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三 国 志

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〇五〇   城塞都市・合肥





揚州(ようしゅう) 合肥(がっぴ)

温恢
(おんかい)
蒋済
(しょうせい)

劉馥の副将

曹操の臣



「こんちはー温恢さん。あいかわらず精が出ますね」
蒋済
(しょうせい)


「……お前は酒瓶を片手に仕事をする気か?」
温恢
(おんかい)


「嫌だなあ。中身は水ですよ。気分だけでも酒を飲んでる気になりたくって」
蒋済
(しょうせい)


「水のわりには息が酒臭いようだが?」
温恢
(おんかい)


「昨日の酒が残ってるんですよ」
蒋済
(しょうせい)


「まったくお前は……。その酒癖さえなければ、こんな所に飛ばされずに済んだろうに」
温恢
(おんかい)


「じゃあ温恢さんは何癖が悪くてここに飛ばされたんですか?」
蒋済
(しょうせい)


「私は劉馥(りゅうふく)殿に見込まれてついて来たのだ。お前とは違う」
温恢
(おんかい)


「……こっからはマジな話、劉馥さんの体の具合はどうなんですか。
ここんところ寝たり起きたりみたいだけど」
蒋済
(しょうせい)


「年は越せないだろうな」
温恢
(おんかい)


「!」
蒋済
(しょうせい)


「合肥をここまで大きくするために無理を重ねてきたんだ。本人も覚悟はしておられる」
温恢
(おんかい)


「温恢! 蒋済! こんなとこにいやしたか」
劉馥
(りゅうふく)


「おお、噂をすればなんとやら」
蒋済
(しょうせい)


「無駄口叩いてる暇があったらこっちゃ来い。てえへんだぜ」
劉馥
(りゅうふく)


「どうしましたか。まさか――」
温恢
(おんかい)


「そのまさかだ。陳蘭(ちんらん)と雷薄(らいはく)のヤツが裏切りやがった」
劉馥
(りゅうふく)



合肥




「服従したとは言いかねますが、陳蘭らはすっかり鳴りを潜めていました。
今になって急に反旗を翻すとは……」
温恢
(おんかい)


「おおかた曹操丞相が赤壁で大敗したのを受けて、調子に乗ってるんでしょうよ」
蒋済
(しょうせい)


「さらに孫権軍が徐州(じょしゅう)に向かってるそうだ。
まあそっちは陳登(ちんとう)が相手してくれるでやしょうが」
劉馥
(りゅうふく)


「荊州(けいしゅう)での敗戦がこんな東の果てまで尾を引くとは……戦は難しいものだ」
温恢
(おんかい)


「難しく考えることはないですよ。要は陳蘭と雷薄を倒せばいいんだ」
蒋済
(しょうせい)


「いや、倒すことも考える必要はありやせん。すでに援軍を要請しやした。
倒すのは援軍に任せて、あっしらはこの合肥を守るだけだ」
劉馥
(りゅうふく)


「しかし守兵は当初よりも増えたとはいえ千にも満たないです。
これっぽっちの数では籠城戦も満足にできるかどうか……」
温恢
(おんかい)


「ならいっそのこと先制攻撃でも仕掛けますか?」
蒋済
(しょうせい)


「馬鹿言っちゃいけやせん。あっしらは戦は不得手だ。
戦は軍人に任せて、あっしらはあっしらのできることをするだけでいい……」
劉馥
(りゅうふく)



合肥 陳蘭軍

曹真
(そうしん)
曹休
(そうきゅう)

曹操の甥

曹操の甥



「ヒャッハー! 今夜が合肥の最後の日だぜーッ!!」
雷薄
(らいはく)


「劉馥には何度も煮え湯を飲まされたが、いよいよ年貢の納め時だ」
陳蘭
(ちんらん)


「根無し草だった俺たちが、明日からは合肥の城で寝られるんだよなアニキ!」
雷薄
(らいはく)


「アニキはやめろと言ってるだろ」
陳蘭
(ちんらん)


「脳筋の俺が今日まで生き長らえられたのはお前のおかげだからな。
ねんがんの合肥をてにいれる今夜くらいはアニキと呼ばせてくれよ!」
雷薄
(らいはく)


「勝手にしろ。それより手はずはいいな?
お前が右、俺が左から攻めて――」
陳蘭
(ちんらん)


「んん? ち、ちょっと待てアニキ。
なんだこの地響きは?」
雷薄
(らいはく)


「こ、こいつは――」
陳蘭
(ちんらん)


「合肥はお前らにくれてやるにはもったいない!
代わりにこの大剣を馳走してやろう!」
曹真
(そうしん)


「ふっ……。曹真はあいかわらず野蛮ですね。
それでは私はあくまでスマートに、あなた方に安らかな眠りを差し上げるとしましょう」
曹休
(そうきゅう)


「そ、曹操軍の先制攻撃だ!」
雷薄
(らいはく)


「馬鹿な……。合肥にこんな大軍は潜んでいなかったはずだ。
我々の蜂起にいち早く気がつき、待ち構えていたというのか!?」
陳蘭
(ちんらん)


「くそっ! お前のすることにはいつも何かしら手落ちがあるんだ!
アニキなんて呼ぶんじゃなかったぜ!」
雷薄
(らいはく)


「うるせえ! とにかくずらかるぞ!」
陳蘭
(ちんらん)


「あっちにわざと退路を空けておきました。敵はあっちに逃げるはずです」
賈逵
(かき)


「退路がわかればこっちのもんだ! 喰らえ!!」
曹真
(そうしん)


「ふっ……。私に出会ったデスティニーを呪いなさい」
曹休
(そうきゅう)


「ぎゃああああああ!!!」
雷薄
(らいはく)


「ぐわああああああ!!!」
陳蘭
(ちんらん)



合肥




「……驚きました。こんなにあっさり陳蘭らの首を取れるとは」
温恢
(おんかい)


「まあ、いくら敵が多かろうと、虚をつけばこんなもんでやしょう」
劉馥
(りゅうふく)


「それもこれも劉馥さんがむちゃくちゃ早く陳蘭らの蜂起を察知したからでしょ。
やっぱり劉馥さんはすげーや」
蒋済
(しょうせい)


「感心している場合じゃありやせんよ。あっしが死んだ後は、あんた方に同じことをしてもらわないと」
劉馥
(りゅうふく)


「劉馥殿……」
温恢
(おんかい)


「自分で自分の体のことくらいわかりやす。あっしは年内にもぽっくり行くでしょうや。
そしたら合肥を守るのはあんた方の仕事だ。
今度の戦で、あっしは手本を示したつもりでやすよ。
しかも次に戦う相手は、山賊なんかじゃなくて孫権軍の主力でやしょう」
劉馥
(りゅうふく)


「……せっかく苦労してここまで大きくした合肥だ。
俺も守りたいと思ってますよ」
蒋済
(しょうせい)


「私も同じ気持ちです」
温恢
(おんかい)


「合肥はまだまだ大きくなる。もっともっと重要拠点になる。
あっしが死んだ後はあんた方や、援軍に来てくれた方々ら若い人たちの時代だ。
今までも、そしてこれからもあんた方を頼りにしてやすよ」
劉馥
(りゅうふく)





かくして合肥を狙う山賊は一掃された。劉馥ただ一人から始まった城塞都市は、
後に曹操にとって大きな意味を持つこととなるが、それはまた別の話である。
一方、赤壁で大勝利を得た周瑜は、曹仁の守る南郡に迫らんとしていた。




〇五一   南郡の戦い