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三 国 志

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〇六〇   関中の女たち





建業(けんぎょう)

呂蒙
(りょもう)

孫権の将



「曹操が濡須(じゅしゅ)に攻めて来るだとォ?
そりゃ本当か? ヤローは関中の制圧を終えたばかりだろ」
孫権
(そんけん)


「ウイッシュ。ガチもガチな話ッス。
この前、馬超からの依頼で合肥(がっぴ)を軽く攻めたんでえ、その報復ってヤツみたいッスねえ。
赤壁ん時にも劣らない大軍を率いてるって噂ッス」
魯粛
(ろしゅく)


「曹操軍は都の近くに巨大な溜め池を造り、そこで水軍の訓練をしてきました。
赤壁の敗戦の痛手から立ち直り、濡須を攻め落とす自信があるのでしょう」
吾粲
(ごさん)


「赤壁の仇を濡須で討つってことか。へへっ。腕が鳴るじゃねェかよ」
孫権
(そんけん)


「待たれよ! まさか孫権殿が自ら迎え撃つつもりではないじゃろうな?」
張昭
(ちょうしょう)


「オレが行かなくて誰が行くっつーんだよ。
周瑜も、濡須を守ってた太史慈も、軍師の張紘(ちょうこう)も病死しちまって、戦力は不足してんだぜ。
それとも張昭が出張ってくれんのか?」
孫権
(そんけん)


「ワシは戦は不得手じゃ! しかし孫権殿も戦の経験は足りぬ。
ここは濡須を守る周泰(しゅうたい)や董襲(とうしゅう)、徐盛(じょせい)に任せられよ」
張昭
(ちょうしょう)


「もちろんそこに援軍を加えるッス。孫瑜(そんゆ)様を大将としてえ、黄蓋さんに韓当さんは確定っしょ。
それともう一人、個人的に参謀として推挙したい者がいるんスが……」
魯粛
(ろしゅく)


「誰だそりゃ? おめェは周瑜の後釜なんだ。遠慮しねェで言えよ」
孫権
(そんけん)


「あっしです」
呂蒙
(りょもう)


「呂蒙だと? 無学のお前がなぜ軍議の場にいるんでゲスか」
虞翻
(ぐほん)


「やんちゃだった昔の蒙ちゃんとは違うッス。学問に目覚めて、ガチな軍師に成長したッス」
魯粛
(ろしゅく)


「あっはは。そいつは買いかぶり過ぎでしょう。
ですが、これからは槍働き以外のことでもお役に立てるつもりでいますんでね。
ひとつ戦場でお試しください」
呂蒙
(りょもう)


「ほーう。てェした自信じゃねェか。魯粛が言うならオレは信じるぜ。
そんなら呂蒙はオレのそばにいてあれこれ献策してくんな」
孫権
(そんけん)


「……孫権殿、なぜ自分も出陣することが前提になっているのですかな?」
張昭
(ちょうしょう)


「わはは。そうかてェこと言うなよ。
――野郎ども碇を上げろ! 出航の準備だ!!」
孫権
(そんけん)


「「「「「「おう!!!!!」」」」」」
韓当
(かんとう)
黄蓋
(こうがい)
甘寧
(かんねい)
蒋欽
(しょうきん)
呂蒙
(りょもう)


「孫権殿! まったく! 少しはワシの話を聞きなされ!!」
張昭
(ちょうしょう)



曹操軍 遠征軍




「……さっきから浮かない顔をしているな、華歆よ。
やはり旧主の孫権と戦うのは気が進まないのか?」
王朗
(おうろう)


「そんなことはない。かつて孫家に仕えていた私が、経験を買われ孫権と戦う際に駆り出されるのは当然のことだ。
孫家から丞相に鞍替えした時から覚悟はできていた」
華歆
(かきん)


「ならば何を悩んでいる? せっかく丞相の左右に従う軍師団に選ばれたのだぞ。
荀攸殿が病に倒れ、婁圭(ろうけい)のジジイは失脚。
さらに賈詡(かく)殿が関中に残っているから繰り上がっただけとはいえ、喜ぶべきことではないか」
王朗
(おうろう)


「繰り上がり当選はお前も同じだろうが」
華歆
(かきん)


「フフン、それはどうかな? 私は前回は留守居役を命じられたが、今回は遠征への同行を命じられたのだ。
これは丞相が、やはり遠征には王朗の頭脳が必要だと考えられた証拠ではないか?」
王朗
(おうろう)


「……王朗に留守番させたら不安だと考えた可能性もあるぞ」
華歆
(かきん)


「わっはっはっ。負け惜しみはよせ。
軍師団には長く合肥(がっぴ)を守っていた蒋済(しょうせい)も若僧のくせに選ばれている。
蒋済とお前は、対孫権のために選ばれたに過ぎんのだ。
私とは違うのだよ私とは!」
王朗
(おうろう)


「わかったわかった。そんなことはどうでもいい。――私はこたびの遠征が解せぬのだ」
華歆
(かきん)


「何が解せぬのだ? 水軍の訓練がようやく終わり、満を持して赤壁の復讐に臨むのだ。
濡須を落とせば遷都したばかりの孫家の首都・建業はもはや目の前。
濡須攻めは戦略的にも当然だろう」
王朗
(おうろう)


「華歆が言っているのはそうではない。遠征すること自体に疑問があるのだろう」
劉曄
(りゅうよう)


「き、聞いていたのか劉曄」
王朗
(おうろう)


「そんな大声で話していたら嫌でも聞こえる」
劉曄
(りゅうよう)


「劉曄殿だけじゃなく、俺にも聞こえていましたよ」
蒋済
(しょうせい)


「もちろん僕の耳にもね」
曹操
(そうそう)


「丞相! い、いや、これは、そもそも不平不満を唱えていたのは華歆のほうでして、つまり」
王朗
(おうろう)


「……丞相、お言葉ですが聞かせて下さい。
軍の主力は関中に遠征したばかり、それも馬超らに手痛い打撃を受けており、備えは万全とは言えません。
それなのになぜ孫権と戦うのですか? 漢中に逃げた馬超を追うのならまだしも、なぜ五体満足の孫権を――」
華歆
(かきん)


「都にいたくなかったのさ。遷都したばかりで、鄴(ぎょう)の都は居心地が悪いんだ。
――それに、都にいると荀彧を思い出してしまう」
曹操
(そうそう)


「………………」
劉曄
(りゅうよう)


「まあそれは僕の個人的な心情だ。
孫家は周瑜君や張紘君、太史慈君が亡くなり、程普君や朱治君が引退と、
多くの屋台骨を失ったばかりで、統制が取れていない。今こそ攻め時だと考えたのさ。
せっかく整えた水軍や、新しい軍師団の力も試したいしね」
曹操
(そうそう)


「私のあさはかな考えだったら申し訳ありません。
丞相の口振りからすると、濡須の攻略が本当の狙いではないようにうかがえます。
もしや、遠征の裏に何かはかりごとが……?」
華歆
(かきん)


「どうだい劉曄君、新しい軍師殿は頼れそうじゃないか」
曹操
(そうそう)


「たしかに。荀攸の抜けた穴は私が埋めるとして、賈詡の代わりは華歆に任せられそうだ」
劉曄
(りゅうよう)


「すると……」
華歆
(かきん)


「お察しの通り、この戦は陽動作戦さ。僕らが東へ向かえば、必ず彼らが釣り出される。
そう、関中の残党、永遠の反逆児たちがね……」
曹操
(そうそう)



冀城(きじょう)

楊昂
(ようこう)
趙昂
(ちょうこう)
王異
(おうい)

張魯の将

韋康の副将

趙昂の妻



「わかった。民の命には変えられん。おとなしく降伏しよう」
韋康
(いこう)


「そうだ! やっと馬超たちに逆らう愚かさを思い知ったか!」
馬超
(ばちょう)


「だが約束通り、民はもちろん、私や配下の者には手出しするなよ」
韋康
(いこう)


「しつっこいわね。わかったからとっとと城門を開けなさいよ」
董夫人
(とうふじん)


「いいか、殺すなよ。絶対に殺すなよ。絶対に絶対だぞ。
――よし、門を開けろ!」
韋康
(いこう)


「ご苦労。…………死ね」
楊昂
(ようこう)


「ぎゃああああああ!!!」
韋康
(いこう)


「何をするんだ楊昂!?」
馬超
(ばちょう)


「張魯(ちょうろ)師君に逆らう者には死、あるのみだ」
楊昂
(ようこう)


「……まあ、あれだけ念入りに前振りされたらやりたくなるわな」
馬岱
(ばたい)


「き、貴様ら……約定を違えるつもりか!」
楊阜
(ようふ)


「案ずるな。城主の首さえ取れば、貴様らを殺すまでもない。
貴様らと民はせいぜい師君のためにこき使ってやろう。
ヒッヒッヒッ」
楊昂
(ようこう)


「外道が……」
董夫人
(とうふじん)


「くっ…………」
趙昂
(ちょうこう)


(あんた、やめときな。
ここで斬りかかったって無駄死にするだけじゃ)
王異
(おうい)


(しかしこのままじゃ、関中一帯は再び馬超の手に落ちちまうぞ!)
趙昂
(ちょうこう)


(ウチがそんなことにはさせん。
見たところ、馬超と張魯の仲も一枚岩というわけじゃないけん。
ヤツらの間にくさびを打ち込んでやるけんのう……)
王異
(おうい)


「………………」
董夫人
(とうふじん)



冀城 王異の私室




「あんたも関中の女じゃから知っとろうが、関中のモンはみんな頑固じゃ。
寒さで脳味噌が凍っとるからな。なかなか言うことを聞かん」
王異
(おうい)


「さんざん苦労してきたって口振りね」
董夫人
(とうふじん)


「ウチの亭主はそん中でも図抜けた頑固者じゃ。
口では降伏した言うても、心のなかじゃ納得しとらん。
じゃからついつい反抗的な態度を取っちまうんじゃ」
王異
(おうい)


「……韋康が斬られた時、あなたの旦那さん、趙昂が刀に手を掛けたのを見たわ。
それは叛意があったからじゃなく、本能的にやっただけと言いたいのね」
董夫人
(とうふじん)


「そうじゃそうじゃ。やっぱりあんたは賢い娘じゃの。
亭主にはウチからきつく言い聞かしておく。じゃから、今度のことは大目に見てくれんか」
王異
(おうい)


「あたしの旦那だって似たようなものよ。いえ、もっと単細胞だわ。
あなたがしっかり手綱を握ってくれるんだったら、咎め立てはしないつもりよ」
董夫人
(とうふじん)


「おおきに。あんたは娘っ子とは思えんくらい偉い人じゃな。
見たところ、馬超はんの軍勢をしきってるのはあんたじゃろ。
同性として誇らしいのう」
王異
(おうい)


「あなたこそ、弓を取らせたら右に出る者のない女傑だという噂をかねがね聞いているわ。
……あたしは天涯孤独の身で、女の知己なんて数えるほどしかいないの。
あなたとは仲良くやっていけたらいいと願ってるわ」
董夫人
(とうふじん)


「関中の馬鹿な男どもを支えられるのはウチら女しかおらん。
こっちこそよろしく頼むけんのう」
王異
(おうい)



祁山(きざん)

姜叙
(きょうじょ)
姜夫人
(きょうふじん)

祁山の守将

姜叙の母



「鍾繇殿や曹彰殿下は羌族と、夏侯淵将軍は韓遂とにらみ合い、身動きが取れぬ。
このままでは関中は再び馬超の手に落ちてしまう。
姜叙、お前の力が必要なんだ」
楊阜
(ようふ)


「ううううう…………」
姜叙
(きょうじょ)


「すでに裏では趙昂が兵を集めている。
夫人の王異も馬超らを油断させるため息子を人質に差し出すなど画策している。
あとは多くの私兵を持つお前が味方についてくれれば、必ずや反乱はうまく行くだろう」
楊阜
(ようふ)


「で、でももし失敗すれば、我々も韋康と同じ目に遭うのではないか?
な、なあ楊阜。この話は聞かなかったことにするから、ぼくを計画に巻き込むのは考え直して――」
姜叙
(きょうじょ)


「こんの馬鹿息子がああっ!!」
姜夫人
(きょうふじん)


「か、母ちゃん!?」
姜叙
(きょうじょ)


「おめえは曹操丞相に受けた恩を忘れたんか? 楊阜殿に掛けた迷惑を覚えとらんのか?
楊阜殿はおめえをかばって深手を負い、馬にも乗れなくなったんじゃろうが。
いざという時に恩返しもできねえようなヤツは息子でもなんでもねえ。さっさと出て行け!」
姜夫人
(きょうふじん)


「うううううう……」
姜叙
(きょうじょ)


「ご、御母堂。あなたは病に臥せっていると聞いています。どうか無理をなさらずに」
楊阜
(ようふ)


「いま無理をせずにいつ無理をするんじゃ!
こんの馬鹿息子のケツをぶっ叩いて、しゃきっと立たせんことにはおちおち寝てもいられんわ!
姜叙! やれんのかやれないのかどっちなんじゃ!?」
姜夫人
(きょうふじん)


「や……やるよ! やるよ母ちゃん!
ぼくだって母ちゃんの息子だ! やってやんよ!」
姜叙
(きょうじょ)


「それでこそおれの息子じゃ!
国のために戦死したお父も草葉の陰から見守っとるぞ! しゃきっと立たんかい!」
姜夫人
(きょうふじん)


「うん!!」
姜叙
(きょうじょ)


「そうと決まったら旅支度をせんといかんな。
ほれほれ、早く用意をせんか」
姜夫人
(きょうふじん)


「え? 旅支度ってなんだい母ちゃん」
姜叙
(きょうじょ)


「これじゃから男どもは頼りにならん!
おれが馬超の人質になるんじゃ。そうすればお前が反乱しようなどとは疑わんじゃろ」
姜夫人
(きょうふじん)


「そ、そんなことをしたら母ちゃんが反乱の時に殺されちまうよ!」
姜叙
(きょうじょ)


「それがどうしたんじゃ!
大義をなすためにはババアの首の一つや二つ、喜んで差し出すのが当然じゃろうが!」
姜夫人
(きょうふじん)


「か、母ちゃん。ぼ、ぼくは……ぼくは……。おーいおいおいおいおい……」
姜叙
(きょうじょ)


(董白に王異といい、この御母堂といい関中の女は強すぎる……)
楊阜
(ようふ)



冀城




「楊阜、趙昂、姜叙の兵はすでに城内の要所をおさえている!
もはや撤退するしかなかろう」
龐徳
(ほうとく)


「フン。こうもたやすく足元をすくわれるとは音に聞く錦馬超も大したことはないな。
我々は張魯師君のもとへ帰る。後始末は任せた」
楊昂
(ようこう)


「あんにゃろ……。元はと言えばあいつが無駄に韋康を殺すから反感を買ったんやろうが!」
馬岱
(ばたい)


「愚痴を叩くのは後にしなさい。王……反乱の首謀者どもは祁山に逃れて指揮をとっているそうよ。
そいつらを叩けば城を取り戻せるわ」
董夫人
(とうふじん)


「そうか! ならば馬超は首謀者を討つ!」
馬超
(ばちょう)


「さあ、退路を断たれる前に逃げるわよ」
董夫人
(とうふじん)


「…………董白?」
馬超
(ばちょう)


「何よ。今は一刻を争ってるの。さっさと行きなさいよ」
董夫人
(とうふじん)


「いや、なんだか君がさみしそうに見えたから、ちょっと気になって」
馬超
(ばちょう)


「……余計なお世話よ!
こんな時に限って気を回してる暇があったら、さっさと敵の後を追いなさい!」
董夫人
(とうふじん)



祁山 曹操軍

閻温
(えんおん)

楊阜の将



「張魯から差し向けられていた援軍を率いていた楊昂は撤退したが、
その際に火を放ち、人質は残らず殺されたそうじゃ……。
おお……息子よ! 父を許してくれ!」
趙昂
(ちょうこう)


「母ちゃん……。うううううう……」
姜叙
(きょうじょ)


「泣いてる暇があったら防戦の準備を整えるんじゃ!
子供はまた産めばええ。親が子より先に死ぬのは当たり前じや。
今は馬超と戦うことを考えんかい!」
王異
(おうい)


「お、おう。お前は強いのう……。
よっしゃ。姜叙、楊阜! 女に負けてばかりじゃいられんぞ。
今度はわしら関中の男の強さを見せつけてやるんじゃ!」
趙昂
(ちょうこう)


「お、おう! やってやるけんのう!」
姜叙
(きょうじょ)


「……だが意気が盛んなだけでは勝つことはできん。
夏侯淵将軍に反乱の成功を知らせ、連携を図らなければ」
楊阜
(ようふ)


「その役目はわしに任せんしゃい。馬超の陣を突破して、連絡をつけてやるけんのう」
閻温
(えんおん)


「張魯の援軍を失い、馬超の兵は決して多くない。
夏侯淵将軍が駆けつければ、馬超を挟撃し、打ち破れるだろう。
頼んだぞ、閻温!」
楊阜
(ようふ)



祁山 馬超軍




「………………」
閻温
(えんおん)


「えらいこっちゃで。夏侯淵はいったん韓遂との戦いを切り上げて、わてらの背後を襲おうとしとるそうや。
夏侯淵が来る前に祁山を落とさんと、わてらに勝機はあらへん」
馬岱
(ばたい)


「閻温さんと言ったかしら? 貴重な情報を提供してくれてありがと。
ついでにちょっと協力してくれないかしら。うまく行ったら命は助けてあげてもよくてよ」
董夫人
(とうふじん)


「あ、ありがたい……。助けてくれるならどんなことでもしよう」
閻温
(えんおん)


「簡単なことよ。これから祁山のお味方に向かって、夏侯淵の援軍は来ないって言ってくれればいいだけ」
董夫人
(とうふじん)


「お安い御用だ。さあ、早くつれていってくれ」
閻温
(えんおん)


「なんや。骨のない使者でんなあ。
――ほれ、ここからなら祁山の兵にもよう聞こえるやろ。さっさと言わんかい」
馬岱
(ばたい)


「……楊阜! 趙昂! 王異! 姜叙!
同志よ! 夏侯淵将軍は間もなく馬超の背後を襲う! それまでの辛抱だ!」
閻温
(えんおん)


「!?」
董夫人
(とうふじん)


「「「「うおおおおおおおおっ!!!!」」」」
楊阜
(ようふ)
趙昂
(ちょうこう)
王異
(おうい)
姜叙
(きょうじょ)


「……やられたな」
龐徳
(ほうとく)


「この……また騙したわね! こいつを殺しなさい!
こうなったら強引にでも祁山を陥落させるのよ!」
董夫人
(とうふじん)


「おう! 馬超は敵を倒す!!」
馬超
(ばちょう)


「者どもひるむな! 援軍は来る! それまで持ちこたえろ!」
楊阜
(ようふ)


「ここが踏ん張りどころじゃ! ド根性見せんかい!」
趙昂
(ちょうこう)


「母ちゃんが、犠牲になった人質や閻温が見守っとる! 恐れることはない!」
姜叙
(きょうじょ)


「馬超! あんたら覚悟しいや!」
王異
(おうい)


「……敵軍の士気は上がりに上がっている。これではとうてい崩すことはできん」
龐徳
(ほうとく)


「うるさい! 何が何でも祁山を落とすのよ!」
董夫人
(とうふじん)


「ああ! 馬超は勝つ!!」
馬超
(ばちょう)


「……らしくないで姐御。あんさんの頭に血が上ったら、わてらはどうしようもない。
落ち着いてここは冷静な判断をするんや」
馬岱
(ばたい)


「くっ……。
撤退! いったん漢中に撤退するわ!」
董夫人
(とうふじん)


「わかった! 馬超は董白を逃がすために殿軍を務めつつ敵を全滅させる!」
馬超
(ばちょう)


「殿は我が頃合いを見て撤退させる。馬岱殿は奥方を頼む」
龐徳
(ほうとく)


「ああ。殿は任せたで。
さあ、早く逃げるんや姐御」
馬岱
(ばたい)


「………………王異」
董夫人
(とうふじん)






かくして馬超の逆襲は楊阜らの抵抗により失敗に終わった。
だが反逆児の牙は抜け落ちることなく、馬超は漢中に戻り再起の目を窺う。
その頃、東では曹操と孫権が赤壁以来の邂逅をしていた。




〇六一   濡須口の戦い