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三 国 志

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〇六五   その名は錦馬超





雒城(らくじょう)




「あたしの古い友人に霍峻(かくしゅん)って男がいましてね。
ここから北に行った所にある葭萌関(かぼうかん)って砦を守ってるんだ。
これが馬鹿の付くくらい真面目な男で、冗談なんて一切口にしない。
そんな彼が「孟ちゃん、俺の砦を馬超が攻めてくるよ」なんて言うんだ。
あたしは「よせや~い。馬超が来るわけないだろ」ってね。だって馬超は漢中(かんちゅう)にいるんだ。
葭萌関を攻めてくるわけがない。夢でも見たんだろってね。その時は思ったんだ。
でも霍峻は「本当だよ。本当なんだよ」ってしつこく言う。あたしも彼の正直さはよく知ってるからね。
これはおかしいぞ。本当に馬超がいるんじゃないかってだんだん思ってきてね」
孟達
(もうたつ)


「あわわわわわわわわ」
劉備
(りゅうび)


「そしたら霍峻が「孟ちゃんあれだよ!」って急に叫んだ。
あたしはびっくりして彼の指差す方を見た。でも誰もいない。だ~れもいない。誰もいないんだ。
てっきり冗談だと思ってね。あたしは「おどかすなよ~」って笑った。でも霍峻は笑ってないんだ。
真剣な顔のまま「馬超が来る。馬超が来るんだよ」って繰り返すんだ。
あたしはだから「どこから来るんだよ。馬超はどこから来るんだよ!」って。彼に聞いた。
そしたら彼は……」
孟達
(もうたつ)


「彼は…………?」
劉備
(りゅうび)


「お前の後ろだあああっ!!!」
孟達
(もうたつ)


「ぎゃあああああああああああああ!!!」
劉備
(りゅうび)


「本当に馬超の軍が攻めて来ていたと。そういうお話です……」
孟達
(もうたつ)


「長い! 長すぎるぜよ!
つまり、葭萌関に馬超が攻めてきたと、それだけの話じゃな?」
法正
(ほうせい)


「曹操を窮地に陥れたっていうあの馬超ね。
これは劉璋と戦ってる場合じゃないわよ。急いで迎撃しないと」
張飛
(ちょうひ)


「そうだ。貴様らはさっさと葭萌関に向かえ」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「し、諸葛亮!?」
張飛
(ちょうひ)


「亮さん! 来てくれたんか!」
劉備
(りゅうび)


「貴様らでは馬超に勝つことはできぬからな。
余がじきじきに采配を振るってやろう」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「お、おまんが諸葛亮か……。
噂に聞いてたより強烈な奴じゃな」
法正
(ほうせい)


「あいかわらず神出鬼没のバケモノみたいな男ね……。
でも残念だけど諸葛亮、アンタの出番はないわよ。
馬超なんてアタイが踏んづけてやるんだから!」
張飛
(ちょうひ)


「ほう。貴様なら余の力を借りずとも馬超を破れると?」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「馬超ってのは策もなんもない、猪武者らしいじゃないの。
それに豪傑と戦えると聞くと、喜んで一騎打ちに応じるって言うわ。
それなら兵も策もいらないわ。アタイが馬超を討ち取ってやるわよ!」
張飛
(ちょうひ)


「貴様が馬超を一騎打ちで破る……?
クックックッ……これは傑作だ。面白い冗談ではないか」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「なにがおかしいのよ!!」
張飛
(ちょうひ)


「ならば問おう。貴様はこれまで一騎打ちで誰を討ち取ってきた?
さぞや名のある将の首を挙げてきたのだろうな」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「んぐ……。
そ、そうね。いちいちそんなこと覚えちゃいないけど、たとえば……。
ま、まず鄧茂(とうも)でしょ。そ、それに郝萌(かくぼう)。あと曹豹(そうひょう)とか……」
張飛
(ちょうひ)


「鄧茂(笑)。郝萌(笑)。曹豹(爆)」
黄月英
(こうげつえい)


「そ、そうだわ! 呂翔(りょしょう)も討ち取ってるわよ!」
張飛
(ちょうひ)


「呂翔(核爆)」
黄月英
(こうげつえい)


「これはこれは。さすが劉備軍の重鎮、世に名高き張飛将軍だ。
燦々たる実績であらせられるな。
――おお、よく見ればそこに趙雲がいるではないか。
参考までに聞くが、劉備に仕官してから張飛の半分も経っていない貴様は今までに誰を斬った?」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「自分は大した実績ないッスよ。無名の相手ばかりッス。
呂曠(りょこう)、晏明(あんめい)、夏侯恩(かこうおん)、淳于導(じゅんうどう)、張繍(ちょうしゅう)、高覧(こうらん)。
あと侯成(こうせい)、何儀(かぎ)、邢道栄(けいどうえい)、陳応(ちんおう)、鮑隆(ほうりゅう)――」
趙雲
(ちょううん)


「う、うっさいわね! だまんなさいよ趙雲!
アタイだってそこにいる厳顔も、あの張任だって、その気になれば討ち取れてたのよ!」
張飛
(ちょうひ)


「………………」
厳顔
(げんがん)


「それにアタイは官軍にいた頃は一つの戦で八百八人の兵の首を挙げて――」
張飛
(ちょうひ)


「要するに弱い者いじめが得意なのか」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「お前、意外としょぼいんだな」
簡雍
(かんよう)


「うるさいうるさいうるさーーい!!
見てなさいよ! アタイ一人で馬超の首を持ってきてやるんだから!!」
張飛
(ちょうひ)


「ち、張さんが怒って出て行っちまったぞ。
本当に馬超さんと戦いに行ったんじゃろか……。
たしかに言われてみれば張さんの実績はあんまり大したこと無いけど、ちょっと酷いんじゃないか亮さん」
劉備
(りゅうび)


「馬鹿め。
勝ち戦続きであの偽女は天狗になっていた。
油断せぬよう少々、お灸を据えて鼻をへし折ってやっただけだ」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「ということは、馬超の相手は張飛に任せるのか?」
法正
(ほうせい)


「言うまでもない。馬超の蛮勇に正面から立ち向かえる者がいるなら、
それに任せれば話が早いではないか。余は貴様ら暇人と違い忙しいのだからな」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「…………と、とにかくここはワシが引き受けるから、おまんらは張飛の後を追い、葭萌関に急ぐぜよ!」
法正
(ほうせい)



葭萌関 馬超軍

楊白
(ようはく)

張魯の臣



「おのれ葭萌関め! 馬超の攻撃をしのぐとは見事だ!」
馬超
(ばちょう)


「すんまへん殿、葭萌関に劉備の援軍が入るのを防げんかった。
援軍を率いてる張飛ってのがえらい強くて歯が立たんわ」
馬岱
(ばたい)


「張飛か! その勇名は馬超も聞いたことがあるぞ!
特に誰か名のある大将首を獲っているわけではないが、ものすごく強いとな!」
馬超
(ばちょう)


「……それって本当に強いのかしら」
董夫人
(とうふじん)


「ならば本当に強いかどうか馬超の槍が確かめてやる!」
馬超
(ばちょう)


「はいはい。例によって待ちなさい。
アンタ一人で突っ込んだら危な――」
董夫人
(とうふじん)


「見よ。葭萌関から誰かが一騎で出てきたぞ。
あれは噂の張飛ではないのか?」
楊白
(ようはく)


「アタイの名は張飛! 馬超! 今すぐアタイと戦いなさい! 一騎打ちよ!」
張飛
(ちょうひ)


「おお! 張飛が馬超を呼んでいる! 今行くぞ張飛!」
馬超
(ばちょう)


「だから待ちなさいって! せっかく敵の大将格がのこのこ出てきてくれたのよ。
遠くから矢を射かけて討ち取っちゃえばいいのよ」
董夫人
(とうふじん)


「董白、君の言葉でもそればかりは聞けないよ!
そんな卑怯な真似は星になった父ちゃんが許さない!
馬超は正々堂々と一騎打ちをする!」
馬超
(ばちょう)


「で、でも敵の罠かもしれないし、そうじゃなくてももしアンタが負けたら――」
董夫人
(とうふじん)


「馬超は負けない!!」
馬超
(ばちょう)


「……あかん。病気で漢中に置いてきた龐徳がいればまだしも、こうなった殿はもう止められへん」
馬岱
(ばたい)


「何を迷うことがある。要は馬超が勝てば良いのだ。
行け馬超。張魯師君のために戦うのだ」
楊白
(ようはく)


「行くとも! 董白! 君のために張飛の首をかっ飛ばして見せるよ!」
馬超
(ばちょう)


「……その董白は別にそんなこと望んでないんだけど」
董夫人
(とうふじん)


「行くぞ張飛いいいいいいいい!!」
馬超
(ばちょう)



葭萌関 劉備軍

霍峻
(かくしゅん)

葭萌関の守将




「馬超おおおおおおおお!!」
張飛
(ちょうひ)


「張飛いいいいいいいい!!」
馬超
(ばちょう)


「あ、あれが音に聞く張飛殿か。あの馬超と互角に打ち合うとは……」
霍峻
(かくしゅん)


「うんうん。どうじゃ、うちの張さんは強いじゃろ?」
劉備
(りゅうび)


「その調子よ張飛! 女のド根性見せてやんなさい!」
鄧賢
(とうけん)


「本当に五分と五分だな。これはちょっと決着がつきそうにないぞ」
簡雍
(かんよう)


「い、いいのですか軍師殿? このままでは張飛殿に危険が――」
孫乾
(そんけん)


「良いも悪いもない。なかなかの余興ではないか。貴様ももっと楽しめ」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「ほれ張さん右じゃ! いややっぱり左じゃ! 左に回り込め! 正面にも気をつけるんじゃぞ!」
劉備
(りゅうび)


「アンタは! 黙って! 見てなさい!」
張飛
(ちょうひ)


「やるな張飛! 馬超とここまで戦えるのはお前で四人目だ!」
馬超
(ばちょう)


「結構いるのね! アンタ実は大したこと無いんじゃないの!」
張飛
(ちょうひ)


「お前こそ大した将を討ち取っていないと聞いていたぞ!」
馬超
(ばちょう)


「それ関中にまで知れ渡ってんの!? だ、だったらそういうアンタは誰を討ち取ったのよ!」
張飛
(ちょうひ)


「郭援(かくえん)! 李通(りつう)! あと許褚とも互角に戦った!」
馬超
(ばちょう)


「フ、フン……。まあまあやるじゃないのさ!
でもこれまで誰を討ち取ったかなんて関係ないのよ! ここでアンタの首を挙げればいいんだから!」
張飛
(ちょうひ)


「同感だ!!」
馬超
(ばちょう)



葭萌関 馬超軍




「……もう日が暮れてまうで。馬や武器を3回取り替えて、
食事休憩まで2回挟んで、それでも決着がつかん」
馬岱
(ばたい)


「………………」
董夫人
(とうふじん)


「だがあれだけの相手だ。張飛とやらを討ち取れば、劉備軍の士気は地に落ちるだろう。
そうなれば葭萌関を落とし、劉備軍を蹴散らすこともたやすい」
楊白
(ようはく)


「大丈夫か姐御? 顔色が真っ青やで。帰ったほうがええ」
馬岱
(ばたい)


「…………あたしは馬超の戦いを見届ける」
董夫人
(とうふじん)


「ヒッヒッヒッ。殊勝な心がけだ。張魯師君のためにもせいぜい夫の勝利を祈るのだな」
楊白
(ようはく)


「………………馬超」
董夫人
(とうふじん)



葭萌関 劉備軍




「きゃあ危ない!!」
張飛
(ちょうひ)


「何をやっとるんじゃ張さん!!」
劉備
(りゅうび)


「日が沈んで相手もろくに見えないのでしょう。疲労も溜まっているしこれ以上戦うのは危険です!」
孫乾
(そんけん)


「人間ってのは暗闇を恐れますからねえ。あたしも以前、山に登った時に――」
孟達
(もうたつ)


「孟ちゃんの長い話を聞いてる暇はない。劉備殿、早く撤退命令を!」
霍峻
(かくしゅん)


「もうちょっと見てたい気もするんじゃが……。しかたない。撤退させとくれ」
劉備
(りゅうび)


「……駄目だな。今の二人には雑音は聞こえないようだ。
これは劉ちゃんが自ら止めに入るしかないぞ」
簡雍
(かんよう)


「ええっ!? ち、張さんと馬超さんの間に割って入るんか?
わ、わしは嫌じゃぞ。誰か代わりに行ってくれんか」
劉備
(りゅうび)


「だが力ずくで止められそうな趙雲も黄忠も魏延も、法正と一緒に雒城の守備に置いてきちまった。
いちおう義兄の劉ちゃんが命令するのが一番だろう」
簡雍
(かんよう)


「そ、そうじゃ、亮さんの知恵なら二人を止められるんじゃないか?」
劉備
(りゅうび)


「余は肉体労働は好まぬ」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「な、なら月英さん!」
劉備
(りゅうび)


「嫌です。いやーん。月英こわーい。です」
黄月英
(こうげつえい)


(女に頼ろうとしたぞこの男……)
孫乾
(そんけん)


「お、お願いじゃ。後生じゃから誰か、誰か代わりに――」
劉備
(りゅうび)


「さっさと行け」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「うひゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
劉備
(りゅうび)


「劉備!? ちょっとアンタ、馬で突っ込んできてどういうつもりよ!
ここは危ないから下がってなさい!」
張飛
(ちょうひ)


「だ、だって亮さんが的盧さんの尻をぶっ叩いて無理やり……」
劉備
(りゅうび)


「お前が劉備か? 何の用だ。見ての通り馬超たちは忙しい!」
馬超
(ばちょう)


「そ、そのー。なんというか……。もう暗いし、帰ったほうがいいってみんなが言っとるし……」
劉備
(りゅうび)


「子供か!」
張飛
(ちょうひ)


「うん? そういえば辺りが暗いな。これでは戦いづらい。
待っていろ、部下に火を持ってこさせる」
馬超
(ばちょう)


「そう来なくっちゃ!」
張飛
(ちょうひ)


「じゃ、じゃが――」
劉備
(りゅうび)


「なんやなんやお前は! ――劉備だと? 敵の大将がなんのつもりや。
一騎打ちの邪魔すんなら、わてが相手になるで!」
馬岱
(ばたい)


「馬超の邪魔をするな!」
董夫人
(とうふじん)


「ひいっ! わ、わしはそんなつもりじゃないぞ。
ただ、こう暗くては戦えぬからもう辞めたほうがいいと――」
劉備
(りゅうび)


「だから灯りを用意すると言っている! 馬岱! すぐに篝火を百本用意しろ!」
馬超
(ばちょう)


「いや……劉備はんの言うことももっともや。
今日はここまでにして、明日改めて戦ったらどうや?」
馬岱
(ばたい)


「いいえ。すぐに火を用意しなさい。
言ったはずよ。あたしは最後まで見届けると」
董夫人
(とうふじん)


「董白…………」
馬超
(ばちょう)


「べっぴんさん…………」
劉備
(りゅうび)


「待て! この勝負はここまでだ!」
李恢
(りかい)


「次から次へと誰だ! んん? よく見れば父ちゃんの旧友の李恢じゃないか。
劉備軍に降ったと聞いているが今さら何の用だ」
馬超
(ばちょう)


「馬超、お前が劉備殿と戦うと聞いてあわてて飛んできたのだ。
諸葛亮殿は何も言わずいなくなるのだから困る……。とにかく間に合ってよかったぞ。
お前たちは心得違いをしている。なぜ劉備殿と戦うのだ?」
李恢
(りかい)


「張飛を倒すためだ!」
馬超
(ばちょう)


「あかん。また目先にだけ神経が行っとる。
……ええと、張飛を倒し、劉備を倒し、さらに劉璋を倒し、益州を制圧するんが目的やで」
馬岱
(ばたい)


「そんな瑣末な目的は聞いていない。お前たちの最終目的はなんだ」
李恢
(りかい)


「…………曹操を倒すことよ」
董夫人
(とうふじん)


「ならばなぜ劉備殿と戦う? 劉備殿こそ長年にわたり曹操と戦ってきた方ではないか!
お前たちは目先の利にとらわれ、張魯に踊らされているだけだ。
劉備殿とともに曹操と戦うことこそが、真に歩むべき道であろう。早く目を覚ませ!」
李恢
(りかい)


「むむむ」
馬岱
(ばたい)


「何がむむむだ! お前や董白がついていて、なぜ馬超に道を誤らせる?
死んだ馬騰も草葉の陰で泣いているぞ!」
李恢
(りかい)


「父ちゃんが……泣いている……?」
馬超
(ばちょう)


「……李恢の言う通りね。あたしたちは本当の目的を見失っていたわ。
劉備、聞いての通りよ。アンタに降伏するわ。受け入れてもらえるかしら?」
董夫人
(とうふじん)


「も、もちろんじゃ! 強い人やべっぴんさんは大歓迎じゃぞ!
……断ったらこの場で斬られちまいそうじゃし」
劉備
(りゅうび)


「董白のことだ。それも計算に入れているのだろう。
馬超、お前もそれで良いな?」
李恢
(りかい)


「よくわからないが馬超は董白に従うだけだし、父ちゃんを泣かせるようなことはしない!
それに劉備陣営に入ればいつでも張飛と戦えそうだ!」
馬超
(ばちょう)


「ずいぶんと虫のいい話ね。でもまあ、アンタたちなら歓迎す――」
張飛
(ちょうひ)


「今だ! うなれ業火よ!!」
楊白
(ようはく)


「な!?」
馬岱
(ばたい)


「ヒッヒッヒッ。馬超よ、お望み通り火を用意してやったぞ!」
楊白
(ようはく)


「くっ! すっかり火に囲まれてしまった」
李恢
(りかい)


「しまった! この展開は予想できたはずなのにあたしとしたことが……」
董夫人
(とうふじん)


「ご苦労であったな馬超よ。劉備をおびき寄せてくれた礼に、お前もろとも地獄へ送ってやる」
楊白
(ようはく)


「おのれ裏切ったな楊白!」
馬超
(ばちょう)


「先に裏切ったのはアンタの方でしょ!
……って突っ込んでる場合じゃなかったわね。やばいわよこれ」
張飛
(ちょうひ)


「あわわわわわわわわわ」
劉備
(りゅうび)


「ヒッヒッヒッ。裏切り者の馬超はもちろん劉備まで討ち取ったとあれば、師君もさぞお喜びに――」
楊白
(ようはく)


「くだらぬ」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「へ? ……お、おれの業火の術が……扇の一あおぎで……消え……た?」
楊白
(ようはく)


「興醒めだ。余興を楽しんでいたところに水を差しおって」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「火を消したのだから水を差したのは御主人様の方だと思うです」
黄月英
(こうげつえい)


「黙れ。殺せ」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「はい。殺すです」
黄月英
(こうげつえい)


「く、来るな! な、なぜだ! なぜ火が放てぬ!? ひ、ヒィィィィィィィイイ!!」
楊白
(ようはく)


「殺したです。11回刺したら死んだです。手から火を出してたけど仙人じゃないみたいです」
黄月英
(こうげつえい)


「当然だ。余ではなく劉備を先に葬ろうとする愚者が仙人になれるものか」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「助かったぞ! さすが亮さんじゃ!」
劉備
(りゅうび)


「あ、アンタが諸葛亮……? と、とりあえず礼を言っとくわ」
董夫人
(とうふじん)


「貴様の礼など不要だ。それよりもすぐに成都へ進撃しろ」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「今すぐ成都へ? ずいぶん急じゃないの」
張飛
(ちょうひ)


「降伏したという話が伝わるより先に馬超が成都へ現れるのだ。
クックックッ……。劉璋め、さぞや肝を潰すであろうな」
諸葛亮
(しょかつりょう)


(こいつのほうが曹操よりよっぽどラスボスっぽいで……。
もしかして、えらいヤツに降ってもうたんやないか)
馬岱
(ばたい)



成都




「劉璋! 聞こえているか!?」
馬超
(ばちょう)


「な、なになに? 誰かがぼくを呼んでるよー!」
劉璋
(りゅうしょう)


「あれは――馬超!!」
秦宓
(しんふく)


「馬超は劉備に力を貸すことに決めた! もはやお前たちに勝機はないぞ!」
馬超
(ばちょう)


「むう……。黄権(こうけん)は南方の防衛に向かっておるし、戦える将がいない。たしかに厳しいな」
劉巴
(りゅうは)


「龐徳はどこだ! なにゆえ我々を裏切った!?」
龐羲
(ほうぎ)


「龐徳は置いてきた! 冷たいようだが、病でこの戦いにはついて行けない!」
馬超
(ばちょう)


「わてらの真の目的は曹操の打倒や。目的を同じにする劉備はんと組むのは当然のこっちゃ。
悪く思わんといてや」
馬岱
(ばたい)


「くっ…………」
龐羲
(ほうぎ)


「成都は完全に包囲されてるわ。おとなしく降伏しないなら一斉攻撃させてもらう」
董夫人
(とうふじん)


「だ、そうだ」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「劉璋さんやーい。悪いことは言わんから降伏してくれんかのう?
今さらじゃけど、わしは劉璋さんと戦いとうないんじゃ」
劉備
(りゅうび)


「本当に今さらだけどな」
簡雍
(かんよう)


「どどどどどどうすればいいの!? ぼく怖いよー……」
劉璋
(りゅうしょう)


「こ、降伏しましょう! 馬超が敵に回ったらどうしようもありません!」
許靖
(きょせい)


「さっきから馬超馬超ってアタイのことも話題に出しなさいよね!
その馬超と互角に戦った張飛もいんのよ!」
張飛
(ちょうひ)


「及ばずながら趙雲もいるッス!」
趙雲
(ちょううん)


「劉備軍だけではない。すでに益州軍の重鎮たちも多くが降っておる」
厳顔
(げんがん)


「俺たちもあんたらとは戦いたくねえ」
雷銅
(らいどう)


「我々からも劉備殿に口添えいたす。心配せず降られよ」
呉蘭
(ごらん)


「はいはい、それがいいですよ」
呉懿
(ごい)


「降るか戦うか早く決めろ! 馬超は気が短いんだ!!」
馬超
(ばちょう)


「怖いよー。えーん。えーん」
劉璋
(りゅうしょう)


「………………ここまで、か」
劉巴
(りゅうは)





かくして錦馬超は劉備に降った。
劉備軍は益州の首都・成都に迫り大勢は決した。
天下三分の計、その第一歩がいま刻まれようとしていた。




〇六六   天下三分の計