと?」
陳宮
(ちんきゅう)


「馬鹿な。これは罠だ。罠に決まっている!
奴らは曹操に寝返ったのです!」
成廉
(せいれん)


「……jslsdf98jasoi」
呂布
(りょふ)


「ミ、ミスター侯成は窮地を救うため、命がけで脱出したのかも知れません」
陳宮
(ちんきゅう)


「呂布将軍! 彼らは不満を募らせていました。
これはあなたを陥れようと――」
成廉
(せいれん)


「ksdflsdo;:k898」
呂布
(りょふ)


「しかし彼らは私の部下です。そして私に助けを求めているのです。
それを見殺しにすることは紳士の行いではありません。
ましてや彼らは三人もいるのです!」
陳宮
(ちんきゅう)


「将軍……あなたはどこまで馬鹿なのだ」
成廉
(せいれん)


「sahjlla9787ksl;」
呂布
(りょふ)


「みなさんに迷惑はかけられません。私は単身で彼らを助けに行きます。
上手く私が帰ることができたら、戦いを続けましょう。
もし帰らなければ、ミスター曹操に降伏してください」
陳宮
(ちんきゅう)


「……将軍! 私もおともします!」
成廉
(せいれん)


「無論、私もです」
陳宮
(ちんきゅう)


「…………」
呂布
(りょふ)



徐州 下邳城 曹操陣営




「陳登君の言葉は本当だったようだね」
曹操
(そうそう)


「ま、まさか呂布があのような見え見えの策にかかるとは」
荀攸
(じゅんゆう)


「いかに呂布でもあれっぽっちの兵で、それも水の上で何ができるものか。
ほれ、あっさり包囲されてしまったぞ」
程昱
(ていいく)


「……愚かな」
韓浩
(かんこう)


「たしかに愚かだ。でも見たまえ。
彼らは裏切ったとわかっている侯成君たちを救うために、本気で戦っている。
なんと愚かで、なんと美しい主従なんだろう……」
曹操
(そうそう)



曹操陣営 医務室




「……ここは?」
張遼
(ちょうりょう)


「気がついたかい張遼君。ここは僕の陣営だよ」
曹操
(そうそう)


「あんた、曹操だな。オレは捕らえられたのか……」
張遼
(ちょうりょう)


「手荒な真似をして悪かったね。君は生け捕りにしたかったんだ」
曹操
(そうそう)


「あんだけ殴られて生きてるほうが奇蹟だぜ。
……で、他の連中はどうした? 高順は? 陳宮は? 成廉は?」
張遼
(ちょうりょう)


「みんな死んだよ」
曹操
(そうそう)


「そうかい。呂布将軍の後を追ったか。
侯成なんかに騙されてよ。最後まで大馬鹿野郎だよあの人は」
張遼
(ちょうりょう)


「呂布君が戦死したと聞くや、君たちは戦意を喪失したみたいだね」
曹操
(そうそう)


「あったりめーだ。オレたちはあの人に惚れ込んでついてったんだからよ。
あの人がいなくなっちまったら何の意味もねーんだ。
侯成とか一部の馬鹿だけだよ、あの人に歯向かったのは」
張遼
(ちょうりょう)


「その呂布君を失って、君はこれからどうするんだい?」
曹操
(そうそう)


「白々しいことを……。あんた、人材を集めるのが趣味なんだろ。
それでオレを生け捕りにして、部下にしようって考えてやがるんだ」
張遼
(ちょうりょう)


「その通りさ。部下になってくれるかい?」
曹操
(そうそう)


「へっ。呂布将軍とは別の意味で素直なヤローだ。
断りてーところだが、高順にも言われちまった。
お前はまだ若い。生き延びろ。呂布軍の残党は侯成には任せられない。お前が率いろ、ってな」
張遼
(ちょうりょう)


「…………」
曹操
(そうそう)


「しかも高順のヤロー、オレを殴りやがった!
オレが無駄に抵抗して死なねえように、あいつがオレを気絶させたんだ!
まったく、どいつもこいつもよ……」
張遼
(ちょうりょう)


「臧覇(ぞうは)君も僕に降ってくれた。
今後は君と臧覇君に、呂布軍の残党を任せるよ」
曹操
(そうそう)



一日前 曹操陣営 牢獄




「…………」
呂布
(りょふ)


「気分はどうだい? 呂布君」
曹操
(そうそう)


「!?」
呂布
(りょふ)


「ああ、少しだけど君の国の言葉を話せるんだ。
若い頃に陳宮君と付き合いがあって、君の国の言葉を習ったからね。
ゆっくりなら理解できると思うよ。二人きりだからのんびり話そうじゃないか」
曹操
(そうそう)


「それではまずお願いがあります。私の部下と、徐州の民を許してください。
この戦いは私が始めたもので、彼らに責任はないのです」
呂布
(りょふ)


「わかった。許そう」
曹操
(そうそう)


「ミスター侯成たちを厚遇してあげてください。
彼らは私に不満を抱きやむをえず寝返ったのです。全ては私が悪いのです」
呂布
(りょふ)


「わかった。厚遇しよう」
曹操
(そうそう)


「ありがとうございます」
呂布
(りょふ)


「それで、君はどうしたいんだい? 僕は君自身の話を聞きたいんだ」
曹操
(そうそう)


「私は負けたのです。敗軍の将に語ることはありません」
呂布
(りょふ)


「わかった。じゃあ君を解放しよう」
曹操
(そうそう)


「それはいけません! ミスター曹操、私を斬りなさい。
私の存在はいつかあなたを危機に陥れます。
あなたは皇帝を擁し、覇道を歩むのでしょう? それならば私の存在は邪魔なだけです」
呂布
(りょふ)


「……何も恐れず、何も望まず、何も傷つけない。
そんな君がどう邪魔になると言うんだい?」
曹操
(そうそう)


「私が一つだけ自負していることがあります。それはこの武勇です。
私の強大すぎる武勇を悪用しようと考える人は跡を絶ちません。
そうして私は故郷を去り、この地に流れ着いたのです」
呂布
(りょふ)


「しかし、君の運命は変わらなかった」
曹操
(そうそう)


「……知らない土地で過ごすためには誰かの助けが必要でした。
はじめはミスター丁原でした。彼を手伝いました。
彼が死に、ミスター董卓を手伝いました。しかし彼は紳士ではありませんでした」
呂布
(りょふ)


「君は斬れすぎる剣だ。収めるべき鞘をも両断し、どこにも留まることができない」
曹操
(そうそう)


「だから私を殺しなさいと言っているのです」
呂布
(りょふ)


「わかった。殺そう」
曹操
(そうそう)


「よくぞ決意してくれました。私はあなたを恨みません。
むしろ感謝しています。私を止めてくれてありがとうございます」
呂布
(りょふ)


「ああ。呂布は死ぬ。ここで死ぬんだ」
曹操
(そうそう)



二日後 徐州西部




「…………」
呂布
(りょふ)


(呂布は死んだ。呂布と名乗っていた男はここで死んだ。
僕の前にいるのは、名前も知らない異人だ。
この国の皇帝に代わって命じる。異人よ、故郷へ帰りたまえ)
曹操
(そうそう)


(…………アルトリウス、それが私の名です)
呂布
(りょふ)


(わかった。アルトリウス、さらばだ)
曹操
(そうそう)


「…………」
呂布
(りょふ)


「将軍!」
陳宮
(ちんきゅう)


「!?」
呂布
(りょふ)


「本当にご無事だったのですね。曹操を疑うわけではないが、本当に我々やあなたを解放するとは思わなかった」
陳宮
(ちんきゅう)


「だが、我々はもう死人だそうです。死人に居場所はない、国外へ去れとのことだ」
高順
(こうじゅん)


「呂布将軍のお供ができるなら、どこへなりとついていきましょう」
成廉
(せいれん)


「…………」
呂布
(りょふ)


「それなら成廉や高順殿にも、将軍の国の言葉を覚えていただかないといけませんな」
陳宮
(ちんきゅう)


「…………アーサー」
呂布
(りょふ)


「え?」
陳宮
(ちんきゅう)


「sadfhklsa98as;;jh」
呂布
(りょふ)


「親しい者はアーサーと私を呼びました。呂布と名乗っていた男は死んだのです。
ぜひこれからはそう呼んでください」
陳宮
(ちんきゅう)


「わかりました。今後はそういたします」
高順
(こうじゅん)


「アーサー、我々はあなたに仕える騎士です。
あなたを王のように敬い、命をかけて守りましょう」
成廉
(せいれん)


「アーサー王か。それはいい。
一度死んだ身の我々には恐れるものなどない。
アーサー王を本当に王位につけるまで盛り立てようぞ!」
高順
(こうじゅん)


(…………神よ、感謝します。彼らに出会えたことを)
呂布
(りょふ)


「あ、化粧を取られるのですか?」
陳宮
(ちんきゅう)


「ええ。もう自分を偽る必要はありませんから……」
アーサー王





かくして呂布は死んだ。
かつて呂布と名乗った男とその騎士はのちに伝説となるが、それは別の話である。
一方、各地に割拠していた群雄たちにも滅びの時が訪れようとしていた。




〇二七   世に英雄は二人きり