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三 国 志

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〇四七   柴桑会議





荊州(けいしゅう) 襄陽(じょうよう)

劉琮
(りゅうそう)
張允
(ちょういん)

劉表の遺児

荊州水軍の将



「ほ、本日はお日柄もよく、あ、足元の悪い中……」
劉琮
(りゅうそう)


「君が劉表君の跡を継いだ劉琮君か。そう緊張するな。
おかしな噂が流れてるようだが、君や荊州の人々をどうこうするつもりはない。
それどころか今後は君たちを我が軍の主力にしたいと考えているんだよ」
曹操
(そうそう)


「そ、それは光栄の極みです。荊州の人馬はこぞって丞相のために尽くしましょう!」
蔡瑁
(さいぼう)


「やあ蔡瑁君、久しぶりだね。君まで固くなっているようだ。
荊州水軍の精強さは聞いているよ。水軍は君に任せるからよろしく頼む」
曹操
(そうそう)


「あ、ありがたき幸せ!」
蔡瑁
(さいぼう)


(要するに今後は自分の軍を使わず、荊州の兵を使い倒すと言われているのに、
なにが光栄で幸せなのだかな……)
賈詡
(かく)


「劉琮君には……そうだね、青州(せいしゅう)刺史の座が空いていたから、そこを任せよう。
さっそくだけど明日にも赴任してくれるかな?」
曹操
(そうそう)


「こ、この私を刺史に……。あ、ありがとうございます!!」
劉琮
(りゅうそう)


(劉琮を荊州に残しておいたら、どこかの馬鹿が担ぎ上げて問題を起こさんとも限らん。
イベントの終わった土地の見張りに送り込むのは常套手段じゃな)
程昱
(ていいく)


「さて、それじゃあ戦況を聞こうか。劉備君はどうしてるんだい?」
曹操
(そうそう)


「江夏(こうか)の劉琦(りゅうき)のもとへ逃れました。
長坂(ちょうはん)で多くの兵を失いましたが、劉琦の兵や、例によって付近のゴロツキを加え、
一万近い兵力を保っています。荊州を脱出した民の多くも次第に集まっているようです」
荀攸
(じゅんゆう)


「叩いても叩いても息を吹き返す、つくづく厄介な男だ」
劉曄
(りゅうよう)


「だがあれだけ叩けばしばらくはおとなしくしているだろう。
一軍を向かわせて牽制させておけば十分だ」
王朗
(おうろう)


「南郡(なんぐん)に曹仁君を入れておいた。それで押さえは利くだろう。
それより劉表君の旧臣でまだ抵抗している者がいるんだって?」
曹操
(そうそう)


「文聘(ぶんぺい)という将が小城に立てこもっております。
説得を続けていますが……」
蒯越
(かいえつ)


「文聘君の名は聞いている。硬骨漢らしいね。蒯越君はそのまま説得を続けてくれたまえ。
僕には戦う気はない。いずれわかってくれるだろう。
それじゃあ、張允君。水軍について聞きたいんだけど」
曹操
(そうそう)


「お、おう」
張允
(ちょういん)


(名乗られずとも荊州の重臣を把握しているのか……。さすが殿だ)
荀攸
(じゅんゆう)


「僕たちはいよいよ孫権君と戦うことになる。
孫家の水軍と戦って、勝つ自信はあるかい?
情けない話だが水上戦に関しては君たち頼りになってしまうからね」
曹操
(そうそう)


「以前、江夏の戦いでは黄祖(こうそ)が敗北したが、
あれは援軍も得られず、また水戦もごく局地的なものに限られていた。
水軍同士の戦いならば、孫権ごときにひけは取らん」
張允
(ちょういん)


「そうか。頼りにさせてもらうよ。僕らの自前の艦船や水軍もじきに到着する。
君と蔡瑁君で協力して、訓練してやってくれたまえ」
曹操
(そうそう)


『はッ!』
蔡瑁
(さいぼう)
張允
(ちょういん)


「孫権君が素直に降ってくれるとは思えないが、いちおう降伏勧告もしておこう。
戦わずに済めば、それが一番楽だからね。董昭君、行ってくれるかい」
曹操
(そうそう)


「はい、かしこまりました」
董昭
(とうしょう)


「それじゃあ孫権君の返事を待つ間に、荊州の人士と面会しよう。
これが楽しみで荊州を攻略したようなものだからね。さあ、初めは誰を呼ぼうかな……」
曹操
(そうそう)



江州(こうしゅう) 柴桑(さいそう)

吾粲
(ごさん)
陸績
(りくせき)

孫権の参謀

孫権の官吏



「――常識的に考えれば降伏するしかあるまい」
張昭
(ちょうしょう)


「そうでゲス。袁紹の勢力をことごとく吸収した曹操軍は、いまや百万の大軍を擁してるでゲス。
対する我々はせいぜい十万が関の山。勝負にならないでゲスよ」
虞翻
(ぐほん)


「なんと弱気な……。張紘殿!
あなたは都で曹操軍の内情をつぶさに観察してきたでしょう。あなたはどう思われるのですか」
吾粲
(ごさん)


「張昭や虞翻の言うとおりだと思うぞ。常識的に考えれば、勝負にならないぞ」
張紘
(ちょうこう)


「これは剛直の士で知られる張紘殿の言葉とも思われぬ。
都に残り曹操に寝返った華歆(かきん)のように、張紘殿も曹操に魅了されたのではありませんかな?」
吾粲
(ごさん)


「くだらない当てこすりをしている場合か!
殿! 殿はいったいどうお考えなんじゃ!?」
張昭
(ちょうしょう)


「……………………ん?
ああ、そうだな。いいんじゃねェか」
孫権
(そんけん)


「……………………いま、寝ていられませんでしたか?」
張昭
(ちょうしょう)


「いやいやいやいや、こんな大事な軍議中に寝るわけねェだろ。
で、いったい何をオレに聞きてェんだ? ちょっと目をつぶって考え事してたから聞いてなかったんだ」
孫権
(そんけん)


「まったく! あなたという人はまったく!」
張昭
(ちょうしょう)


「――つまりみんなはあ、ぶっちゃけると降伏か死かあ、どっちにするか聞いてるんスよ」
魯粛
(ろしゅく)


「なんだそりゃ。オレは曹操に降るか、それとも死ぬしかねェのかよ」
孫権
(そんけん)


「ウィッシュ。みんなそう思ってるみたいッス」
魯粛
(ろしゅく)


「口が過ぎるぞ魯粛!」
陸績
(りくせき)


「でも戦う前からあ、戦ったら死ぬって決めつけてるのはみなさんのほうじゃないッスか?」
魯粛
(ろしゅく)


「う…………」
陸績
(りくせき)


「なんでェ。よく聞いてみりゃ、前と同じことであーだこーだ騒いでんのかよ」
孫権
(そんけん)


「前と同じと言われますと?」
諸葛瑾
(しょかつきん)


「張紘たちを都に向かわせた時と同じだってんだよ。聞いてくりゃいいじゃねェか。
実際に曹操と戦った劉備と、あと実際に曹操と戦うことになる周瑜によ。
おめェらから見て、オレたちに勝ち目はあんのかって」
孫権
(そんけん)



柴桑

厳畯
(げんしゅん)
程秉
(ていへい)

孫権の官吏

孫権の官吏



「っつーことで、連れてきたッス」
魯粛
(ろしゅく)


「余が劉備に力を貸してやっている諸葛亮だ。
多忙な余をこんな磯臭い田舎まで呼びつけたのだ。それ相応の話があるのだろうな」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「お前らそれ相応の話が無かったら覚悟するです」
黄月英
(こうげつえい)


「そ、その小娘――いや女性は奥方ですかな? いきなり暴言を吐いた気がするのですが……」
厳畯
(げんしゅん)


「ああ、これはたまにしゃべる小銭入れだ。気にするな」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「フッ。名高い諸葛亮先生は愉快な方のようだ」
周瑜
(しゅうゆ)


「貴様は何者だ」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「申し遅れた。私は孫家の軍権を任されている周瑜という者だ。
このたびは曹操と刃を交えた先生のご意見を伺いたいと思っている」
周瑜
(しゅうゆ)


「ほう。我らの十倍の兵力を持ちながら、降伏か死しか選択肢を見出だせない無能が何を聞きたいのだ」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「んぐっ」
厳畯
(げんしゅん)


「これは手厳しい……。しかし、私はここにいるお歴々とはすこし別の意見を持っている。
曹操と戦っても勝つ自信がある、という意見をね」
周瑜
(しゅうゆ)


「なるほど。要するに余は貴様とだけ話せばよいのだな。続けろ」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「江南は中央と比べれば別天地だ。船を使わなければ身動きもままならず、風土もまったく異なる。
また曹操の水軍は実戦経験に乏しく、荊州の水軍が頼りだ」
周瑜
(しゅうゆ)


「し、しかし兵力差は圧倒的に――」
程秉
(ていへい)


「黙れ脇役。数ではなく質を見ろとこの男は言っているのだ」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「ぐぬぬ……」
程秉
(ていへい)


「慣れない風土から主力を占める曹操軍の間には疫病が流行っている。
許都(きょと)から荊州を経由する補給線は伸び切っており、軍需物資も決して豊富とは言えない」
周瑜
(しゅうゆ)


「クックックッ。つまり孫家の連中は、江南に育ち、船を意のままに操れ、実戦経験の豊富な水軍を持ち、
疫病に悩まされることもなく、補給にも不安のない十万の大軍を擁しながら、
降伏か死しか考えられないのか。実に興味深い生態だな」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「ぬ……ぬ……ぬ……」
張昭
(ちょうしょう)


「な、なんという無礼な発言でゲスか! こ、この男をつまみ出すでゲス!」
虞翻
(ぐほん)


「貴様の顔ほど無礼ではないと思うがな」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「なっ…………! し、諸葛瑾! こいつはお前の弟でゲしょう? なんとか言ってやるでゲス!」
虞翻
(ぐほん)


「ふふふふふ。いや失礼、久々に弟の暴言が聞けて、なつかしくて笑ってしまいました。
あなたの無礼な顔面を笑ったわけではありませんよ」
諸葛瑾
(しょかつきん)


「お兄ちゃんの天然の毒舌が炸裂です。なつかしいです」
黄月英
(こうげつえい)


「こ、こ、この兄弟は…………ッ!」
虞翻
(ぐほん)


「がたがたうるせェなあ! おちおち昼寝もできやしねェぜ」
孫権
(そんけん)


「こ、この期に及んでまた昼寝していたのか!?」
張昭
(ちょうしょう)


「言葉の綾だ。半分は聞いてたから安心しろ。
で、結論は出たのか?」
孫権
(そんけん)


「孫権殿、結論を下すのはあなたの仕事ですよ」
周瑜
(しゅうゆ)


「ははっ、違えねェや。じゃあ、オレの結論は三つ目だ」
孫権
(そんけん)


「三つ目?」
陸績
(りくせき)


「降伏でも死でもねェ三つ目の選択肢、曹操を叩きつぶす、だ。
曹操ばかりか、そこの諸葛センセーにさんざん舐められて、黙ってられるかってんだよ!」
孫権
(そんけん)



柴桑




「うまく孫権様を焚きつけられたんでえ、よかったッス。
さすが諸葛亮センセ、見事なお手並みでしたあ」
魯粛
(ろしゅく)


「何の話をしている。余はその色男と世間話をしていただけだ」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「フッ。あなたにとってはそうだろうな。
だがただ世間話をしただけで、降伏派は一掃された。見事なお手並みでしたよ」
周瑜
(しゅうゆ)


「くだらぬ。もっと余の興味を引ける話をしろ」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「御主人様の興味を引けなかったら覚悟するです雰囲気イケメン」
黄月英
(こうげつえい)


(雰囲気イケメンwww)
魯粛
(ろしゅく)


「それなら、こんな話はどうだ。
たとえば――たった一艘の船で、曹操の軍船を残らず焼き払う話などは」
周瑜
(しゅうゆ)


「ほう、大きく出たな」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「だがこの話をするには、三つの条件が必要だ。
そのためにあなたの知恵を借りたいのだが――その前に三つの条件とはなにかおわかりかな?」
周瑜
(しゅうゆ)


「風、毒、嘘だ。愚か者が賢しらに余を試すな」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「……あなたはすばらしい」
周瑜
(しゅうゆ)


「……ちんぷんかんぷんなんでえ、俺にもわかる言葉を使ってもらえないスかあ」
魯粛
(ろしゅく)


「水軍に限って言えば互角以上とはいえ、やはり曹操軍の兵力は圧倒的だ。
それを打ち破るには、火計を用いるしかない。だがそのためには三つの障壁がある。
火計を仕掛けるための風向き、実行部隊、そして火計を悟らせない情報操作だ」
周瑜
(しゅうゆ)


「なるほどお。でも曹操を騙すのは骨が折れるっしょ。
それにたしかこの時期は曹操軍じゃなくて、俺たちのほうに風が吹いてるんじゃないスかあ。
だいたい曹操も火計くらい気づいてるスよ。ぜんぜん無理じゃないスかねえ」
魯粛
(ろしゅく)


「それは百も承知だ。それでもなお火計を仕掛け、罠にはめねばならん」
周瑜
(しゅうゆ)


「クックックッ。すこし食指が動いたぞ。よかろう、余の知恵を貸してやる。
代わりに暗殺者と、最も口下手な男を貸せ。それで嘘は片付く」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「口下手な男スか? 口達者な男ならたくさんいますけどお」
魯粛
(ろしゅく)


「口下手な男ほど、時として誰よりも能弁なものだ。
――今日の余は機嫌が良い。風も引き受けてやろう。
貴様らは毒だけを、せいぜいつたない脳髄を絞って用意するがいい」
諸葛亮
(しょかつりょう)





かくして孫権は曹操軍百万に対して抗戦を決意した。
迎え撃つは当代随一の二大軍師、周瑜と諸葛亮。
不敵に笑う彼らは雲霞の如き大軍を退けられるのか?




〇四八   風と毒と嘘