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三 国 志

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〇五六   馬超の智略





関中(かんちゅう)

侯選
(こうせん)
楊秋
(ようしゅう)
梁興
(りょうこう)
成宜
(せいぎ)

関中十部の一人

関中十部の一人

関中十部の一人

関中十部の一人
李堪
(りかん)
張横
(ちょうおう)

関中十部の一人

関中十部の一人
丁斐
(ていひ)
曹彰
(そうしょう)
楊沛
(ようはい)

曹操の護衛

曹操の三男

曹操の護衛



「どうした曹操、無様に逃げ回ることしかできないのか」
侯選
(こうせん)


「フン、どこに目をつけておるのだ。ワシらは逃げておるのではない。
馬超を目指して突き進んでおるのだぞ!」
鍾繇
(しょうよう)


「こちらの作戦を声高に明かすな」
劉曄
(りゅうよう)


「曹操だーーッ! 曹操が来たぞーーッ!」
楊秋
(ようしゅう)


「前方にも伏兵だ。ここは拙者が引き受けた!」
徐晃
(じょこう)


「邪魔ーーッ! するなーーッ!」
楊秋
(ようしゅう)


「丞相の覇道を阻む愚か者よ、我が斧のサビとなるがいい!」
徐晃
(じょこう)


「丞相! 後方の兵の一部が勝手に離脱しているそうだ」
李通
(りつう)


「逃げたいなら好きにさせればいいよ。もっとも、案内もなしに逃げ切れるとは思えないがね」
曹操
(そうそう)


「このままでは殿軍が少なくなってしまい危険だ。
俺が後方に下がり督戦してこよう」
李通
(りつう)


「曹操逃げる。おれ追う。おれ追いつく。曹操死ぬ」
梁興
(りょうこう)


「左からも敵の増援じゃ! いったい何匹いるんじゃ!?」
婁圭
(ろうけい)


「妙ですな。まるで我々が退却ではなく、進撃を選ぶと知っていたような伏兵の配置です。
それも次々と新手を繰り出すこの策は……」
荀攸
(じゅんゆう)


「十面埋伏の計だね。関中にこれほどの策士がいるとは寡聞にして知らなかったよ」
曹操
(そうそう)


「おるはずがない! 関中に十面埋伏の計など使える者はおらん!」
鍾繇
(しょうよう)


「成・宜・参・上! これより正義を執行する!」
成宜
(せいぎ)


「言ったそばから新手のお出ましだぞ」
劉曄
(りゅうよう)


「待てい!」
??
(??)


「む!? この登場の仕方は……」
成宜
(せいぎ)


「天へと続く覇道を妨げる者よ。時の声を聞け! もはや勝利は定まっているぞ!
人、それを天命と言う」
??
(??)


「何者だ!」
成宜
(せいぎ)


「お前たちに名乗る名はない! 張郃クラッシュ!」
張郃
(ちょうこう)


「やはり張郃か! 手合わせしたかったぞ!」
成宜
(せいぎ)


「その格好は俺の猿真似か? だが剣技までは真似られるかな!」
張郃
(ちょうこう)


「ええい、張郃め。この大変な時にノリノリで応戦しおって!」
婁圭
(ろうけい)


「おっと、ここから先へは通しはせんぞ!」
李堪
(りかん)


「どけどけいッ! 曹仁様のお通りだ! 道を空けろ!!」
曹仁
(そうじん)


「伏兵が現れるたびにこちらの戦力を削られておる!
そろそろ持ちこたえられなくなるぞ!」
鍾繇
(しょうよう)


「ふむ。せっかく馬超君のところまでたどり着いても、戦える兵がいなければ話にならないね」
曹操
(そうそう)


「なにを呑気なことを――」
婁圭
(ろうけい)


「来た来た。曹操曹操。終わりだ終わりだ」
張横
(ちょうおう)


「右から八つ目の伏兵じゃ! 誰が応戦するんじゃ!?」
鍾繇
(しょうよう)


「ま、待て! 何をするつもりだお前は!?」
杜畿
(とき)


「兵がいなけりゃ牛や馬を使えばいいだろうが。
牛馬を解き放って敵に突入させんだよ」
丁斐
(ていひ)


「やめろ! 牛馬がいなければ兵糧輸送がままならん!」
杜畿
(とき)


「死んじまったら飯も食えないんだぜ?
まずはここを生き残るのが先決だろうが!
……どうせ俺の牛じゃねえしよ」
丁斐
(ていひ)


「牛牛。馬馬。邪魔邪魔」
張横
(ちょうおう)


「何者かが輸送部隊から牛馬を解き放ち、敵軍に突入させました!
敵は牛馬や兵糧を略奪しようとして足並みを乱しています」
荀攸
(じゅんゆう)


「いい機転だね。誰かは知らないが礼を言うよ。
楊阜君、そろそろ馬超君の軍は見えてこないのかい?」
曹操
(そうそう)


「前方に見えたぞ! 馬超の本陣だ! 一軍が布陣している。
だが……あれは馬超の副将の龐徳だ。馬超の姿が見えんぞ」
楊阜
(ようふ)


「敵は罠に落ちた。これで仕上げだ。行くぞ!」
龐徳
(ほうとく)


「かかったな曹操! 馬超はこっちだ!」
馬超
(ばちょう)


「前方から龐徳! 後方から馬超! 罠じゃ! 挟み撃ちじゃ!」
婁圭
(ろうけい)


「くっ! 待て馬超! 俺が相手だ!」
李通
(りつう)


「無駄だ! この馬超の熱く燃える正義の槍を受け止めることはできない!」
馬超
(ばちょう)


「ぐわああああっ!」
李通
(りつう)


「李通が討たれたぞ。後衛は総崩れだ」
劉曄
(りゅうよう)


「……ここまで読んでいたとはね。
だけど僕だってまだ切り札を残しているよ。許褚君、馬超君は任せた」
曹操
(そうそう)


「心得た!」
許褚
(きょちょ)


「龐徳君には……黄鬚(きひげ)。君の出番だよ」
曹操
(そうそう)


「うおおおおお! 待ってましたあああ!!」
曹彰
(そうしょう)


「なんと。我と馬超には兵を出さず、将が単騎で突撃だと?」
龐徳
(ほうとく)


「馬超の首さえ挙げれば終わりだ! 雑魚はどけ!」
許褚
(きょちょ)


「どけどけ! 兵士は手を出すな! 許なんとかは馬超が討つ!」
馬超
(ばちょう)


「まずい、馬超様が挑発に乗ってしまった。これでは挟撃の意味がない」
龐徳
(ほうとく)


「よそ見してる余裕あんのか? 虎殺しの黄鬚とは僕様のことだああああ!」
曹彰
(そうしょう)


「こ、この男……できる!」
龐徳
(ほうとく)


「今なら馬超君の本陣は空だ。一気に襲うよ」
曹操
(そうそう)


「し、しかし急襲しようにも我が軍は総崩れで混乱して――」
婁圭
(ろうけい)


「陣を立て直せ! 丞相の前でみっともねえ姿をさらす野郎は俺が殺す!
さらさなくても殺す! 目についた奴から殺す!」
楊沛
(ようはい)


「狼狽している暇があったら混乱の収拾に努めろ、というわけだな。
見よ、楊沛があっという間に兵を落ち着かせたぞ。
楊沛に殺されるくらいなら、敵と戦うべきだとな」
劉曄
(りゅうよう)


「むむむ……」
婁圭
(ろうけい)


「婁圭君は楊沛君に殺される前に隠れておくといいよ。
おかげで陣も立て直せたようだ。それにそろそろ――」
曹操
(そうそう)


「殿は無事か! 助けに来たぞ!!」
夏侯淵
(かこうえん)


「どうにか間に合ったようですな。
将軍、丞相は無事なようですから、小生らは馬超の本陣を襲撃……聞こえていないようですな」
賈詡
(かく)


「ならば我々だけでも馬超の本陣を襲うとしよう」
朱霊
(しゅれい)


「夏侯淵君、よく来てくれた。そろそろだと思っていたよ。
僕は大丈夫だから許褚君を助けて馬超君を追い払ってくれたまえ」
曹操
(そうそう)


「わかった!」
夏侯淵
(かこうえん)


「我らの背後に回していた別働隊が、もうここまで来ていたのか……」
龐徳
(ほうとく)


「龐徳! わいの手勢だけじゃ本陣を守れんぞ。
戦果は十分だから引き上げるで!」
馬岱
(ばたい)


「了解した。韓遂(かんすい)殿の守る潼関(どうかん)まで退却するぞ!」
龐徳
(ほうとく)


「逃がすかあああ!」
曹彰
(そうしょう)


「ここから先へは進ませぬ!」
龐徳
(ほうとく)


「やるな! この馬超の槍をここまで防いだのはお前が初めてだ! だがまだまだァッ!!」
馬超
(ばちょう)


「ぬううううん!」
許褚
(きょちょ)


「殿! もう曹操軍に十分、打撃は与えた。ここは引き上げるんや!」
馬岱
(ばたい)


「ちょっと待っていろ馬岱! こいつを片付けたら馬超も続く!」
馬超
(ばちょう)


「だからそんな暇はないっての! もう残ってるのは殿の手勢だけなんやぞ!」
馬岱
(ばたい)


「手を出すな馬岱! やっと面白くなってきたところだ!」
馬超
(ばちょう)


「あいかわらず二つ以上のことを同時に考えられへんのやから……。
問答無用!」
馬岱
(ばたい)


「は、離せ馬岱! まだ決着がついていない!」
馬超
(ばちょう)


「………………」
許褚
(きょちょ)



潼関

成公英
(せいこうえい)

韓遂の腹心



「曹操軍の死傷者は1万にのぼり、対する我が軍の諸侯は全員が無事です」
成公英
(せいこうえい)


「想像以上の大戦果だな」
韓遂
(かんすい)


「なにが大戦果なものか! あと一息であの許なんとかという将を討ち取れたものを!」
馬超
(ばちょう)


「……曹操の護衛なんて討ちもらしたって構わないでしょうや」
馬岱
(ばたい)


「馬超の軍がちゃんと背後を襲っていれば、曹操の首も獲れたかもしれんが、まあ贅沢は言うまい。
もともと前線に築いた陣は捨てる予定だった。
あとは予定通りに、潼関で曹操軍を迎え撃とう」
韓遂
(かんすい)


「……なにが予定通りだか」
??
(??)


「こ、これは奥方殿」
韓遂
(かんすい)


「曹操は十面埋伏の計で意表を突かれながらも、道中で多少の兵を失おうと、
あたしらの本陣にたどり着く頃には、夏侯淵の別働隊と合流して、十分な兵力を確保できると計算していた。
そのうえうちの宿六の性格を熟知して、豪傑を向かわせれば無力化できると把握してもいた。
予定通りに事を進めているのは曹操のほうじゃなくて?」
??
(??)


「でも、一万の兵を失ったことは曹操にとっても痛手に――」
馬岱
(ばたい)


「本当に痛手を被っていたら、漢中(かんちゅう)や下弁(かべん)に向かわせた部隊を呼び戻してるわよ。
一万の兵を失ってなお、あたしらに勝てると踏んでるから、現有勢力のまま潼関に進撃してるんじゃないのよ」
??
(??)


「……ごもっともだな」
龐徳
(ほうとく)


「わかったらへらへらしてんじゃないわよ。
後手を踏んでるのはあたしらのほうよ。そこんとこ、よく考えときなさい」
??
(??)


「へ、へい!」
馬岱
(ばたい)



潼関 馬超の居室

董夫人
(とうふじん)

馬超の妻



「君の話は難しくてよくわからないが、馬超たちは勝ったのか? 負けたのか?」
馬超
(ばちょう)


「負けてはいないわ。でもあいつらが浮かれてるほど勝ってもいない。ちょい勝ちってところね」
董夫人
(とうふじん)


「そうか勝ったのか! やはり曹操などこの馬超の正義の槍の前には恐れるに足りん!」
馬超
(ばちょう)


「……あんたのその単純さが時々うらやましくなるわ」
董夫人
(とうふじん)


「褒めてくれるのか! ありがとう妻よ!」
馬超
(ばちょう)


「……まあいいわ。それよりこの先の戦のことを話しましょ。
曹操の首は挙げられなかったけど、まずまず順調にここまでは来ているわ。
潼関はあたしらが守り、城外に布陣させた関中十部の諸侯に曹操の後方を襲わせる。ここからが肝心よ」
董夫人
(とうふじん)


「ふーん。それで馬超は誰と戦えばいいんだい?」
馬超
(ばちょう)


「あんたは曹操と戦うの。曹操さえ追い回せばいいのよ。わかった?」
董夫人
(とうふじん)


「わかった! ……でもさっきの許なんとかが出てきたら、決着をつけるために戦ってもいいよな?」
馬超
(ばちょう)


「ダ・メ・よ。曹操だけ追いなさい。
あんたは誰のために曹操と戦ってるの? 誰の仇を取るためなの?」
董夫人
(とうふじん)


「もちろん君のためだよ董白! 君のお祖父様の家臣を殺した、にっくき曹操を倒すんだ!」
馬超
(ばちょう)


「そうよ。だったらあたしの言うことだけを聞きなさい。いいわね?」
董夫人
(とうふじん)


「もちろんだとも!」
馬超
(ばちょう)


「………………。
いいわ、これ以上あんたと話してると頭痛が起きそう。
――司馬懿! あんたの出番よ。次の策を出しなさい」
董夫人
(とうふじん)


「………………はい。お呼びですか奥様。
わたしのことをお忘れではなかったのですね。
このまま呼ばれずに放っておかれるのかと思っていました」
司馬懿
(しばい)


「十面埋伏の計は見事だったわ。行き倒れのあんたを拾ってやった甲斐があったわね」
董夫人
(とうふじん)


「はい。虫けらのように死んでいくしかなかったわたしをお救い下さった、
命の恩人である奥様には感謝の言葉もありません。
奥様が死ねといえば即座に死んで見せます」
司馬懿
(しばい)


「つまんない礼はいいから策を出しなさいよ。次の策はなんなの? あるんでしょ?」
董夫人
(とうふじん)


「あります。策を出せないわたしになんて生きる価値はありませんから……。
もし策がなかったら、こうしてのこのこ恥知らずにも顔を出したりせず、部屋の片隅で舌を噛んでそっと息絶えています」
司馬懿
(しばい)


「不景気なひとりごとはどうでもいいから、策よ策!」
董夫人
(とうふじん)


「も、申し訳ありません。次に余計なことを言ったら首をはねてください。
ああっ! そんなご面倒な真似をさせるわけには行きません。
剣を与えてくだされば自分で首をはねます! 自己解決いたします。

――は、はい。次の策ですね。次なる策は四方から曹操の背後を襲います。
それも火の手のないところからの一斉蜂起です。
これで必ずや曹操軍は不意を突かれ、瓦解することでしょう……」
司馬懿
(しばい)





かくして緒戦は馬超ら関中十部軍が制した。
戦いの舞台は潼関に移り、董白の復讐の刃、司馬懿の策の冴え、
そして馬超の正義の槍が、曹操をかつてない窮地に陥れようとしていた。




〇五七   潼関の戦い