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三 国 志

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〇五二   荊州南部攻略戦





荊州(けいしゅう) 江夏(こうか)




「今回の作戦は速度が命だ。
貴様らには全速力で荊州南部の四郡を落としてもらう」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「ってことは亮さん、部隊を四つに分けるのか?」
劉備
(りゅうび)


「当然だ。周瑜が南郡(なんぐん)城を落とす前に、四郡を横からかすめ取らねばならぬ。
四郡を順繰りに攻める時間の余裕はない」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「それなら一郡はアタイに任せなさいよ!
兵は3千も貸してくれれば十分だわ!」
張飛
(ちょうひ)


「自分にも任せてくださいッス! 兵は張飛先輩と同じく3千で十分ッス」
趙雲
(ちょううん)


「………………」
関羽
(かんう)


「おっ。関さんの手も上がったぞ! ほんなら関さんも3千もありゃ十分か?」
劉備
(りゅうび)


「いや、この五本の指は、関羽は5百もあれば十分である!
――という意味だと父は言いたいのです」
関平
(かんぺい)


「ご、5百?」
孫乾
(そんけん)


「!?」
関羽
(かんう)


「……いくら関さんでも5百は少なすぎじゃありゃせんか?
関さん本人もびっくりしとるみたいじゃぞ」
劉備
(りゅうび)


「この関羽に二言はない!
――と父は自信満々です」
関平
(かんぺい)


「………………」
関羽
(かんう)


「関羽が関平をにらんでるのは気のせいかな?」
簡雍
(かんよう)


「クックックッ。本人が5百でいいと望んでいるんだ。その通りにしてやろうではないか。
ならば残る一郡は、余と劉備が引き受けてやろう。ありがたく思え。
どの郡を攻めるかはくじ引きで決める。さっさと引け」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「……なんで四郡を攻めるのにくじが五本あんのよ?」
張飛
(ちょうひ)


「当たりが出たら御主人様の代わりにもう一郡を攻められるです」
黄月英
(こうげつえい)


「…………」
張飛
(ちょうひ)



荊州南部 零陵(れいりょう)

劉度
(りゅうど)
邢道栄
(けいどうえい)
劉巴
(りゅうは)

零陵の太守

劉度の腹心

曹操の家臣



「こ、こ、降伏しないのか?」
劉度
(りゅうど)


「一戦も交えずに降ったら、曹操丞相に合わせる顔がない」
劉巴
(りゅうは)


「ど、ど、どうせ劉備に降れば丞相と会うことはなくなる。
面子を気にしている場合ではないぞ!」
劉度
(りゅうど)


「俺とて面子だけでものを言っているわけではない。
勝機があるから、戦えと言っているんだ」
劉巴
(りゅうは)


「そのとおり! 劉備軍なんてオラの大斧でちょちょいのちょいだーーッ!!」
邢道栄
(けいどうえい)


「た、たしかに邢道栄は強いが、関羽や張飛に歯が立つのか?
お前は邢道栄を買いかぶっているだけではないのか?」
劉度
(りゅうど)


「邢道栄の武勇を頼りにしているだけではない。
桂陽(けいよう)や武陵(ぶりょう)、長沙(ちょうさ)ら他の三郡と連携して戦うのだ。
四郡が力を合わせればいくら劉備とはいえ――。

おい、邢道栄はどこだ。いつの間に出て行った?」
劉巴
(りゅうは)


「し、知らん。も、もう出撃したのではないか?」
劉度
(りゅうど)


「馬鹿者が! あいつひとりで向かっていってどうにかなる相手では――」
劉巴
(りゅうは)


「邢道栄は討ち取ったッスよ! おとなしく降伏するッス!」
趙雲
(ちょううん)


「あわわわわわわ。言わんこっちゃない。言わんこっちゃないぞ!」
劉度
(りゅうど)


「……お前は降伏するなりなんなり好きにしろ。
私は長沙に向かい、迎撃の準備をする」
劉巴
(りゅうは)


「そ、そうか。わかった。
――降伏する! 劉備軍よ! 私はおとなしく降伏するぞー!!」
劉度
(りゅうど)



零陵 劉備軍




「それでは自分は桂陽の攻撃に向かうッス!」
趙雲
(ちょううん)


「ご苦労じゃったな! 龍さんが当たりを引いてくれたおかげでわしらは戦わずに済んだぞ」
劉備
(りゅうび)


「お安いご用ッス! それでは行ってくるッス!」
趙雲
(ちょううん)


「零陵はこのまま降伏した劉度さんに任せるとして、わしらはどうしようかの亮さん」
劉備
(りゅうび)


「長沙へ後詰めに向かう」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「関さんが向かった長沙か。たしかにいくら関さんでも5百ぽっちの兵じゃ不安じゃもんな」
劉備
(りゅうび)


「それだけではない。何やらネズミがうろちょろしているようだ。
長沙に関しては他に妙な噂も聞くし、単細胞の関羽だけでは足元をすくわれかねん」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「ふーん。まあ細かいことは亮さんに任せるから、好きにやっとくれ。
そういやあ、武陵に向かった張さんがそろそろ攻撃を開始した頃合いじゃな。元気にやっとるじゃろうか」
劉備
(りゅうび)



荊州南部 武陵(ぶりょう)

金旋
(きんせん)
鞏志
(きょうし)

武陵の太守

金旋の腹心



「アタイに立ち向かってくるなんていい度胸じゃないのさ!
せっかくだから名前を聞いたげるよ」
張飛
(ちょうひ)


「俺は武陵にその人ありと知られた金旋だ!
我が剣の奥義、とくと味わうがいい!」
金旋
(きんせん)


「………………」
張飛
(ちょうひ)


「どうしたどうした! 我が剣の冴えに言葉も失ったか!」
金旋
(きんせん)


「………………いや、あんまりにもしょぼくて言葉が出ないだけよ」
張飛
(ちょうひ)


「へ?」
金旋
(きんせん)


「はあ……。アンタ、それでよくアタイに挑む気になったわね。
かわいそすぎて殺す気も無くなるわ。見逃してやるから帰んなさいよ」
張飛
(ちょうひ)


「な…………!?
さ、さては俺の剣技にビビって、命乞いをしているのだな!
だ、だが俺はそんなに甘くな――」
金旋
(きんせん)


「うっさい」
張飛
(ちょうひ)


「ああああっ!?
お、お、俺の剣が真っ二つに……。
あわわわわわわ。お助けええええ!!」
金旋
(きんせん)


「だから助けてやるって言ってるじゃないの。
おとなしく降伏しなさい!」
張飛
(ちょうひ)


「も、も、門を開けろ! は、早く俺を中に入れ――。
うぎゃあああああっ!?」
金旋
(きんせん)


「……だから俺はやめろと言ったのだ」
鞏志
(きょうし)


「あらま。アンタ、金旋の部下なんじゃないの?
金旋を射殺なんかしちゃってどういうつもりよ」
張飛
(ちょうひ)


「このたびの無謀な戦いは、身の程知らずの金旋の勝手な判断によるだ。
我々ははじめから張飛殿に歯向かうつもりはなかった。
勝ち目のない戦をして民を苦しめてもしかたないからな。
我々の身はどうなっても構わん。どうか領民には寛大な処置を願う」
鞏志
(きょうし)


「へえ。なかなか見上げた根性じゃないのさ。
気に入ったわ、アタイから劉備に取り成したげる。悪いようにはしないわよ」
張飛
(ちょうひ)


「それともうひとつ。金旋の遺体を弔わせて欲しい。
領民のためやむなく討ったが、しがない猟師だった俺を取り立ててくれた恩がある」
鞏志
(きょうし)


「アンタ……。んふふ。いいオトコじゃないのさ」
張飛
(ちょうひ)



荊州南部 桂陽(けいよう)

陳応
(ちんおう)
鮑隆
(ほうりゅう)

趙範の家臣

趙範の家臣



「お前が趙雲か! この三叉の矛がお前に会うのを楽しみにしていたぞ!」
陳応
(ちんおう)


「長坂の戦いでは名を上げたそうだが、桂陽の両巨頭と呼ばれた我々のコンビネーションには敵うまい!」
鮑隆
(ほうりゅう)


「ウスッ。自分の名前を知ってもらってて光栄ッス」
趙雲
(ちょううん)


「ぎゃああああああ!!」
鮑隆
(ほうりゅう)


「…………へ?」
陳応
(ちんおう)


「あ、サーセン。まだ自己紹介が途中だったッスか?
もう終わったもんだと思って、突っ掛けちゃいました」
趙雲
(ちょううん)


「あ……あ……」
陳応
(ちんおう)


「さあ、紹介を続けてくださいッス。終わったら戦うッス」
趙雲
(ちょううん)


「………………退け! 退けーーい!」
陳応
(ちんおう)


「あれ? 戦わないん……スか?」
趙雲
(ちょううん)



桂陽

趙範
(ちょうはん)

桂陽の太守



「さ、さ、先程は部下がとんだ無礼を働きまして……」
趙範
(ちょうはん)


「いやいや、こっちこそ挨拶が終わってないのに突いちゃって申し訳ないことしたッス。
ところでさっきの方はどこッスか? 戦いの続きをやりたいんス」
趙雲
(ちょううん)


「め、め、滅相もない! 陳応は深く反省しております!
将軍に歯向かおうなどとは金輪際、思わないでしょう!」
趙範
(ちょうはん)


「? よくわからないッスけど、戦わないなら残念ッス。
それじゃああんた方は降伏してくれるんスね?」
趙雲
(ちょううん)


「も、も、もちろんですとも!
部下が勝手に暴走しただけで、もとより劉備様に逆らうつもりはありませんでした!」
趙範
(ちょうはん)


「それはよかったッス。おとなしく降伏してくれれば、悪いようにはしないッスよ」
趙雲
(ちょううん)


「あ、あ、ありがとうございます!
ど、ど、どうか将軍のほうからも、劉備様に取り成しをしていただければと……。
そ、そ、そこでささやかながら将軍のために宴席の準備を整えてあります」
趙範
(ちょうはん)


「任務中なんで結構ッス」
趙雲
(ちょううん)


「か、か、固いことをおっしゃいますな! 酒だけではなく美女も用意してあります。
私の亡き兄の未亡人ですが、これがすこぶる良い女でして――」
趙範
(ちょうはん)


「いまなんて言ったッスか」
趙雲
(ちょううん)


「え、え、え?」
趙範
(ちょうはん)


「あんたは兄嫁を自分に差し出すつもりッスか! いったいなにを考えてるッスか!
恩知らずとはあんたのためにある言葉ッス!!」
趙雲
(ちょううん)


「ひ、ひ、ひいいいいい!」
趙範
(ちょうはん)


「し、将軍、どうか落ち着かれ――」
陳応
(ちんおう)


「あんたは引っ込んでるッス!」
趙雲
(ちょううん)


「ぎええええええ!!」
陳応
(ちんおう)


「あ。しまったッス。つい槍が出ちゃったッス」
趙雲
(ちょううん)


「あ、わ、わわわわわわわわわ」
趙範
(ちょうはん)


「泡吹いて卒倒しちゃったッス。なんか悪いことしちゃったッスね……」
趙雲
(ちょううん)



荊州南部 長沙(ちょうさ)

韓玄
(かんげん)
楊齢
(ようれい)
黄忠
(こうちゅう)

長沙の太守

韓玄の家臣

韓玄の家臣



「零陵、武陵、桂陽の三郡はすでに落ち、この長沙にも関羽が向かっているだと……?」
韓玄
(かんげん)


「ああ。劉備軍の動きは予想以上に早かった。だがまだ打つ手はある」
劉巴
(りゅうは)


「てめえ、いいかげんなことを言ってるんじゃないだろうな。
孤立した俺らに何ができるってんだ」
楊齢
(ようれい)


「聞けば関羽の率いている軍勢はわずか5百だという。
5百の小勢ならば、いかな関羽といえども戦って勝つことは不可能ではない。
関羽を捕らえ、人質にして劉備と交渉するのだ」
劉巴
(りゅうは)


「むうう……」
韓玄
(かんげん)


「かっかっかっ! 何を迷っているのだ韓玄殿!
この儂にお任せあれば、すぐに関羽の首を持ち帰ってやるぞ!」
黄忠
(こうちゅう)


「……いや、首を獲ったら交渉もなにもできなくなる。
捕らえるだけでいいのだ」
劉巴
(りゅうは)


「ならばなおさら簡単な話だ!
この黄忠が矢が関羽の乗騎を射抜く! 落馬したところを捕縛すればよかろう!」
黄忠
(こうちゅう)



長沙 関羽軍




「………………」
関羽
(かんう)


「わずか5百の兵で長沙を落とす……。
そんな離れ業は関羽将軍にしかできねえよなあ! すげえよなあ将軍は!」
廖化
(りょうか)


「廖化殿、泣くのは無事に長沙を落としてからにいたそう」
陳到
(ちんとう)


「我が父の武名はあまねく天下に轟いている。
長沙は戦わずして降伏するやもしれん」
関平
(かんぺい)


「……というわけには行かなかったようですぜ。
長沙の軍勢が前方に布陣していやす」
周倉
(しゅうそう)


「現れたな、曹操丞相に仇なす逆賊め!
それっぽっちの小勢で長沙を落とせると思ったら大間違いだぜ!」
楊齢
(ようれい)


「………………」
関羽
(かんう)


「荊州南部の三郡はすでに落ちた! おとなしく降伏すれば命だけは見逃してやろうと思っていたが、
この関羽の前に立ちはだかるならば容赦はせぬぞ!
……と父は叫ぼうとしている」
関平
(かんぺい)


「小せがれに用はない。さっさとかかってこいよヒゲ入道が!」
楊齢
(ようれい)


「…………(#・∀・)ムカッ」
関羽
(かんう)


「おおっ! 関羽将軍が自ら飛びかかったぞ!」
廖化
(りょうか)


「――いかんッ!」
陳到
(ちんとう)


「不意打ち御免ッッ!!」
黄忠
(こうちゅう)


「!?」
関羽
(かんう)


「ヒヒィィィィィィン!!」
赤兎馬
(せきとば)


「なにィッ!? 我が百発百中の矢をかわすとは……なんという馬じゃ!」
黄忠
(こうちゅう)


「な、なに外してんだよクソジジイ!!」
楊齢
(ようれい)


「我が矢をかわせる馬がいるとは夢にも思わなんだ。
その燃えるような赤い毛並み……噂に聞く赤兎馬か!」
黄忠
(こうちゅう)


「父を不意打ちするとは卑怯者め! その白髪首を置いていけ!」
関平
(かんぺい)


「かっかっかっ! なにも卑怯ではないぞ青二才。
弓の名手が弓を用い、不意打ちできるなら不意を打つのは、当たり前のことだ!」
黄忠
(こうちゅう)


「いばることではないでしょうや」
周倉
(しゅうそう)


「楊齢、ここはひとまず逃げるぞ!」
黄忠
(こうちゅう)


「言われるまでもねえ! 先に行くぜジジイ!」
楊齢
(ようれい)


「関羽、この勝負は後日に預け――うおおおおっ!?」
黄忠
(こうちゅう)


「あのジジイ、馬が負傷して転げ落ちたぞ!
ざまあみろ! 天はお前の卑怯な行いを許さなかったんだ!」
廖化
(りょうか)


「………………」
関羽
(かんう)


「ど、どうした関羽……? 儂を斬らんのか?」
黄忠
(こうちゅう)


「……先の不意打ちは、赤兎馬が矢をかわしてくれたもの。
お主の落馬は、馬が負傷してくれたもの。
これは我とお主の戦とは言えぬ! 勝負もせずに首をいただくほどこの関羽は浅ましくない!
……と父は思っている」
関平
(かんぺい)


「関羽…………」
黄忠
(こうちゅう)


「………………」
関羽
(かんう)


「儂の名は黄忠! 今日のところはお主の厚意に甘えてやろう!
だ、だが勘違いするなよ! お主の武人の誇りに儂も応えただけで、
次に会った時には首を頂いてやるんだからな!」
黄忠
(こうちゅう)



長沙

馬鈞
(ばきん)
楊儀
(ようぎ)

発明家

馬鈞の助手



「こ、これはどういうつもりだ韓玄殿!? なぜ儂を捕縛するのだ!」
黄忠
(こうちゅう)


「どういうつもりだとは俺のセリフだ!
自信満々に出ていきながら関羽を捕らえられなかったのみならず、
命を助けられておめおめと逃げ帰ってきただと?」
韓玄
(かんげん)


「そんな話が信じられるものか! このクソジジイ、関羽に内通してるに決まってるぜ!」
楊齢
(ようれい)


「濡れ衣だ! 儂は関羽のことなんてなんとも思ってないんだからな!」
黄忠
(こうちゅう)


「……内通しているかどうかはともかく、信用できない者を前線に出すわけには行かん。
韓玄よ、黄忠の代わりになる将がいると聞いたが本当か?」
劉巴
(りゅうは)


「あ、ああ。少し風変わりな奴だが、力は保証しよう」
韓玄
(かんげん)


「ヒヒヒ。人の大発明をつかまえて風変わりとはご挨拶だネ」
馬鈞
(ばきん)


「とうとうこの時が来ましたね。博士の叡智が天下に示される時が!」
楊儀
(ようぎ)


「お前らは何者だ?」
劉巴
(りゅうは)


「さすらいの天才科学者とその助手だヨ。韓玄の支援を受け研究をしている。
ワタシの発明品が必要なのだろう?」
馬鈞
(ばきん)


「お、おう。奴は使えるのか?」
韓玄
(かんげん)


「無論だ。ワタシの頭脳に不可能はないヨ」
馬鈞
(ばきん)


「――――――」
??
(??)


「これは人間……なのか? それとも人形か?
まったく生気が感じられん」
劉巴
(りゅうは)


「人造人間ギヱンだ。ヒヒヒ。生気が感じられんのは当然のこと。
まだシステムを起動していないからネ」
馬鈞
(ばきん)


「しすてむ?」
楊齢
(ようれい)


「とにかくこいつなら関羽を倒せるんだろうな?
こういう時のために、お前に研究費を与えてギヱンを造らせたのだぞ!」
韓玄
(かんげん)


「ヒヒヒ。払っただけの働きはしてやるヨ。
ここをこうして……ほら、これでシステム起動だ」
馬鈞
(ばきん)


「………………」
ギヱン
(ぎゑん)


「う、動いた」
楊齢
(ようれい)


「馬鹿者! いまのギヱンに近づくな!」
楊儀
(ようぎ)


「ガォォォォォォォォォォン!!!!!」
ギヱン
(ぎゑん)


「ぐわああああああああっ!!」
楊齢
(ようれい)


「よ、よ、楊齢を素手で八つ裂きに……。
うわあ! 来るな! 来るな! 来るなああああああぎゃああああああああ!!」
韓玄
(かんげん)


「言わんこっちゃない。こいつはワタシと楊儀以外の近づいた者を殺すようにプログラムされているんダ」
馬鈞
(ばきん)


「ひ、人を喰ってる……。な、なんという……。
太守である韓玄を殺すとはどうしてくれるのだ!」
劉巴
(りゅうは)


「科学の発展に犠牲はつきものだヨ。
要はギヱンが劉備軍を殲滅すればよいだけの話だ」
馬鈞
(ばきん)


「ウォォォォォォォォォ!!!!!」
ギヱン
(ぎゑん)


「ヒヒヒ。初の実戦投入の相手が関羽とはネ。
いいデータが取れそうだ……」
馬鈞
(ばきん)


「………………」
劉巴
(りゅうは)



長沙

ギヱン
(ぎゑん)

人造人間



「ギャァァァァァァァァァァオ!!!!!」
ギヱン
(ぎゑん)


「な、なんだありゃ!? 四つ足の化け物が暴れまわってるぞ!」
廖化
(りょうか)


「あれは人か魔か……」
陳到
(ちんとう)


「こ、このままでは総崩れになる。
父上、ここはいったん退いて――」
関平
(かんぺい)


「………………ッ」
関羽
(かんう)


「関羽将軍が化け物に飛びかかっちまいましたぜ!」
周倉
(しゅうそう)


「たとえ化性の物が相手であろうと、この関羽が背中を見せることはないということですね父上!」
関平
(かんぺい)


「!?」
関羽
(かんう)


「あ、あのバケモノ、なんて野郎だ!
将軍の青龍偃月刀(せいりゅうえんげつとう)を爪で弾いたぞ!」
廖化
(りょうか)


「すばらしい! すばらしいぞギヱン!」
楊儀
(ようぎ)


「いや……あの関羽という男、想像以上だネ。
よく見てごらん、ギヱンを押し返しているヨ」
馬鈞
(ばきん)


「……ッ! ッ! ッッ!」
関羽
(かんう)


「グルルルルルルルル!!」
ギヱン
(ぎゑん)


「あの偃月刀と馬が厄介だネ。プログレッシブ・ネイルだけでは武装が足りないな。
機動性ももっと上げないと――」
馬鈞
(ばきん)


「は、博士! 武装に関しては後で考えましょう。このままではギヱンが……」
楊儀
(ようぎ)


「そうだネ。もう関羽のデータは十分だ。
ギヱン、関羽は放っといてその部下を皆殺しにするんだ」
馬鈞
(ばきん)


「ゲェェェェェェェ!!」
ギヱン
(ぎゑん)


「あ、あの野郎、将軍に勝てないと見てこっちに来るぞ!」
廖化
(りょうか)


「兵士は逃げよ! 拙者らが時間を稼ぐ!」
陳到
(ちんとう)


「くっ……! 来い! 関羽の子は逃げぬ!!」
関平
(かんぺい)


「………………ッッッ!!!」
関羽
(かんう)


「オォォォォォォォォン!!」
ギヱン
(ぎゑん)


「おすわり」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「!?」
ギヱン
(ぎえん)


「なっ!? ギヱンが緊急停止しただと? 活動限界か? 」
楊儀
(ようぎ)


「いや。内部電源にはまだ余裕があるはずだヨ。
……あの白衣の男にシステムを強制停止させられたんだ」
馬鈞
(ばきん)


「………………」
ギヱン
(ぎえん)


「いい子だ」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「      」
ギヱン
(ぎえん)


「ギ、ギヱンのシステム完全に停止しました。
再起動に応じません」
楊儀
(ようぎ)


「諸葛亮殿! どうしてここに……?」
関平
(かんぺい)


「面白いおもちゃがあると聞いてな。
ククク……これはたしかに興味深い」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「は、博士! どちらへ行かれるのです?」
楊儀
(ようぎ)


「キミは何者だネ? どうやってギヱンを停止させた?
開発者として話を聞きたい」
馬鈞
(ばきん)


「ほう、これは貴様が造ったのか。
なんということはない。余は全知全能だからだ」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「ひ、非科学的な……」
楊儀
(ようぎ)


「……人造人間とはいえ、ギヱンも人に、いや動物に近い存在だ。
ケモノの本能でキミの力を悟り、従ったというところかナ」
馬鈞
(ばきん)


(関羽も恐れず戦ったギヱンが、この優男を恐れただと……?)
楊儀
(ようぎ)


「犬は主に従う。ただそれだけの話だ。
――この犬を余に譲れ。さすれば命は助けてやろう」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「……まだまだギヱンは開発途上だ。
ワタシたちに研究を続けさせてくれるなら、譲ってあげるヨ」
馬鈞
(ばきん)


「よかろう。これはいい手駒になる」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「      」
ギヱン
(ぎえん)



長沙




「太守の韓玄は死に、ギヱンとやらも降った。
もはや打つ手はないか……」
劉巴
(りゅうは)


「それにしても牢に入れられとった儂を解き放ってよいのか劉巴殿?」
黄忠
(こうちゅう)


「あなたを投獄した韓玄は死んだ。好きにするがいい」
劉巴
(りゅうは)


「とにかくいつかこの礼はするぞ!
――ん? どこへ行くのだ? 劉備に降らんのか」
黄忠
(こうちゅう)


「私は曹操の配下だが、敗れたいま、曹操のもとへ帰るわけにもいかん。
だからと言って劉備に仕えるのも気が進まぬ。
誰にそそのかされたにしろ、あの男は荊州の民を裏切ったのだからな。
私は益州(えきしゅう)へでも流れるさ」
劉巴
(りゅうは)


「そうか……。
儂は関羽に借りを返さねばならん。劉備というよりも関羽に降ろうと思う。
道は分かれても、お主のことは忘れないからな!」
黄忠
(こうちゅう)


「ああ……。達者でなじいさん」
劉巴
(りゅうは)





かくして劉備軍は荊州南部の四郡を落とした。
長く雌伏の時を過ごしてきた劉備は、ここに大きな力を手に入れたのである。
そんな劉備のもとへ、孫権から意外な申し出が届けられようとしていた。




〇五三   弓腰姫の婿