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三 国 志

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〇二八   偽帝の末路





揚州(ようしゅう) 寿春(じゅしゅん)の都

張勲
(ちょうくん)
紀霊
(きれい)

袁術の家臣

袁術の家臣



「劉備と曹操の連合軍が迫ってきてるザンスって!?」
袁術
(えんじゅつ)


「はい! その数およそ5万!」
張勲
(ちょうくん)


「5万ザンスか……。呂布に負ける前だったら屁でもなかったザンスが、
今のミーの兵力では微妙ザンスよね、周瑜? ……周瑜?」
袁術
(えんじゅつ)


「周瑜殿ならば、陛下の指示で視察に出ています」
紀霊
(きれい)


「ミーの指示で? そんな指示出したザンスかね?
まあそれならすぐに帰ってくるザンスね。
周瑜が帰るまでは打って出てはダメザンス。それと孫策や袁紹を援軍に来させるザンス!」
袁術
(えんじゅつ)



揚州 北部 劉備軍

麋芳
(びほう)

麋竺(びじく)の弟



「まったくどうなってんのよ? 国境線どころか、前線を簡単に突破できちゃったわ。
袁術軍は閉じこもってばかりでろくに応戦してこないみたいじゃない」
張飛
(ちょうひ)


「さてはわしが怖くて出てこられないんじゃな!」
劉備
(りゅうび)


「仮に怖がってるとしてもそれはアンタじゃなくてアタイや関羽だと思うわよ」
張飛
(ちょうひ)


「ヒッヒッヒッ。抵抗しないならば好都合だ。思うままに蹂躙してやろう。
もし抵抗するならば殲滅するだけだがな」
朱霊
(しゅれい)


「……どうせそれをやるのはアタイたちなんでしょ」
張飛
(ちょうひ)


「ここまで袁術軍が無抵抗ならば我々が力を貸すまでもない」
朱霊
(しゅれい)


「たいした援軍だのう」
簡雍
(かんよう)


「報告アル。前方に袁術軍の主力が集結しているようアルが……」
麋芳
(びほう)


「ですが? 何かあったのか」
劉備
(りゅうび)


「あるアル。袁術軍は何者かにすでに襲撃され、大混乱に陥ってるアル」
麋芳
(びほう)


「好機だ! 混乱に乗じて袁術軍を殺戮せよ!」
朱霊
(しゅれい)


「……アタイたちが殺戮すんのよね?」
張飛
(ちょうひ)


「無論だ。混乱している相手など我々が助力するまでもあるまい」
朱霊
(しゅれい)


「はいはい。なるべく兵を消耗したくないのよね曹操サマは」
張飛
(ちょうひ)


「…………ッ!」
関羽
(かんう)


「ほれほれ、関さんはニンジンを見つけた馬みたいに飛びかかって行ったぞ。張さんも早く行かんか!」
劉備
(りゅうび)


「まったくアンタらは! アンタらと来たら!!」
張飛
(ちょうひ)



揚州 北部 袁術軍



「ヒャッホー! 略奪だぜえっ!」
雷薄
(らいはく)


「昨日の友は今日の敵ってな! 悪いが飯の種を奪わせてもらうぜ!」
陳蘭
(ちんらん)


「おのれ陳蘭に雷薄め!
呂布との戦いで軍を捨てて逃げ帰っただけではなく、我らを襲撃するとはな!」
張勲
(ちょうくん)


「将軍! 劉備軍も攻めかかってきます!」
紀霊
(きれい)


「これでは勝負にならん! 退け! 退けーい!」
張勲
(ちょうくん)


「…………ッ!!」
関羽
(かんう)


「関羽か! ここは通さんぞ!」
紀霊
(きれい)


「ッッ!!」
関羽
(かんう)


「ぐわあっ!!」
紀霊
(きれい)


「口ほどにもないわねアンタら!」
張飛
(ちょうひ)


「退けい! 退けーい!!」
張勲
(ちょうくん)



揚州 寿春

劉馥
(りゅうふく)

袁術の家臣



「周瑜はまだ帰らないザンスか!?
袁紹は!? 孫策の援軍は!?」
袁術
(えんじゅつ)


「袁紹殿のもとに向かわせた使者は、すべて旧呂布軍によって捕らえられたようです。
奴らはさらに北上して、袁紹殿の軍とにらみ合っており、援軍は望み薄かと……」
張勲
(ちょうくん)


「それなら孫策は何をしてるザンスか!?」
袁術
(えんじゅつ)


「孫策はかつてお借りした兵を十倍にしてお返ししたいと申し出てきましたが……」
張勲
(ちょうくん)


「やったザンス! 3千を貸したから3万になって返ってくるザンスよ!」
袁術
(えんじゅつ)


「そ、それが3万の兵は我々に向けて槍や矢を向けたまま動かず、どうやら返すというのは名ばかりで、
攻撃こそしてこないものの我々に協力する気はないようです」
張勲
(ちょうくん)


「…………し、周瑜は?」
袁術
(えんじゅつ)


「その3万の兵を率いているのが周瑜です」
張勲
(ちょうくん)


「なんなんザンスかその三段落ちは!?
許さないザンス! 周瑜も孫策も曹操も劉備もみんな殺してやるザンス!!」
袁術
(えんじゅつ)


「そ、そうしたいのはやまやまですが、我々にはもうそれほどの兵力は……」
張勲
(ちょうくん)


「ぬぬぬぬぬぬぬ」
袁術
(えんじゅつ)


「なあ陛下、こうなったら覚悟を決めましょうや」
劉馥
(りゅうふく)


「な、なんの覚悟ザンスか?」
袁術
(えんじゅつ)


「曹操に降伏するんですよ。
玉璽(ぎょくじ)を差し出せば、命までは取らないでしょうや」
劉馥
(りゅうふく)


「ぎ、ぎ、玉璽を!? ふ、ふざけるなザンス!!」
袁術
(えんじゅつ)


「ハンコと命を引き換えにするんですかい?」
劉馥
(りゅうふく)


「玉璽はミーの魂ザンス! 誰にも渡さないザンス!」
袁術
(えんじゅつ)


「そうですかい。あっしの首と玉璽で、陛下の助命を頼もうと思ったんですがね。
じゃあ残念だが、もうあっしにできることはありやせん。
ここでお別れしますわ。今までお世話になりやした」
劉馥
(りゅうふく)


「ユーの顔なんて見たくないザンス! さっさと消えるザンス!
あ! ま、待つザンス!
今までくれてやった褒美は全部置いていくザンス!」
袁術
(えんじゅつ)


「言われなくてももう、あっしの家に全部まとめてありやすよ。
それじゃあどちらもお元気で……」
劉馥
(りゅうふく)


「ち、ち、張勲! 塩をまくザンス!
あと周瑜と孫策と曹操と劉備の首を持ってくるザンス!」
袁術
(えんじゅつ)


「それができたら世話はない……」
張勲
(ちょうくん)



揚州 北部 劉備軍




「袁術は財宝だけ持ってとんずらこいたみたいね」
張飛
(ちょうひ)


「主だった将はほとんど討たれたからな。抵抗する力なんて無いんだろうよ」
楊奉
(ようほう)


「ククククク……。偽帝め、逃がしはせぬぞ。
昼夜を分かたず追い詰め、追い込み、追い打ちするのだ!
袁術にこの世の地獄を見せてやれ!」
朱霊
(しゅれい)


「それをわしらの軍がやるんじゃな?」
劉備
(りゅうび)

「無論だ。兵糧と武器は供出してやる。
褒美は思いのままだ。行け」
朱霊
(しゅれい)


「褒美は曹操が出すんだろうな」
簡雍
(かんよう)


「この男、自分では何もしないのね」
張飛
(ちょうひ)



「私は人を使うことにかけては天才的だからな。さあ、行け」
朱霊
(しゅれい)


「…………」
関羽
(かんう)



揚州 南部 袁術軍




「…………」
袁術
(えんじゅつ)


「昼も夜も劉備や曹操、陳蘭らに追い回され、部下はみな逃げ散ってしまった。
せっかく持ち出した財宝も残らず奪い去られた……」
張勲
(ちょうくん)


「…………」
袁術
(えんじゅつ)


「そのくせ玉璽だけは肌身離さず持っておられる。
金銭的な価値はほとんど無いだろうに。見上げた根性だ……」
張勲
(ちょうくん)


「……ハチミツ舐めたい」
袁術
(えんじゅつ)


「はいはい。水なら少しはありますよ」
張勲
(ちょうくん)


「やだ。ハチミツ」
袁術
(えんじゅつ)


「ありません。
陛下は全てを失い幼児退行してしまったようだ……」
張勲
(ちょうくん)


「ぐすん。ハチミツ舐めたい」
袁術
(えんじゅつ)


「うるせえ! 無えつってんだろ!!」
張勲
(ちょうくん)


「ハチミツハチミツハチミツハチミツハチミツハチミツ……」
袁術
(えんじゅつ)


「ハ・チ・ミ・ツ~~~~!!!!!」
袁術
(えんじゅつ)


「……これが皇帝にまでなった男の断末魔とはな。
やれやれ。だがこれで玉璽は俺の物となった。
これさえあれば、命をつなぐこともできるだろう」
張勲
(ちょうくん)


「ほう、それが玉璽か」
??
(??)


「だ、誰だ!?」
張勲
(ちょうくん)


「貴様にはもったいない代物だ。余が預かってやろう」
??
(??)


「ガキが! 俺をなめるなよ!」
張勲
(ちょうくん)


「黙れ脇役。死ね」
??
(??)

「はい、殺すです」
??
(??)


「ぐわああああッ!!」
張勲
(ちょうくん)


「……あっさり殺しすぎだ貴様」
??
(??)

「死ねと仰せでしたので殺しただけです」
??
(??)


「違う。余をガキ呼ばわりした者を、何故もっと苦しませてから殺さぬ?」
??
(??)

「申し訳ありませんです。御主人様は実際にガキですから悪口とは気づきませんでした」
??
(??)


「貴様も死ね」
??
(??)

「嫌です」
??
(??)


「余の命令には絶対服従ではなかったのか」
??
(??)


「嫌です」
??
(??)


「……使えぬ従者だ」
??
(??)



許昌(きょしょう)の新都

王子服
(おうしふく)

皇帝の側近



「あれだけの勢力を誇った袁術も、あっさり敗れ去ったか」
董承
(とうじょう)


「しかも自分では手を下さず、戦はもっぱら劉備殿の軍に任せたそうだ」
王子服
(おうしふく)


「曹操の権力も軍事力も日増しに強くなっている。
これではいつ陛下の地位も脅かされることか……」
董承
(とうじょう)


「おやおや、陛下を害しようとした人間の言葉とは思えないね」
王子服
(おうしふく)


「だからこそ言っているのだ。
私は陛下の温情により生き永らえているだけだ。
謀叛人の私を許して下さった陛下を守り、御恩に報いなければならない」
董承
(とうじょう)


「殊勝な心がけだね」
王子服
(おうしふく)


「私の謀叛未遂は曹操も知っている。
陛下の地位が曹操に脅かされることになれば、それはすなわち私の身の危険にもつながる」
董承
(とうじょう)


「……前言を撤回しよう」
王子服
(おうしふく)


「王子服、お前にとっても他人事ではないのだぞ。
曹操が実権を握れば、お前のような家柄の良さだけで禄を食んでいる人間に居場所はなくなるのだ」
董承
(とうじょう)


「それはご親切にどうも。
……要するに君は、僕を何かの計画に抱き込みたいのかな?」
王子服
(おうしふく)


「ああ。曹操を暗殺する」
董承
(とうじょう)


「大きく出たね。勝算はあるのかい?」
王子服
(おうしふく)


「もちろんだ。手伝ってくれるな王子服よ」
董承
(とうじょう)


「聞いてしまったからには、断れば僕を殺すつもりだろう?
君に殺されるくらいなら、曹操に殺されたほうがマシだ。手伝うよ」
王子服
(おうしふく)


「案ずるな。私の計画は完璧だ……」
董承
(とうじょう)





かくして偽帝・袁術は無惨な最期を迎えた。
覇権をめぐる趨勢はいよいよ定まりつつあったが、
曹操の背後には董承の陰謀が迫っていた。




〇二九   曹操暗殺計画