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三 国 志

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〇四四   三顧の礼





荊州(けいしゅう) 隆中(りゅうちゅう)

諸葛均
(しょかつきん)

諸葛亮の弟



「まったく調子いいんだから。徐福(じょふく)の言うことを真に受けちゃってさ。
いくら曹仁の軍が長雨でいったん撤退したからって、主人が城を抜け出していいのかしら」
張飛
(ちょうひ)


「だって徐さんが言ってたろ。万に一つ、孔明さんが家臣になってくれるとしたら、
それはわしが自ら説得に行くしかないって」
劉備
(りゅうび)


「……アタイはアンタが自ら説得に行ったほうがかえって成功率が低くなると思うんだけどね」
張飛
(ちょうひ)


「………………」
関羽
(かんう)


「おまけに関羽までついてきちゃってるしさ。しゃべらない男が説得の役に立つのかしら?
まあいいわ、最悪の場合は、その孔明とやらの首根っこつかんで、強引に連れ出してやるから」
張飛
(ちょうひ)


「頼りにしとるぞ張さん!
おっ、第一村人発見じゃ。ちと道を尋ねてみよう。
おーい。すまんが諸葛亮さんの庵がどこにあるか知らんかの――」
劉備
(りゅうび)


「へ? なによあいつ。すごい勢いで逃げ出しちゃったわよ」
張飛
(ちょうひ)


「きっと張さんの顔が怖かったんじゃよ。
ほんなら向こうの村人に聞いてみよう。張さんはちょっと後ろに下がっとれ。
おーい。悪いが諸葛亮さんの庵まで案内して――」
劉備
(りゅうび)


「ちょっとちょっとなんなのよ!? 今度は泡吹いて卒倒しちゃったわよ!」
張飛
(ちょうひ)


「いったい何がどうなっとるんじゃ?」
劉備
(りゅうび)


「ははは。このあたりでその名は禁句だからですよ」
??
(??)


「おお、あんたは話が通じそうじゃな。で、何が禁句なんじゃと?」
劉備
(りゅうび)


「諸葛亮孔明という名がですよ。その名を聞いて平静でいられる人間はこのあたりにはいません」
??
(??)


「な、なんでそんなことになんのよ? それにアンタは平気なの?」
張飛
(ちょうひ)


「申し遅れました。私は諸葛均と申します。
諸葛亮は私の兄です。兄に会えば、すぐにわかりますよ」
諸葛均
(しょかつきん)


「ほう、弟さんか! それはいい所で出会ったわ。兄さんのとこまで案内してくれるか?」
劉備
(りゅうび)


「ええ。兄も劉備様たちがおいでになると知っています。どうぞお越しください。
……会うかどうかはわかりませんが」
諸葛均
(しょかつきん)



隆中 諸葛亮の庵

黄月英
(こうげつえい)

諸葛亮の従者



「こちらが兄の住む庵です」
諸葛均
(しょかつきん)


「……気のせいかしら、なんかものすごく禍々しい気が漂ってるんだけど」
張飛
(ちょうひ)


「ははは。みなさんそうおっしゃいます。
――おーい、兄さんはいますか」
諸葛均
(しょかつきん)


「いません。お帰りくださいです」
??
(??)


「おお、月英がいたんだね。兄さんはお出かけかい?」
諸葛均
(しょかつきん)


「いません。お帰りくださいです」
??
(??)


「龐統(ほうとう)さんの所にでも行ってるのかな?」
諸葛均
(しょかつきん)


「いません。お帰りくださいです」
??
(??)


「……なんなのこの九官鳥みたいな女は?」
張飛
(ちょうひ)


「兄の世話をしている黄月英(こうげつえい)です。
月英、こちらは劉備様とそのご兄弟だ」
諸葛均
(しょかつきん)


「はじめまして。お帰りくださいです」
黄月英
(こうげつえい)


「………………」
関羽
(かんう)


「ははは。留守番を命じられたからそれしか答えないんですよ。職務に忠実な子だからね」
諸葛均
(しょかつきん)


「……なんとなく、諸葛亮ってのがどんなヤツかわかったわ」
張飛
(ちょうひ)


「とにかく諸葛亮さんがいないなら出直すしかないのう。また明日来るから、よろしくな」
劉備
(りゅうび)


「わかりました。お帰りくださいです」
黄月英
(こうげつえい)



翌日 隆中 諸葛亮の庵

諸葛亮
(しょかつりょう)

隠者



「今日は色よい返事をもらえるといいですね」
諸葛均
(しょかつきん)


「おーい月英さんや。また来たぞ。諸葛亮さんはおるかのう?」
劉備
(りゅうび)


「いるです。お待ちくださいです」
黄月英
(こうげつえい)


「まったく二度手間なんだから……。諸葛亮とやら、今日こそはふん縛っててでも連れ出してやるわ」
張飛
(ちょうひ)


「貴様が劉備か」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「おお、あんたが諸葛亮さんか?」
劉備
(りゅうび)


「余に何用だ」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「よ、余って……」
張飛
(ちょうひ)


「余の貴重な時間を割いてやっているのだ。さっさと用件を言え」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「わしの軍師になってくれんかの?」
劉備
(りゅうび)


「断る」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「ち、ちょっと待ちなさいよ! そう簡単に帰すわけには――」
張飛
(ちょうひ)


「御主人様から手を離すです」
黄月英
(こうげつえい)


「こ、この小娘いつの間に……」
張飛
(ちょうひ)


「聞こえなかったか? とっとと手を離せ。さもなくば喉から血の大輪が咲くぞ」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「チッ!」
張飛
(ちょうひ)


「いい子だ。だが余の胸ぐらをつかむとは大したものだ。
いいだろう、貴様の糞度胸に免じて話を聞いてやる」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「なにを偉そうに……。劉備、こんなヤツを仲間にするなんてアタイはまっぴらごめんよ!」
張飛
(ちょうひ)


「うーむ。たしかに傲慢なやっちゃのう。
じゃが張さんよ。今まで張さんに胸ぐらつかまれてビビらなかったヤツがいたかのう?」
劉備
(りゅうび)


「ん……。たしかにいなかったけど、単に面の皮が厚いだけじゃないかしらね」
張飛
(ちょうひ)


「その通りです」
黄月英
(こうげつえい)


「貴様は黙っていろ。
――劉備、ならば問おう。なぜ貴様は余の力を欲する? 余の力を得て何を求めるのだ?」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「わしは皇帝になるんじゃ。その手伝いをしてくれ」
劉備
(りゅうび)


「…………ほう」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「どうじゃ? 手伝ってくれるか?」
劉備
(りゅうび)


「明日また来い」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「ち、ちょっと待ちなさ――ああ、もう邪魔よ小娘!」
張飛
(ちょうひ)


「明日またおいでくださいです」
黄月英
(こうげつえい)


「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬ……」
張飛
(ちょうひ)


「まあまあ、諸葛亮さんがまた明日と言ってるんじゃ。そうしようじゃないか」
劉備
(りゅうび)


「ははは。貴重なものを見せてもらいました。
兄が物事を即断せずに検討するなんて初めてですよ。
これはひょっとするとひょっとするかも知れませんね……」
諸葛均
(しょかつきん)



翌日 隆中 諸葛亮の庵




「諸葛亮殺す。小娘殺す。劉備も殺す」
張飛
(ちょうひ)


「おちつけ張さん。そんな殺気だらけじゃ諸葛亮さんの気が変わっちまうぞい」
劉備
(りゅうび)


「………………」
関羽
(かんう)


「この男は本当になんもしゃべんないからガチでいるだけだし……。ああもう、関羽も殺す」
張飛
(ちょうひ)


「ほ、ほれ。もう孔明さんの庵に着いたぞ。き、今日こそ軍師になってくれるといいのう!」
劉備
(りゅうび)


「お待ちしてましたです。お入りくださいです」
黄月英
(こうげつえい)


「月英さんもだんだん愛想がよくなってるじゃないか! きっといい返事がもらえるぞ張さん!」
劉備
(りゅうび)


「………………」
張飛
(ちょうひ)


「来たかバカ兄弟。座れ」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「         」
張飛
(ちょうひ)


………………(#^ω^)ビキィ
関羽
(かんう)


「張さんおさえておさえて! ああ、関さんまでブチギレ寸前の顔をしとるぞ!」
劉備
(りゅうび)


「兄弟ゲンカが終わったら余の話を聞け。
――劉備、貴様は皇帝になると言ったな。
曹操に一度も勝ったことのない貴様がどうやって皇帝になるつもりだ」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「そりゃ曹さんには勝ったことないが、別に勝つ必要はないぞ。
曹さんに話した時も誤解されたが、わしは献帝(けんてい)陛下に取って代わる気はないんじゃ。
陛下は陛下のままで、わしは皇帝になる。それならそもそも曹さんと戦う必要がないじゃろ」
劉備
(りゅうび)


「ほう、見直したぞ。わかっているではないか」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「へ?」
劉備
(りゅうび)


「貴様は無能だ。曹操に勝つ方法はない。ならばどうやって皇帝になる?
答えは一つだ。曹操から逃げればいい。曹操の手が届かぬほど遠くへ、遠くへと逃げる。
そこで貴様の国を作ればよいのだ」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「な、なるほどなるほど」
劉備
(りゅうび)


「どこへ逃げるか? たとえば益州(えきしゅう)だ。
天然の要害を誇り、袁氏に対しての北伐とは比べ物にならぬほど侵攻は容易ではない。
あとはたとえば孫権や馬超に一大勢力を築かせ、曹操に標的を絞らせなければ万全だ。
侵攻中に留守にした都を、孫権や馬超が窺うやもという不安が付きまとうからな。
益州に貴様の国を作れば、曹操といえども手出しはできん」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「お、おう……」
劉備
(りゅうび)


「……貴様、余の話を理解しておらんな?」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「り、理解しておるぞ! 益州は良い所じゃな!」
劉備
(りゅうび)


「……余が皇帝になるのは簡単だ。五年もあれば事足りる。
だが貴様を皇帝にするのは骨が折れそうだ。……面白い。
劉備、貴様に余の力をくれてやろう」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「ぐ――軍師になってくれるのか?」
劉備
(りゅうび)


「世界広しといえども、貴様のような無能を皇帝にしてやれるのは余だけだ」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「やったな張さん! 関さん!」
劉備
(りゅうび)


「……いちいち口は悪いけど、言ってることは正論ね。
劉備が迎え入れるってんならアタイも反対しないわ。
でも諸葛亮、アンタのことを認めたわけじゃないからね!」
張飛
(ちょうひ)


「張さんはこんなこと言ってるけど、ちょっとツンデレ気味なだけじゃから気にしなくていいぞ」
劉備
(りゅうび)


「誰がツンデレよ!」
張飛
(ちょうひ)


「ヤンデレ」
関羽
(かんう)


「ヤンデレでもないわよ! アンタ関帝様のくせに発言の半分がデレ関係だけどそれでいいの!?」
張飛
(ちょうひ)


「……御主人様、本当に劉備に仕えていいですか?」
黄月英
(こうげつえい)


「馬鹿な。神が余にかしずくことはあっても、余は誰にもかしずくことはない。
言ったはずだ。劉備に力を貸してやると」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「劉備にぞっこん惚れ込まれたようです。御主人様が他人にデレるところは初めて見たです」
黄月英
(こうげつえい)


「黙れ。死ね」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「嫌です。
……御主人様がデレるのは私だけだと思ってたのに残念です」
黄月英
(こうげつえい)


「妄言を吐くな。死ね」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「嫌です」
黄月英
(こうげつえい)





かくして諸葛亮は劉備の軍師となった。
はたして"伏龍"の唱える天下三分の計は、劉備を帝位に導く切り札となるのか?
一方、曹操の魔の手は劉備の喉元へと迫ろうとしていた。




〇四五   伏龍の智謀