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三 国 志

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〇三〇   白馬の戦い





易京(えきけい)の要塞




「どくッス! 道を空けるッス! 公孫瓚先輩! 話を聞いてください!」
趙雲
(ちょううん)


「趙雲! 門を突破してまで何用だ! さては俺の首を奪い、袁紹に寝返るつもりだな!」
公孫瓚
(こうそんさん)


「そんなことはしないッス! 前線に置き去りにされたことも恨んでないッス!
自分はただ、ただ」
趙雲
(ちょううん)


「黙れ裏切り者め! お前ら、断じてここの門は開けるなよ!」
公孫瓚
(こうそんさん)


「自分はただ、先輩に一言お礼を言いたくて……」
趙雲
(ちょううん)


「射殺せよ!」
公孫瓚
(こうそんさん)


「くたばれ趙雲!」
厳綱
(げんこう)


「裏切り者を逃がすな!」

関靖
(かんせい)


「先輩……。今までお世話になりました……」
趙雲
(ちょううん)



徐州(じょしゅう)

許攸
(きょゆう)

袁紹の策士



「フン、やっと易京の要塞が落ちたか」
袁紹
(えんしょう)


「はい。地下から穴を掘りようやく城内へ忍び込むことができました。
公孫瓚とその一族の首は残らず挙げました」
田豊
(でんほう)


「公孫瓚ごときにここまで手こずらされるとはな」
審配
(しんぱい)


「誰かさんがもう少しマシな策を立てればこんなに苦戦はしなかったのだがのう」
逢紀
(ほうき)


「なんだと」
審配
(しんぱい)


「やめられよ。逢紀殿は別に審配殿のことだとは言っていない。
それより今は戦勝を祝おうではないか」
沮授
(そじゅ)


「デュフフwww 公孫瓚の一族の公孫度(こうそんど)、それに烏丸(うがん)族も拙者たちに降伏したしおすし。
もはや北方は拙者たちのものですなwww コポォwww」
許攸
(きょゆう)


「いやいや、名族の勢いは北方だけに留まるものではない。
かくなる上は――」
袁紹
(えんしょう)


「かくなる上は?」
袁譚
(えんたん)


「南方、すなわち逆賊・曹操を討伐し献帝陛下を奪回する!
そしてこの名族の威光があまねく天下を照らすのだ!!」
袁紹
(えんしょう)


「袁紹様バンザーイ! 名族バンザーイ!」
劉備
(りゅうび)


「………………」
許攸
(きょゆう)


「………………」
沮授
(そじゅ)



「ん? わしなんか、おかしなこと言ったかのう?」
劉備
(りゅうび)



許昌の新都

曹純
(そうじゅん)

曹仁の弟



「そうか、ついに袁紹君が動いたか。
優柔不断な男だが、決断するとさすがに早いね。全軍を挙げて南下してるって?」
曹操
(そうそう)


「はい。東の北海(ほっかい)方面から徐州へ袁譚が、
西の并州(へいしゅう)からは長安へ袁煕(えんき)が、そして袁紹自身は中央から白馬(はくば)を目指しています」
荀攸
(じゅんゆう)


「名族と名乗るにふさわしい正攻法の作戦だね。
正面から僕らを押しつぶす自信があるのだろう。
それじゃあ僕らも兵を割り振ろうか。まずは荀彧君」
曹操
(そうそう)


「はいはい」
荀彧
(じゅんいく)


「君には都の守りと僕が留守の間の政治を任せたよ」
曹操
(そうそう)


「わかりました。でも私だけでは間に合いません。
殿も二月に一度くらいは戻ってきていただけると助かります」
荀彧
(じゅんいく)


「ああ、そうするつもりだ」
曹操
(そうそう)


「お、おい。指揮官のお前がそんなに頻繁に前線から抜けるつもりか?」
夏侯惇
(かこうとん)


「そりゃあそうさ。袁紹君との戦いより、政治のほうが大変だからね。
それとも夏侯惇君は僕がいないと怖くて戦えないのかい?」
曹操
(そうそう)


「お前なんかいらねえよ! 見てろよ、お前が留守の間に袁紹の首を挙げてやる!」
夏侯惇
(かこうとん)


「それが一番助かる。ぜひよろしく頼むよ。
……つづいて徐州方面だね。そっちは曹純君と臧覇君に任せよう」
曹操
(そうそう)


「袁紹のドラ息子は引き受けました。殿は安心して戦ってください」
曹純
(そうじゅん)


「ガッハッハッ! 大船に乗ったつもりでいろ!」
臧覇
(ぞうは)


「徐州にはまた僕に降ってくれた陳登(ちんとう)君もいる。
彼は徐州と自分の身を守るためならなんでもするから、頼りにするといいよ。
西のほうは、長安に詰めている鍾繇(しょうよう)君に任せればいいだろう」
曹操
(そうそう)


「わかりました。伝えておきます」
董昭
(とうしょう)


「兵站はいつもどおり韓浩(かんこう)君に委ねるとして、他に何か打っておくべき手はあるかな?」
曹操
(そうそう)


「揚州(ようしゅう)」
郭嘉
(かくか)


「ふむ。がら空きの揚州に孫策君が手を出さないとは限らないね。
袁術君の残党も暴れているそうだし、なにか布石をしておくべきか。
それじゃあ、劉馥君」
曹操
(そうそう)


「へい」
劉馥
(りゅうふく)


「君は袁術君のもとにいたから、土地勘があるだろう。揚州に入り、地盤を固めてくれ」
曹操
(そうそう)


「わかりやした」
劉馥
(りゅうふく)


(降伏したばかりの無名なこの男をそんな大役に抜擢じゃと……。
あいかわらず殿はとんでもないことを考えおるわ)
程昱
(ていいく)


「悪いんだけど兵はあんまり回せないんだが……」
曹操
(そうそう)


「なあに、兵は300人も貸してくれれば十分でさあ」
劉馥
(りゅうふく)


「たったの300人だと?」
王朗
(おうろう)


「何か腹案があるみたいだね。君の好きなようにしたまえ。
兵は貸せない代わりに、副官には若手なら誰でも連れていってくれていいよ」
曹操
(そうそう)


「じゃあ温恢(おんかい)を貸してくだせえ」
劉馥
(りゅうふく)


「温恢? そんな奴いたか?」
曹洪
(そうこう)


「遺産を捨てて無一文で官吏になった彼か。いいよ、連れていきたまえ」
曹操
(そうそう)


「貧乏暮らしが長く続きそうなこの任務にゃあ、うってつけでやしょう?」
劉馥
(りゅうふく)


「もっともだ。
名前を挙げなかった諸君は、本隊として僕とともに白馬に向かってくれ。
袁紹君の兵は……そうだね、僕らの十倍はいるだろうから、
一人あたま十人を相手にするつもりでいてくれたまえ」
曹操
(そうそう)


「十倍か……! 面白い! 望むところだ!」
曹仁
(そうじん)


「そうそう孔融君、何か意見はあるかな?」
曹操
(そうそう)



「孔子曰く『袁紹は逆賊』と申す。この戦に反対はせぬ」
孔融
(こうゆう)


「孔融君のお墨付きももらった。大義は僕らにありというわけだね。
それじゃあ出発しようか」
曹操
(そうそう)


「おう! 先に行っているぞ!」
夏侯淵
(かこうえん)



白馬



「チッ……曹操のヤロー、俺たちをこんな最前線に飛ばしやがって。
誰のおかげで呂布を殺せたと思ってるんだ」
侯成
(こうせい)


「当てが外れちまったな」
宋憲
(そうけん)


「恩賞はもらったが、それだけで一生暮らせはしない。
軍人を続けるのはしかたないが、よりによって白馬への駐屯を命じられるとは……」
魏続
(ぎぞく)


「若僧の張遼や山賊の臧覇が呂布軍の残党を率いてるってのに、
なんで古参の俺たちがこんな扱いなんだよ!」
侯成
(こうせい)


「まあ逆に言えば大手柄を立てる好機でもある。
聞けば袁紹軍の先鋒は、顔良(がんりょう)と劉備だそうだ。
どちらも名の知れた将だ。どちらかの首を取れれば……」
宋憲
(そうけん)


「私にいい考えがある。
劉備はかつて呂布に徐州を奪われた。呂布を殺すきっかけを作った我々は、
いわば劉備のために徐州を取り戻してやった恩人だ」
魏続
(ぎぞく)


「その徐州はあっさり曹操に奪われてるけどな」
侯成
(こうせい)


「だが劉備は望んで袁紹陣営についたわけではない。
あの男は非常に単純な人間だという。
曹操に許してもらえるよう我々が取りなしてやると言えば、誘いに乗るのではないか」
魏続
(ぎぞく)


「そううまく行くか? だいいち俺たちが取りなしなんかできるのかよ」
宋憲
(そうけん)


「ただの方便だ。そのまま捕らえて曹操に突き出してやればいい。
もし誘いに乗らなければ、その場で殺すだけだ」
魏続
(ぎぞく)


「二段構えの策というわけか。
どちらに転んでも俺たちにとってはおいしい話だな」
侯成
(こうせい)


「おっ。早速おいでなすったようだぜ」
宋憲
(そうけん)


「よし、出陣だ! 劉備を狙うぞ!」
魏続
(ぎぞく)



白馬 北部



「ぐおおおおっ!」
魏続
(ぎぞく)


「うぎゃあああああっ!」
宋憲
(そうけん)


「く、クソが! 退け! 退けーーい!」
侯成
(こうせい)


「……なんだったのかしらアイツら」
張飛
(ちょうひ)


「全くけしからん連中じゃ!  袁さんを裏切れだと? わしと袁さんの友情をなんだと思っておる!」
劉備
(りゅうび)


「……ちょっと親切にされただけですっかり袁紹に心酔しちゃってるわね」
張飛
(ちょうひ)


「呂布に騙され、曹操に追われ、人間不信になってもおかしくないアルからな」
麋芳
(びほう)


「こいつはそんな繊細な人間じゃないわよ。単細胞なだけ」
張飛
(ちょうひ)


「さすがは名にし負う劉備殿! 曹操めの誘惑をはねつけ、間者を即座に斬り捨てるとはお見事!」
顔良
(がんりょう)


「魏続を斬ったのはアタイだけどね」
張飛
(ちょうひ)


「顔さんこそ、宋憲とやらを一刀両断にした腕前、惚れ惚れしたぞ」
劉備
(りゅうび)


「後ろから不意打ちだったけどね」
張飛
(ちょうひ)


「劉備殿と張飛殿がおられれば、曹操など恐れるに足らん!
この勢いをかって我々だけで曹操軍を壊滅させてやろうぞ!」
顔良
(がんりょう)


「おうよ! 袁紹様バンザーーイ!」
劉備
(りゅうび)


「………………」
張飛
(ちょうひ)





かくして前哨戦は侯成らの失策により、袁紹軍の大勝となった。
はたして袁紹軍はこの勢いのまま、曹操軍を圧倒するのか?
だが劉備の前には数奇な運命の罠が待ち構えていた。




〇三一   劉備 VS 関羽