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三 国 志

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〇三三   皇帝への道





汝南(じょなん)

劉辟
(りゅうへき)
劉安
(りゅうあん)

汝南の黄巾賊

村人



「それでは私は肉の下ごしらえをしてきます。
ごゆっくりどうぞ……」
劉安
(りゅうあん)


「劉安さん、いつも家を貸してもらってすまんのう」
劉備
(りゅうび)


「私も曹操と戦うお手伝いがしたいのです。遠慮はなさらずに……」
劉安
(りゅうあん)


「曹操め、袁紹と我々に挟み撃ちされてはたまらんと、増援を送ってきたようだに」
劉辟
(りゅうへき)


「袁紹よりは楽に潰せるアタイたちを、先に潰そうってんでしょ。的確な判断ね」
張飛
(ちょうひ)


「それにしても、こうして劉辟さんと一緒に戦ってると、わしらまで黄巾賊になった気がするのう」
劉備
(りゅうび)


「あんたは黄巾党に入ったんじゃなかったのか? 俺はそのつもりだったんだがに」
劉辟
(りゅうへき)


「わしは恐れ多くも皇族の末裔じゃぞ! 黄巾賊になんか入るものか」
劉備
(りゅうび)


「献帝(けんてい)陛下と同じ劉姓ってだけで皇族になれるなら、俺も皇族だに」
劉辟
(りゅうへき)


「ははは。違いないのう。それにしても劉辟さんはつくづく変わった人じゃな。
皇族なのに黄巾賊に入るわ、曹さんとこにいる青州黄巾軍にも加わらんわ。
袁紹さんに味方せず、青州黄巾軍に加わってりゃ楽できたんじゃないんか?」
劉備
(りゅうび)


「そりゃそうだに。たとえばあんたらをふん縛って曹操のもとにつれてけば、
莫大な褒美がもらえるだに」
劉辟
(りゅうへき)


「!」
張飛
(ちょうひ)


「あっはっはっはっはっ。…………冗談じゃろ?」
劉備
(りゅうび)


「ギリギリで冗談だがに。
俺は劉姓だからってだけじゃなく、陛下を守るために戦ってるだに。
黄巾賊に入って世直ししようとしたのも、曹操に逆らってるのもそのためだに。
だから、俺と同じく陛下のために戦ってるあんたは殺さないし、青州黄巾軍にも加わらないだに」
劉辟
(りゅうへき)


「ふーん。意外と熱い男なのね、あんた」
張飛
(ちょうひ)


「惚れたのか張さん」
劉備
(りゅうび)


「悪いけどアタイ好みの面相じゃないわ。……ギリギリだけどね」
張飛
(ちょうひ)


「さあ、新鮮な肉が焼けましたよ。たくさんありますから召し上がってください……」
劉安
(りゅうあん)



汝南

満寵
(まんちょう)

魏の将軍



「ぐわあああっ!!」
劉辟
(りゅうへき)


「劉辟さん!」
劉備
(りゅうび)


「こ……ここまでだに。り、劉備。あんたは無事に逃げるだに……」
劉辟
(りゅうへき)


「アンタ、陛下を守るんでしょ! こんなとこで倒れていいの!?」
張飛
(ちょうひ)


「その役目は……あんたらに任せるだ……に……」
劉辟
(りゅうへき)


「クックックッ。黄巾賊の首領は討ち取った。一気に蹂躙するのだ」
朱霊
(しゅれい)


「敵は浮き足立っているぞ! かかれいッ!!」
満寵
(まんちょう)


「朱霊のヤツ、共闘したこともあるってのに遠慮なしね!」
張飛
(ちょうひ)


「あいつにそんなことは期待できないだろ。さあ、早く逃げるぞ」
簡雍
(かんよう)


「し、しかし曹操軍の中を突破して袁紹と合流するのはもう不可能です」
孫乾
(そんけん)


「そうじゃ、今度はどこに逃げればいいんじゃ?
だいたいどこまで逃げてもわしは曹さんに追い掛け回されとるんじゃぞ」
劉備
(りゅうび)


「じゃあ張繍(ちょうしゅう)みたく曹操に降る?
アタイたちは張繍みたいに多くの兵を持ってないし、同じように許されるとは限んないけど」
張飛
(ちょうひ)


「はっはっはっ。そんな一か八かの博打は御免こうむりたいですな」
糜竺
(びじく)


「劉備! どうやらここがお前の死に場所のようだな!」
曹仁
(そうじん)


「そ、曹仁が背後に現れたアル! 退路がないアル!」
麋芳
(びほう)


「劉備! アンタがぐずぐずしてるからよ!」
張飛
(ちょうひ)


「わしはここで死ぬのか……? 劉辟さん……」
劉備
(りゅうび)


「先輩! こっちッス!」
趙雲
(ちょううん)


「趙雲!?」
張飛
(ちょうひ)


「こっちに逃げるッス! 援軍が来てるッス!」
趙雲
(ちょううん)


「え、援軍じゃと?」
劉備
(りゅうび)


「…………ッ!!」
関羽
(かんう)


「関羽ここにあり! 命の惜しくない者は前に出よ!
……と父は叫びたいのを我慢しています」
関平
(かんぺい)


「関羽! どうしたのよその軍勢は!? 3千はいるじゃないの!」
張飛
(ちょうひ)


「関羽将軍を慕い、黄巾賊の残党やらゴロツキやらが集まったんでさあ」
周倉
(しゅうそう)


「劉辟が殺されたって? それじゃあ仇討ち合戦と行こうじゃねえか!」
裴元紹
(はいげんしょう)


「この場は拙者らが引き受けた。貴君らは荊州(けいしゅう)へ逃れられよ」
陳到
(ちんとう)


「ゴロツキ連中のつてをたどって、荊州の劉表(りゅうひょう)に渡りをつけたんだ。
劉表はあちこちから人材を集めてるからな。喜んで迎えてくれるってよ! ありがたいな!」
廖化
(りょうか)


「わ、わかった。荊州じゃな」
劉備
(りゅうび)


「自分が血路を切り開くッス! 先輩は後ろに続いて下さい!」
趙雲
(ちょううん)


「おのれ関羽! 夏侯惇が危惧していた通りだ! やはり我々の災いになったな!」
曹仁
(そうじん)


「…………ッッ!」
関羽
(かんう)


「関羽は曹仁将軍に任せろ! 我々は劉備を追う!」
満寵
(まんちょう)


「逃がすなよ満寵。追い詰め、切り裂き、屠るのだ」
朱霊
(しゅれい)


「おどきなさい! 関羽とアタイがそろえば無敵なんだから!!」
張飛
(ちょうひ)



汝南 西




「そうか……公ちゃんも死んじまったのか」
劉備
(りゅうび)


「公孫瓚(こうそんさん)先輩が亡くなって、自分は行き場を失ったッス。
でもその時、劉備先輩の言葉がよみがえりました。だからここに来たッス。
先輩、今でも先輩は、いずれは皇帝になると思ってるッスか?」
趙雲
(ちょううん)


「皇帝に……」
劉備
(りゅうび)


「正直、驚いたッス。死ぬほど大胆不敵なことを言ってるのに、
先輩の目には迷いも恐れも見えませんでした。
地位も兵も、失礼ッスけど力もないのに、なんでこの人はこんなことが言えるんだろうと不思議でした」
趙雲
(ちょううん)


「バカだからよ。バカだから迷いも恐れも身の程も知らないの」
張飛
(ちょうひ)


「バカでもいいッス。自分は先輩と一緒に、バカな夢を追いかけてみたいッス。
だから先輩、もう一度聞かせて下さい。まだ先輩は、皇帝になるつもりッスか?」
趙雲
(ちょううん)


「なる。皇帝陛下に、わしはなる!」
劉備
(りゅうび)


「即答した……」
孫乾
(そんけん)


「……本当にバカね」
張飛
(ちょうひ)


「あっはっはっ。でもそんなバカな夢が、だんだんと実現に近づいてると思いませんか?
こんなに多くの人が集まり、曲がりなりにも兵も手に入れて、
曹操相手に戦いながらなんだかんだで生き延びています」
糜竺
(びじく)


「集まったのはゴロツキばっかりだけどな」
簡雍
(かんよう)


「大将の劉備がゴロツキみたいなもんだもの。しょうがないじゃない。
……ほら、関羽。アンタも何かこのバカに言ってやりなさいよ」
張飛
(ちょうひ)


「…………」
関羽
(かんう)


「言わんのかい!」
張飛
(ちょうひ)


「我が兄者への思いは言葉にできるものではない!
……と父は思っています」
関平
(かんぺい)


「前から思ってたけど、それは関平が思ってることでしょ。
関羽はなーんにも考えちゃいないわよ。劉備とおんなじバカなのよ」
張飛
(ちょうひ)


「それじゃあバカなわしや関さんと最初からずっと付き合ってる張さんも、大したバカじゃな」
劉備
(りゅうび)


「アンタにだけはバカ呼ばわりされたくないわ!!」
張飛
(ちょうひ)


「……なんだか随分とにぎやかなとこに入っちまいやしたなあ」
周倉
(しゅうそう)


「たしかに騒がしい。だが、嫌いではない」
陳到
(ちんとう)


「曹操や袁紹に仕えるより、気楽そうでいいじゃないか」
廖化
(りょうか)


「黄巾賊の雰囲気にそっくりだもんなこいつら」
裴元紹
(はいげんしょう)


「……やっと自分の居場所を見つけた気がするッス。
自分は皇帝になる劉備先輩を守る槍になって見せるッス!」
趙雲
(ちょううん)





かくして劉備は流浪の身に戻ったが、多くの仲間を手に入れた。
劉備は荊州で再起を図ることとなるが、それは後の話である。
一方、曹操と袁紹にはついに激突の時が迫っていた。




〇三四   官渡の戦い