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三 国 志

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〇二九   曹操暗殺計画





許昌(きょしょう)の新都 曹操邸

曹沖
(そうちゅう)
吉平
(きっぺい)

曹操の子

曹操の典医



「曹操様、お加減はいかがですか?」
吉平
(きっぺい)


「ああ、いつもの頭痛が起こってるよ。
これじゃあろくに考えもまとまらない。早く君の薬を飲ませてくれ」
曹操
(そうそう)


「はい。今日は特製の薬を処方して参りました。
こちらをどうぞ」
吉平
(きっぺい)


「ほう、新しい薬かい。それは楽しみだ」
曹操
(そうそう)


(クックックッ……。一滴だ。
ほんの一滴、口に含めばお前は最期だ)
吉平
(きっぺい)


「父上、ちょっとすみません」
曹沖
(そうちゅう)


「うん? どうした曹沖君」
曹操
(そうそう)


「それが先ほどから少し頭痛がしていまして……。
よろしければそのお薬を分けてはいただけませんか」
曹沖
(そうちゅう)


「あ……」
吉平
(きっぺい)


「なんだい吉平君?」
曹操
(そうそう)


「い、いえ。その薬、子供には、曹沖様には少しきついかもしれません」
吉平
(きっぺい)


「そうなのか。でも、子供が飲んだからといって死ぬわけじゃないだろう?」
曹操
(そうそう)


「え、ええ……」
吉平
(きっぺい)


「それではお先にいただいてもよろしいですか?」
曹沖
(そうちゅう)


(まずいぞ……。このガキが先に飲み、死んでしまったら、曹操が飲まなくなってしまう。
だ、だがたったの一滴でもいいから口に含ませればいいのだ。
曹沖が苦しむのに驚いたところで、この予備の薬を曹操の口に振りかければ……)
吉平
(きっぺい)


「吉平君? さっきからどうしたんだい。何か言いたそうじゃないか」
曹操
(そうそう)


「なんでもございません。ささ、早くお薬をどうぞ。よく効きますぞ」
吉平
(きっぺい)


「ああ、苦そうな匂いがしますね。ぼくにも飲めるかな……」
曹沖
(そうちゅう)


(ええい、さっさと飲まんかこのガキは!)
吉平
(きっぺい)


「待った」
曹操
(そうそう)


「ああ! そ、曹操様、どうしてお薬を捨てられるのですか!」
吉平
(きっぺい)


「吉平君。君は四つの間違いを犯した」
曹操
(そうそう)


「は?」
吉平
(きっぺい)


「一つ、君と董承君の関係はもうつかんでいる。
二つ、目的のためならば子供も構わず殺そうというのは感心しない。
三つ、曹沖君をただの子供とあなどってはいけない」
曹操
(そうそう)


「あなたは父上の症状を伺う前から、もう薬を用意してきていました。
こんな不思議なことがあるでしょうか。
その薬は、何か別の目的のために用意したと考えるのが自然でしょう」
曹沖
(そうちゅう)


「あ、あがががが……」
吉平
(きっぺい)


「そして四つ、これが最も大事なことだが……医者は人を治すのが本分だ。
それを忘れて僕らを殺そうとした君は、もはや医者でもなんでもない。
僕の典医のままならば僕を殺すこともできたかもしれないが、
ただの人である君には、僕は殺せないよ」
曹操
(そうそう)


「………………」
吉平
(きっぺい)



許昌(きょしょう)の新都 拷問所



「誰の差し金だ? 吉平とお前たちだけで企んだことではあるまい。黒幕がいるのか?
どうせお前らはここで死ぬのだ。白状しろ!」
許褚
(きょちょ)


「…………」
王子服
(おうしふく)


「く、黒幕などと無礼なことを言うな!
これは勅命だ! 献帝陛下が私に逆賊を討てと命じたのだ!」
董承
(とうじょう)


「勅命だと!?」
許褚
(きょちょ)


「そうだ。勅命を受けたのは私だけではない。
劉備や袁紹、孫策に劉表、馬騰……皆が陛下の命により曹操の首を狙っているのだ!」
董承
(とうじょう)


(やれやれ……。この男、最後の最後まで陛下に迷惑しか掛けなかったな。
どうせ死ぬのだからと皆を道連れにしようとしている)
王子服
(おうしふく)


「黙れ! 曹操様は陛下をお守りし、漢の世を推戴する忠臣であるぞ!」
許褚
(きょちょ)


「ぎゃあああああああ!!」
董承
(とうじょう)


「今の話を曹操様に報告してくる。お前たちは死体を片付けろ」
許褚
(きょちょ)


(先に首さえ斬られていなければ、董承を千の言葉で罵ってあげたかったな……)
王子服
(おうしふく)



徐州(じょしゅう)




「ご苦労であったな。我々は引き上げるが、車胄(しゃちゅう)や楊奉(ようほう)は残していく。
何かあれば連絡しろ」
朱霊
(しゅれい)


「ほいほい。自分のことでなければ気前がいいんじゃな」
劉備
(りゅうび)


「関羽のダンナ、オレも帰るけどよ、またいつか飲もうな!」
張遼
(ちょうりょう)


「…………(笑)」
関羽
(かんう)


「でもせっかく袁術から奪った揚州には兵を置かないの? 孫策に獲られちゃうわよ」
張飛
(ちょうひ)


「お前らの知ったことではない。さらばだ」
朱霊
(しゅれい)


「……あいつ絶対に友達少ないわよね」
張飛
(ちょうひ)


「要するに曹操軍には兵が足りないのだろう」
陳登
(ちんとう)


「おお、あんたはわしらが呂布に徐州を追われた時に呂布に降ったくせに、
あっさり曹操に寝返って今またわしの配下に戻った陳登じゃないか」
劉備
(りゅうび)


「ご紹介ありがとう。
話を戻すが、曹操軍には揚州にまで版図を広げる余裕が無いのだ。
青州黄巾軍30万を得たとはいえ、四方に敵を抱え、領土も広大だ。いくら兵があっても足りない」
陳登
(ちんとう)


「そのうえ袁紹との戦いを控えてるから、手元に少しでも兵力を温存しておきたいのね」
張飛
(ちょうひ)


「孫策も反乱軍や山越(さんえつ)族の鎮圧に明け暮れて、揚州にまで手が回らない。
曹操はこの徐州に多少の兵を残し、警戒だけしておくということだ」
陳登
(ちんとう)


「ふ~ん。ややこしいもんじゃな政治っつーのは。
陳さんも張さんもよく話の裏がわかるもんじゃ」
劉備
(りゅうび)


「いちおう劉ちゃんは刺史サマなんだから、そのくらいは理解しておいて欲しいもんだな」
簡雍
(かんよう)


「わはは。違いないのう」
劉備
(りゅうび)


「笑い事じゃないわよこの無能男が!」
張飛
(ちょうひ)



許昌の新都 宮廷



「曹操、朕は……」
献帝
(けんてい)


「おっと、それ以上は言わなくていいよ。
陛下が僕に敵意を持っていないことは知っている。全ては董承君の陰謀だろう。
それにもし陛下が関与していれば、もう少しマシな計画になっていたはずだしね」
曹操
(そうそう)


「…………」
献帝
(けんてい)


「だけど陛下の口から否定にしろ弁解にしろ発せられてしまったら、余計な波風が立ってしまう。
だから何も言わないでくれたまえ」
曹操
(そうそう)


「朕はあの時、董承を処刑しておくべきだったのだろうな」
献帝
(けんてい)


「陛下、それも言ってはいけない。
『綸言汗の如し』と言うとおり、陛下の言葉は絶対なんだ。
いったん口に出したことを取り消したり、後悔したりする必要はないよ」
曹操
(そうそう)


「……お前は朕よりも、皇帝の在り方について詳しいのだな」
献帝
(けんてい)


「おたわむれを。
話は前後するけど、董承君が名前を挙げた人々は、いちおう取り調べさせてもらうよ。
特に劉備君に関しては、この件を悪用させてもらう」
曹操
(そうそう)


「な、何をするつもりなのだ」
献帝
(けんてい)


「彼には消えてもらう」
曹操
(そうそう)


「!」
献帝
(けんてい)


「袁紹君と戦うために僕には徐州が必要なんだ。
劉備君には悪いけど、譲り渡してもらうよ」
曹操
(そうそう)


「お、叔父上は朕と親しく話してくれた。義兄弟もそうだ。本当に叔父のような気がしたのだ。
劉備を、その義兄弟もできれば殺さないでくれないか……」
献帝
(けんてい)


「命まで取るつもりはないよ。しかし、戦は何が起こるかわからない」
曹操
(そうそう)


「…………」
献帝
(けんてい)


「そんな顔をしないでくれたまえ。努力はするよ」
曹操
(そうそう)



徐州

関平
(かんぺい)

関羽の長子



「わしが? 陛下に? 謀叛を? 董承と? 組んで?
わっはっはっ。なんの冗談じゃそれは」
劉備
(りゅうび)


「あっはっはっ。何かの間違いでしょう。劉備殿ほど陛下に忠誠を誓っている方はいません」
糜竺
(びじく)


「殿の内心はどうあれ、謀叛の容疑を掛けられ討伐令が出たのは事実です!」
孫乾
(そんけん)


「………………」
糜竺
(びじく)


「………………それはまずいのう」
劉備
(りゅうび)


「まずいどころじゃないわよ! 曹操が来んのよ! すぐに逃げるわよ!」
張飛
(ちょうひ)


「ええー。わしは無実なのに逃げたくないのう」
劉備
(りゅうび)


「何をのんきなこと言ってんのよ! 見なさいよこの手配書を。
アンタ、帝位を狙ってるって曹操に言ったそうじゃないの。これマジで言ったの?」
張飛
(ちょうひ)


「言った」
劉備
(りゅうび)


「馬鹿じゃないの? いや、馬鹿なのね。三國無双の馬鹿なのね!」
張飛
(ちょうひ)


「でもいつか皇帝になりたいって話は、みんなにしょっちゅう言っとるけどなあ」
劉備
(りゅうび)


「曹操に言ったのがまずいのよ!」
張飛
(ちょうひ)


「まあわしと曹ちゃんの仲じゃから話せばわかるじゃろ」
劉備
(りゅうび)


「アンタと曹操の親密度がMAXでも無理よ! 回避不能イベントよ!」
張飛
(ちょうひ)


「曹操が来るより先に、徐州に駐屯しとる車胄と楊奉はどうする?
すぐに逮捕に来るぞ」
簡雍
(かんよう)


「その心配はない!」
関平
(かんぺい)


「…………」
関羽
(かんう)


「ち、ちょっと関羽! アンタが両手に提げてるその首って……」
張飛
(ちょうひ)


「車胄と楊奉の首だ。先手を打って彼らはこの関羽が討ち取った!
……と父は思っています」
関平
(かんぺい)


「あっちゃあ~。これでもう弁解は無理じゃのう。しかたない、逃げるか」
劉備
(りゅうび)


「もともと無理だって言ってるでしょ!
関羽、あいかわらずやることはむちゃくちゃだけど、今回はお手柄よ。
これで劉備のバカも腰を上げてくれたわ」
張飛
(ちょうひ)


「拙者は曹操に出頭し時間を稼ぐ。今のうちに逃げられよ!
……と父はそうも思っています」
関平
(かんぺい)


「……死ぬんじゃないわよ」
張飛
(ちょうひ)


「それで軍師の張さんや、どこに逃げればいいかのう?」
劉備
(りゅうび)


「都合のいい時だけ軍師サマなんだから……。
そうね、やっぱり袁紹を頼りましょう。曹操に対抗できるのはアイツくらいだわ」
張飛
(ちょうひ)


「わかった、そうしよう。
じゃあな関さん。悪いのう」
劉備
(りゅうび)


「…………」
関羽
(かんう)


「構わぬ。義兄上は大義のために生きられよ!
……と父は思っています」
関平
(かんぺい)



徐州




「なるほど、劉備君を逃がすために捨て石になったというわけか」
曹操
(そうそう)


「…………」
関羽
(かんう)


「否。曹操暗殺も車胄、楊奉の殺害も全てこの関羽が一存で成したこと。
劉備は関係ない。拙者を処罰せよ!
……と父は思っています」
関平
(かんぺい)


「いや、そうはいかない。首謀者は劉備君だ。
……怒らないでくれたまえ。そういうことにしておかなければ、君たちを助けられないじゃないか。
陛下に君たちを殺すなと言われてしまったんだ」
曹操
(そうそう)

「…………」
関羽
(かんう)


「劉備君は関羽君に罪をなすりつけ逃亡した。だから君たちを罪には問わない。
ああ、車胄君たちを殺したのはまずいな。それはどうしようか」
曹操
(そうそう)


「首」
郭嘉
(かくか)


「そうだね。首を獲った罪は、首を獲ることで償ってもらおうか。
関羽君、きたる袁紹君との戦いに力を貸してもらうよ。
そこで敵将の首を二つ挙げることで、罪は帳消しにしてあげよう」
曹操
(そうそう)


「…………」
関羽
(かんう)





かくして劉備は徐州を失い、関羽は曹操の手に落ちた。
一方、袁紹は着々と北地の攻略を進め、公孫瓚を追い詰めていた。
曹操と袁紹、いよいよ両雄の決戦は間近に迫っていた。




〇三〇   白馬の戦い