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三 国 志

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〇五一   南郡の戦い





徐州(じょしゅう)

張遼
(ちょうりょう)

曹操の勇将



「援軍が到着したぞ。我らの勝利だ。勝ちどきをあげよ」
陳登
(ちんとう)


「惑わされるでない! 援軍など来ておらん! あれは撹乱だ!」
呂範
(りょはん)


「いや……今回ばかりは本当のようだ。
呂範殿! 後方に敵の増援が現れたぞ!」
太史慈
(たいしじ)


「荊州攻めには組み込まれなくてムカついてたけどよ。
太史慈と戦えるってーなら話は別だぜ!」
張遼
(ちょうりょう)


「よーし張遼! おいらと競争だ!」
楽進
(がくしん)


「がっはっはっ。孫権軍は動揺しているぞ。一気に押しつぶせ!」
臧覇
(ぞうは)


「かなり敵の数が多い……。ここは退くしかないぞ呂範殿!」
太史慈
(たいしじ)


「無念だがしかたあるまい。退け! 退けーーい!」
呂範
(りょはん)


「フッフッフッ……。私の徐州は誰にも渡しはせんよ……」
陳登
(ちんとう)



柴桑(さいそう)




「徐州を攻めた呂範軍、合肥(がっぴ)を攻めた陳蘭(ちんらん)軍はともに敗走しました」
吾粲
(ごさん)


「さすが曹操だぞ。東方の守りも万全だったぞ」
張紘
(ちょうこう)


「お前は曹操と孫権殿のどっちの肩を持つ気じゃ! まったく嘆かわしいわい!」
張昭
(ちょうしょう)


「東方に曹操軍の一部を引きつけたおかげで、赤壁(せきへき)で大勝を得られたとも言える。
戦略的に見れば我が軍の勝利だ」
周瑜
(しゅうゆ)


「なら次は荊州に居残ってる曹操軍の大掃除と行こうぜ。
南郡(なんぐん)には曹仁のヤローがいるんだって?」
孫権
(そんけん)


(うむうむ。今日は居眠りもせず熱心ではないか孫権殿!)
張昭
(ちょうしょう)


「はいはい。曹仁は1万の兵で立てこもっております。
我が軍が逃げる曹操軍を追撃できないよう、足止めするのが目的かと思われます」
諸葛瑾
(しょかつきん)


「まずはあ、南郡を落とさないことには始まらないってことッスね」
魯粛
(ろしゅく)


「南郡の攻略は引き受けた。集中攻撃を掛けるとしよう。
――ところで、劉備軍に動きはあったか?」
周瑜
(しゅうゆ)


「襄陽(じょうよう)を攻撃しようとしているが、文聘(ぶんぺい)に道を阻まれているぞ。
襄陽は徐晃の軍が守っておるし、そう簡単には落とせんぞ」
張紘
(ちょうこう)


「それなら劉備は放っておけばいいでゲスね」
虞翻
(ぐほん)


「……あの諸葛亮が無策で襄陽を攻めているだと? 何かにおうな」
周瑜
(しゅうゆ)


「たしかに怪しいが、狙いがわからねェ以上、放っとくしかねェだろ。
少なくとも劉備は敵じゃねェ。今はそれだけわかりゃ十分だ」
孫権
(そんけん)


「わかりました。それでは主力を引き連れて南郡の攻略にかかります」
周瑜
(しゅうゆ)


「おう、任せたぜ。
オレはおふくろに呼ばれてっから、ちょっくら里帰りするんで、後はよろしくな」
孫権
(そんけん)


(……妙に熱心に軍議に参加していると思えば、さっさと終わらせたかっただけか。
まったく! こんな時に呼び寄せる御母堂もまったく!)
張昭
(ちょうしょう)



南郡

牛金
(ぎゅうきん)

曹仁の副将



「うおおおおおっ! どけどけどけえええっ!!」
曹仁
(そうじん)


「そ、曹仁将軍!?」
牛金
(ぎゅうきん)


「わっはっはっ! 助けに来てやったぞ牛金!」
曹仁
(そうじん)


「総大将が自ら包囲された味方を助けに来るとは愚かな……。
曹仁も包囲して討ち取れ!」
韓当
(かんとう)


「この俺様の前に立ちはだかろうなんて百年早いぞ! どけえええっ!!」
曹仁
(そうじん)


「敵はわずかです。落ち着いて取り囲みましょう」
程普
(ていふ)


「左に回り込むでごわす!」
蒋欽
(しょうきん)


「曹仁は必ず城に戻るんだ。城門前に防衛線を築き待ち構えろ」
周泰
(しゅうたい)


「無駄だ無駄だお前ら! うおおりゃああああっ!!」
曹仁
(そうじん)



南郡 孫権軍




「――それで曹仁には逃げ切られたのか」
周瑜
(しゅうゆ)


「ウイッシュ。ガチで化け物ッスよあんなの。
いったん城まで帰ったのに、まだ味方が取り残されてると知るや、
戻って助けて、無事に城へ逃げ込んだッス」
魯粛
(ろしゅく)


「赤壁から連戦で我が軍の兵も疲れていたのだろうが……それにしても曹仁恐るべしだな」
周瑜
(しゅうゆ)


「南郡城は孤立している。無理に攻めず、兵糧攻めに切り替えるか?」
董襲
(とうしゅう)


「そんなに悠長にしている余裕はない。城の周囲を視察して弱点を見つけるとしよう」
周瑜
(しゅうゆ)


(周瑜め。焦っているようだな。護衛もろくに連れずに出てきたぞ)
陳矯
(ちんきょう)


「フッ。なかなか堅固な城だな。守将が曹仁でなくとも苦戦するところだ」
周瑜
(しゅうゆ)


「こっちにも曹操軍みたく投石車があればいいんスけどね。
そういえば長沙(ちょうさ)に発明家がいるって聞いたんでえ、連れてきて造らせ――」
魯粛
(ろしゅく)


「今だ射ていッ!!」
陳矯
(ちんきょう)


「ぐっ!?」
周瑜
(しゅうゆ)


「周瑜!? やばい! 敵がいるッス!」
魯粛
(ろしゅく)


「よし、周瑜に命中したぞ! 引き上げろ!」
陳矯
(ちんきょう)


「フッ……。私としたことが……これでは孫策の二の舞ではないか……」
周瑜
(しゅうゆ)


「しっかりするッス! 周瑜!!」
魯粛
(ろしゅく)



南郡 曹操軍




「矢には猛毒を塗っておいた。
肩口に命中しただけだが、あれでは身動きもままならないだろう」
陳矯
(ちんきょう)


「これで我々の勝利は疑いないな!」
牛金
(ぎゅうきん)


「おい陳矯!」
曹仁
(そうじん)


「ど、どうされましたか」
陳矯
(ちんきょう)


「お前、たしかに周瑜に毒矢を撃ち込んだんだよな!」
曹仁
(そうじん)


「ええ。しかとこの目で見届けましたが――」
陳矯
(ちんきょう)


「周瑜の野郎が元気に攻撃してきてやがるぞ!」
曹仁
(そうじん)


「そ、そんな馬鹿な!?」
陳矯
(ちんきょう)


「フッ。この程度の矢傷で私が参ると思ったか? 覚悟はいいな曹仁よ」
周瑜
(しゅうゆ)


「あれは影武者ではない、本人だ……。
ええい、もう一度毒矢を浴びせてやれ!」
陳矯
(ちんきょう)


「無駄だ。私に同じ策は二度と通用しない」
周瑜
(しゅうゆ)


「や、やせ我慢に決まっている! 迎撃しやしょう将軍!」
牛金
(ぎゅうきん)


「いや……ここは退却するぞ!」
曹仁
(そうじん)


「な、なんですと!?」
陳矯
(ちんきょう)


「周瑜の野郎は覚悟を示したんだ! 命に替えても南郡を落とすという覚悟をな!
もう十分に本隊が撤退する時間は稼いだ! これ以上、周瑜と戦う必要は無え!」
曹仁
(そうじん)


「し、将軍……」
牛金
(ぎゅうきん)


(たしかに我らの任務は時間稼ぎだ。その任は十分に果たしたと言えよう。
だが、それ以上に将軍は、周瑜の命を賭した覚悟の程に感じ入ったのだろうな……)
陳矯
(ちんきょう)



南郡 孫権軍




「曹仁は城を捨てて襄陽へと退却したッス。追撃しますかあ?」
魯粛
(ろしゅく)


「私たちの目標は南郡城の奪取だ。それには及ばない……」
周瑜
(しゅうゆ)


(まあ、追撃しようにも、ぶっちゃけ周瑜がこの状態じゃ無理ッスね)
魯粛
(ろしゅく)


「後は我々に任せて、周瑜様は後方に下がり療養してくださいませ」
程普
(ていふ)


「フッ……。これでは諸君の足手まといになるだろう。
済まないが、お言葉に甘えさせてもらう」
周瑜
(しゅうゆ)


「いや、お前の覚悟は見せてもらった! 後は我々が引き受けたから安心しろ!」
韓当
(かんとう)


(周瑜が深手を負いながら陣頭指揮をとったことに、老臣たちも心を動かされたみたいッス。
ようやく周瑜を中心に全軍がまとまりそうッスね)
魯粛
(ろしゅく)


「し、周瑜殿! き、急報が入りました!」
吾粲
(ごさん)


「どうした」
周瑜
(しゅうゆ)


「我々が南郡城を包囲している隙に、劉備軍が南下しました!
荊州南部の四郡を攻めています!」
吾粲
(ごさん)


「なんだと!? 我々が身動きできない間に火事場泥棒のような真似を……」
黄蓋
(こうがい)


「このままでは四郡をかすめ取られるでごわす! 劉備軍を止めるでごわす!」
蒋欽
(しょうきん)


「……いや、それは無理だ。我々と劉備軍はあくまで同盟関係にある。
彼らがどこを攻めようと止めることはできない。
それにあの諸葛亮の策だ。すでに四郡は劉備の手に落ちているだろう」
周瑜
(しゅうゆ)


「第一、いたずらに劉備軍と衝突すれば、また曹操が喜んで戻ってくるッスからね」
魯粛
(ろしゅく)


「諸葛亮の狙いははじめから襄陽ではなく、荊州南部だったのだろうな……。
だがあわてることはない。南郡さえ抑えておけば、曹操はもちろん劉備にもにらみを利かせられる。
我々はまだ戦略的には一歩、先んじているんだ……」
周瑜
(しゅうゆ)





かくして周瑜は南郡を攻略した。
しかしその隙をつき、諸葛亮は暗躍する。
狙うは荊州南部の四郡。いま伏龍の牙が四英傑に迫ろうとしていた。




〇五二   荊州南部攻略戦