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三 国 志

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〇七七   軍神・関羽





襄陽(じょうよう)

胡脩
(こしゅう)
傅方
(ふほう)

魏の荊州刺史

魏の将



「くそおっ! 潘濬ーーッ!!」
関興
(かんこう)


「俺のことはいいから逃げろ! 俺はともかくアンタは捕まったら殺されるんだ!」
潘濬
(はんしゅん)


「すまぬ……。退却だ!!」
関興
(かんこう)


「身をていして主の子息を守ったか。見事な覚悟だ。
悪いようにはしない。我々に降られよ」
孫皎
(そんこう)


「…………クソが」
潘濬
(はんしゅん)


「なんだと?」
韓当
(かんとう)


「クソが!! 横からしゃしゃり出てきて俺と関羽のゲームを邪魔しやがって!
関羽に呼応して中原に沸き起こった反乱の渦が見えないのか?
アンタらもそれに続けて魏を攻めたら、あの曹操を倒すこともできたんだ!!」
潘濬
(はんしゅん)


「お前の思惑など知らぬ。我々は孫権艦長の意志に従うだけだ」
孫皎
(そんこう)


「で、てめえはどうしたいんだ? 戦うのか? 降るのか?」
韓当
(かんとう)


「……もうどうでもよくなった。横からひっくり返された盤面になんて興味ないよ。
殺すなり捕らえるなり好きにしろ」
潘濬
(はんしゅん)


「それなら一度、孫権艦長に会ってみないか。あたら若い命を散らすこともあるまい」
孫皎
(そんこう)


「…………好きにしろよ」
潘濬
(はんしゅん)


「あ、あのー」
胡脩
(こしゅう)


「お、お取り込み中ちょっといいですか?」
傅方
(ふほう)


「ん? なんだてめえらは」
韓当
(かんとう)


「襄陽を守っていた魏の荊州刺史と将だよ。
俺たちに降ってすぐ、孫権軍に俺たちがやられちゃったから、
自分たちの処遇がどうなるのか気にしてんじゃないの?」
潘濬
(はんしゅん)


「そ、そうなんですよ! いやあ話が早くて助かるなあ!」
胡脩
(こしゅう)


「そ、それで……あの、俺たちはどうなる、んでしようか……?」
傅方
(ふほう)


「……それでは劉備軍の捕虜になっていた魏の兵でも率いてもらおうか。
関羽を追撃するのを手伝ってくれ」
孫皎
(そんこう)


「かしこまった!!」
胡脩
(こしゅう)


「そういうことなら俺たちにお任せください!!」
傅方
(ふほう)


「……こいつらは殺しちまえばよかったんじゃねえか?」
韓当
(かんとう)



零陵(れいりょう)

呂岱
(りょたい)

孫権の将



「孫権ちゃんが遊びに来たの? わーい! いらっしゃーい!」
劉璋
(りゅうしょう)


「違う! 孫権軍が裏切ってこの零陵に攻め込んできたんだ!
私が治めていた武陵(ぶりょう)もすでに落とされた。えらいことになってしまった……。
いったい関羽は何をしているんだ!」
劉度
(りゅうど)


「関羽の本隊は撃破された。じきに首を取られるだろう。
お前らも観念して降伏しろ」
呂範
(りょはん)


「降れ」
呂岱
(りょたい)


「ええー。ぼくは劉備ちゃんにこの零陵を任されたんだよ。そう簡単に降伏なんてできないよ」
劉璋
(りゅうしょう)


「……お前は益州刺史から零陵太守に左遷されただけだろ。
刺史だったお前が都に残っていたらあとあと面倒だから、外地に出されたんだ。
なぜ劉備に義理立てする必要がある?」
呂範
(りょはん)


「劉備ちゃんはそんな人じゃないやい!
それに僕に零陵に行けって言ったのは劉備ちゃんじゃなくて諸葛亮ちゃんだもん!」
劉璋
(りゅうしょう)


「だったら諸葛亮に左遷されたんだ」
呂範
(りょはん)


「左遷だ」
呂岱
(りょたい)


「…………本当に?」
劉璋
(りゅうしょう)


「本当だ」
呂範
(りょはん)


「本当だ」
呂岱
(りょたい)


「本当だ」
劉度
(りゅうど)


「本当の本当に?」
劉璋
(りゅうしょう)


「本当の本当にだ。わかったら降伏しろ。悪いようにはせん」
呂範
(りょはん)


「…………劉備ちゃん」
劉璋
(りゅうしょう)



樊城(はんじょう)



「曹仁将軍! 助けに参ったぞ!」
殷署
(いんしょ)


「関羽の本隊は孫権軍に撃破された! 俺たちの勝利だ!」
朱蓋
(しゅがい)


「待ってました! 城門を開け! 俺たちも突撃するぞ! うおおおおおお!!」
曹仁
(そうじん)


「樊城の部隊も出撃したか。ならば我々が無理をすることもあるまい。
抵抗する相手は魏軍に任せ、逃げようとする敵だけを追え!」
全琮
(ぜんそう)


「おのれ孫権! 不意打ちとはなんと卑怯な!
もはや関羽将軍の生死もわからん。かくなる上は――」
廖化
(りょうか)


「だからお前は阿呆なのだああああっ!!」
呂常
(りょじょう)


「し、師匠!? い、いや呂常!!」
廖化
(りょうか)


「筋肉は多少ついたようだが、オツムの方はまるっきり成長していないようだな。
廖化よ、そんな傷だらけの身体でどこへ行くつもりだ?」
呂常
(りょじょう)


「知れたことを。誇り高き関羽将軍の配下として華々しく討ち死にするまでだ!」
廖化
(りょうか)


「この馬鹿弟子がああああっ!!」
呂常
(りょじょう)


「うあああああっ!!」
廖化
(りょうか)


「阿呆め! お前が討ち死にしたとて誰が喜ぶ?
一時の屈辱にだけ囚われ、たった一つの命を投げ出すなど言語道断!
そんなにも関羽を慕うならば、関羽のためにも――――んん?」
呂常
(りょじょう)


「………………」
廖化
(りょうか)


「しまった。やりすぎたか。気絶してワシの説教を聞いておらんではないか」
呂常
(りょじょう)


「………………」
廖化
(りょうか)


「まあちょうどいい。このまま孫権軍に突き出してくれる。
お前のその目で! 耳で! 皮膚で! 心で! 孫権軍を内から覗き見聞を広めるのだ。
世界は広い! 命を捨てるには早すぎるぞ廖化よ……」
呂常
(りょじょう)



麦城(ばくじょう)




「別働隊を率いていたお前が来てくれなければ危ういところだった。父も感謝しているぞ、蘇飛よ」
関平
(かんぺい)


「いや、急でこんな古城しか確保できなかった。兵糧も武器も足りない。長居はできないぜ」
蘇飛
(そひ)


「襄陽や樊城を包囲していた関興殿、廖化も撃破されたそうだ。
我々は四方を敵に囲まれている。じきにこの麦城にも魏・孫権の連合軍が迫ってくるだろう」
趙累
(ちょうるい)


「その前にどこかへ逃げ出さなければ……。
末弟の関索(かんさく)はこんな時にどこをほっつき歩いてるのだ!」
関平
(かんぺい)


「関索殿はずっと前から旅に出ていた。それに関索殿一人がいても状況は変わるまい。
落ち着くんだ若将軍。関羽将軍を見られよ」
趙累
(ちょうるい)


「………………」
関羽
(かんう)


「おお……。父上はいつもと全く変わらぬ平常心を保っておられる。
父上! その不動心を学ばせて頂きます!」
関平
(かんぺい)


「……荊州に展開していた部隊は残らず撃破されただろう。
俺の手勢はまだ余力がある。上庸(じょうよう)の劉封・孟達に援軍を求めてこよう」
蘇飛
(そひ)


「劉封らにはすでに一度断られている! 奴らを頼る必要などない!
関羽は独力でこの窮地を覆せる!」
関平
(かんぺい)


「じゃあ何もせず坐したまま死を待てってのか? 俺はごめんだね。
やるだけのことはやってみる。期待せず待ってな」
蘇飛
(そひ)


「蘇飛殿の言うとおりだ。脱出の機をうかがいつつ劉封殿らの援軍を待とう」
趙累
(ちょうるい)


「くっ…………」
関平
(かんぺい)



上庸(じょうよう)

申耽
(しんたん)

元・魏の上庸太守



「関羽将軍の救援に行くなだと?」
劉封
(りゅうほう)


「ええ。ここ上庸の周りには不穏な空気が漂ってるんだ。
なんせずっと魏の領域だったところだからね。劉備軍なんかには従わないぞ。ここは曹操の土地だぞって。
そう思ってる輩がたくさんいる。た~くさんいるんだ。だからここを離れたら危ない。
もし兵を減らしたりなんかしたら――わっ! と残党が蜂起してしまう。そういうお話です……」
孟達
(もうたつ)


「たしかにそう言って一度は援軍を断った。だが前とは状況が違う。
孫権軍が裏切り、荊州は陥落した。このまま放っておけば関羽将軍は殺されてしまう!」
劉封
(りゅうほう)


「……でもあちしたちが行ったからってどうにかなるのかしら? 魏軍も孫権軍もいっぱいいるのよ。
それに孟達が言った通り、あちしらが上庸の守備を手薄にしたら、そこにいる申耽とかが反乱するわよ」
鄧賢
(とうけん)


「い、いや。そんなつもりはない」
申耽
(しんたん)


「申耽は反乱しなくても、上庸から逃げてった敵兵はまだ近くに残ってるのよ。
そいつらが攻撃してきたらどうすんのよ?」
鄧賢
(とうけん)


「あたしの古い友達の霍峻(かくしゅん)が一月前から寝込んでましてね。
これまで風邪一つ引いたことのない男なのに、この上庸に越してきてから急に倒れたんだ。
それで見舞いに行ったら彼が「孟ちゃん俺はもう駄目だ」なんて言うんだ。
よせや~い何を弱気になってんだよって。風邪も引いたことない男だから、変に弱気になってんだよと。
あたしはそう言ったんですけどね。彼は真剣な顔で「だってさあ。影が見えるんだよ」なんてことを言う。
影? 影ってなんのことだいって聞いたら――」
孟達
(もうたつ)


「長い長い長い! 要するに霍峻が心配だ、霍峻が戦えないのに城を空けられるかと言いたいのか?
だったら俺が一人で援軍に行く! お前らには頼らん!!」
劉封
(りゅうほう)


「り、劉封殿は行ってしまいましたぞ。止められなくてよいのですか?」
申耽
(しんたん)


「劉封の手勢だけじゃ、どうせすぐ撃退されて戻ってくるわよ」
鄧賢
(とうけん)


「さ、さようですか……」
申耽
(しんたん)



麦城 南 孫権・魏 連合軍




「麦城に関羽を追い詰めました。ここで関羽の首を獲ります」
呂蒙
(りょもう)


「包囲の輪は何重にも築いたんで、いくら関羽でも逃げられないよね」
陸遜
(りくそん)


「関羽にはさんざっぱら煮え湯を飲まされた! 俺たちもお返しさせてもらうぜ!」
曹仁
(そうじん)


「そいつは頼もしい申し出ですが……しかし今回は我々に任せていただけませんかね」
呂蒙
(りょもう)


「なんだと? 我ら魏軍の力はいらぬと申されるのか?」
満寵
(まんちょう)


「ぶっちゃけると戦後の領土問題とかややこしくなっちゃいますんで。
ほら、麦城って魏と孫家の国境のちょうど境目あたりにありますし。
ま、今回は我々だけで関羽を討ち取りますよ」
呂蒙
(りょもう)


「それでは気が済まん! 荊州方面の全権は俺に任されている!
麦城はくれてやるから兵は出させろ! 関羽は魏の手で打つ!」
曹仁
(そうじん)


「ですが――――」
呂蒙
(りょもう)


「ここまで言ってくれてるのに断っちゃ悪いですよ。
せっかくだから手伝ってもらいましょうよ」
陸遜
(りくそん)


「……この戦の指揮官は陸遜だ。思うように任せますよ」
呂蒙
(りょもう)


「それじゃあ万が一のことがあったらまずいんで、曹仁さんは後方に控えててもらいます?
何部隊か出してもらえればいいんで。あ、だからって最前線でこき使ったりはしませんよ」
陸遜
(りくそん)


「曹仁将軍、ここはこらえられよ。我々も長い籠城戦で消耗しています。
援軍に来た殷署、朱蓋の部隊に任せましょう」
満寵
(まんちょう)


「フン! 勝手にしろ!」
曹仁
(そうじん)


「……どうにか妥協してくれましたね」
呂蒙
(りょもう)


「でもあんなに頑なに断らなくてもよかったんじゃないですか?
兵なんていくらあっても困らないでしょ」
陸遜
(りくそん)


「陸遜には悪いですが、これはあっしのわがままですよ。
関羽を討ち、荊州を奪取するのはあっしの悲願でした。関羽はあっしらの手で討つ。魏の助けはいりません」
呂蒙
(りょもう)


「ボクが指揮官だって持ち上げときながら、ちゃっかりしてるんだから……」
陸遜
(りくそん)


「あっはは。すいませんね。何年経ってもあっしは、若い頃の無鉄砲な阿蒙のままなんだ。
人生最期の戦いくらい、思うようにやらせてくださいよ」
呂蒙
(りょもう)


「………………呂蒙さん」
陸遜
(りくそん)



麦城 西




「…………どけよ。アンタとは戦いたくねえし」
甘寧
(かんねい)


「敵を見逃すと言うのか? 甘くなったな甘寧」
蘇飛
(そひ)


「昔、オレは命がけでアンタの命を救ったんだぜ?
なのになんでアンタの首をオレが獲らなきゃいけねえんだよ!
チキショー……。体調が悪いからって麦城の攻撃を外れて、周辺警戒になんて回らなきゃ良かったぜ」
甘寧
(かんねい)


「これも天命だ。来い、甘寧。来なければ俺がお前を殺す」
蘇飛
(そひ)


「そんなボロボロの身体でどうやってオレを殺すってんデスカ?
麦城から援軍を求めて抜け出したんだろ? でも包囲を突破できなくてボロボロにされたんだろ?」
甘寧
(かんねい)


「無駄口叩いてる暇があったら来いよ。鈴の甘寧も落ちたものだな!」
蘇飛
(そひ)


「クソがああああああっ!!」
甘寧
(かんねい)


「…………そうだ。それで、いい…………」
蘇飛
(そひ)


「クソ野郎が……。黄祖も、アンタも……。チキショー……」
甘寧
(かんねい)



麦城




「蘇飛も戻らなかった。おおかた包囲を突破できずに討たれたのだろう。
このまま籠城していても飢え死にするだけだ。
かくなる上は華々しく打って出るまで! 関羽の最期の戦を見せてやろうぞ!」
関平
(かんぺい)


「……関羽将軍、よろしいのですか?」
趙累
(ちょうるい)


「………………」
関羽
(かんう)


「この関羽が心も関平と同じ。いざ出陣だ! と父の心は震えている!」
関平
(かんぺい)


「……関羽将軍の武勇ならば、単騎であれば千に一つは包囲も突破できるであろう。
若将軍、我々は――」
趙累
(ちょうるい)


「黙れ黙れ! 関羽は将兵を犠牲にして逃げたりなどしない!
そんな生き恥をさらすくらいならば死を選ぶ! 行くぞ!!」
関平
(かんぺい)


「………………」
趙累
(ちょうるい)


「………………」
関羽
(かんう)



麦城 南

丁奉
(ていほう)
馬忠
(ばちゅう)

孫家の将

潘璋の副将



「関羽にはうかつに近づくな! 遠巻きにして矢を射かけるんだ!」
呂蒙
(りょもう)


「関羽がいくら勇猛だろうが矢の雨には勝てぬ! 撃って撃って撃ちまくれ!!」
駱統
(らくとう)


「ぐわああっ!! か、関羽将軍……。お先に、失礼いたす……。ぐぶっ」
趙累
(ちょうるい)


「………………」
関羽
(かんう)


「関羽にはぜんぜん矢が当たってないよ。青龍偃月刀でぜ~んぶ弾いちゃってます」
陸遜
(りくそん)


「これじゃらちが明かねえ! 俺が直接ぶった斬ってやる!」
潘璋
(はんしょう)


「やめろ潘璋さん! 関羽は個々の武勇でどうにかなる相手ではありません」
呂蒙
(りょもう)


「ならば……そっちの息子から血祭りに上げるでごわす!」
蒋欽
(しょうきん)


「この関平が父に遅れを取ると思うてか!」
関平
(かんぺい)


「………………」
関羽
(かんう)


「ち、父上! いけません! この程度の相手、関羽の手をわずらわせることはない!」
関平
(かんぺい)


「関羽の弱点は息子だ! 息子を狙えば隙ができるぞ!」
孫皎
(そんこう)


「くっ!! お、俺が父上の足手まといになるわけには――」
関平
(かんぺい)


「息子さんに矢を集中させちゃいましょう! みなさーん。関羽の息子が的ですよ!」
陸遜
(りくそん)


「来るなら来い!! もっと撃ってこいよ!!」
関平
(かんぺい)


「チッ! 息子のほうも意外とやるぜ! 矢が効かねえ!」
潘璋
(はんしょう)


「どけ。矢が駄目なら石だ。むううううううううん!!」
丁奉
(ていほう)


「なっ!? 鉄槌で岩を砕き破片を飛ばしてくるだと!?」
関平
(かんぺい)


「………………」
関羽
(かんう)


「駄目だ父上! 石を弾いたら青龍偃月刀が――」
関平
(かんぺい)


「!?」
関羽
(かんう)


「関羽の得物が折れたぞ! 矢を放て!!」
呂蒙
(りょもう)


「………………ッ!!」
関羽
(かんう)


「父上ーーーーーーッッ!!!」
関平
(かんぺい)


「関羽はハリネズミでごわす! お前もすぐに後を追わせてやるでごわす! どすこいっ!!」
蒋欽
(しょうきん)


「ぐわあっ!! ふ、不覚…………。
も、申し訳ありません……。俺は、父上の……関羽の足手まといにしか、ならなかった……」
関平
(かんぺい)


(………………関平)
関羽
(かんう)


「!?」
関平
(かんぺい)


(胸を張れ。お前は吾の誇りだ)
関羽
(かんう)


「ち、父上……? 父上の心が……伝わってくる……」
関平
(かんぺい)


「な!? こ、これだけ矢が刺さってるのに関羽はまだ動けるでごわすか!?」
蒋欽
(しょうきん)


(お前には父親らしいことを何もしてやれなかった。
ならば最期に、関羽らしいところを、お前が誇りに思ってくれる関羽の力を見せてやろう)
関羽
(かんう)


「ち、父上…………?」
関平
(かんぺい)


「へ? あ、あれ……。なんか体がおかしい……で、ごわ……す?」
蒋欽
(しょうきん)


「し、し、蒋欽が真っ二つに……!? なんだ! いったい何が起こった!?」
駱統
(らくとう)


(行くぞ。これが関羽の最期の力だ)
関羽
(かんう)


「な、なんだってんだよ。死にかけの関羽なんか怖くねえだろ! 俺が首をとってやらあ!!」
胡脩
(こしゅう)


「ああ! 俺たちの手柄だあああっ!!」
傅方
(ふほう)


(退け)
関羽
(かんう)


「あ、あ、あべし!!」
胡脩
(こしゅう)


「ひ、ひ、ひでぶ!!」
傅方
(ふほう)


「なにィ!?」
呂蒙
(りょもう)


「ど、どうなっている!? 関羽は一歩も動いていないぞ!
何かがおかしい! 関羽に近づくな!」
孫皎
(そんこう)


(ならば吾の方から行って進ぜよう)
関羽
(かんう)


「な――――!?」
孫皎
(そんこう)


「か、関羽が一瞬で背後に回った!? 孫皎がやられたぞ!」
潘璋
(はんしょう)


「ああ……父上……。これが関羽の……本当の力……」
関平
(かんぺい)


「相手がなんであろうと退くわけにはいかぬ!」
殷署
(いんしょ)


「我々を送り出してくれた北の人々のためにも!」
朱蓋
(しゅがい)


「よせ!! 今の関羽に近づくな!!」
呂蒙
(りょもう)


「ぎゃあああああああ!!」
殷署
(いんしょ)


「あがああああああ!!」
朱蓋
(しゅがい)


(恐れよ。これが関羽だ)
関羽
(かんう)


「や、矢だ! 矢で動きを止めろ!!」
駱統
(らくとう)


「石もくれてやる。そらあああああああっ!!」
丁奉
(ていほう)


(無駄だ)
関羽
(かんう)


「わあ……。矢も石も近づくそばから粉々に吹っ飛んでるよ。どうやってんだろあれ」
陸遜
(りくそん)


「………………」
呂蒙
(りょもう)


「り、呂蒙さん? な、なんか変なこと考えてない?
やめときなって。いくら呂蒙さんでもあんなバケモノに敵うわけないよ!」
陸遜
(りくそん)


「いや。関羽も人間だ。殺せないわけがない。
――関羽!」
呂蒙
(りょもう)


「………………」
関羽
(かんう)


「一騎打ちだ。俺が相手してやる」
呂蒙
(りょもう)


「死ぬ気か呂蒙!?」
潘璋
(はんしょう)


「放っといても1年もたない命だ。好きに使わせてください」
呂蒙
(りょもう)


(参る)
関羽
(かんう)


「見える!」
呂蒙
(りょもう)


「………………」
関羽
(かんう)


「見える。見えるぜ関羽! あんたは生と死の境を越えた!
命を捨て、ただ関羽であろうとだけしている。だから強い。
今のアンタは現し世にいながらにして神にも等しい!」
呂蒙
(りょもう)


「………………」
関羽
(かんう)


「しかしあっしも命はとうに捨てた! ならば条件は対等だ!!」
呂蒙
(りょもう)


(否)
関羽
(かんう)


「ぐああっ!!」
呂蒙
(りょもう)


「呂蒙さん!!」
陸遜
(りくそん)


(吾は関羽。吾には誰も並び立てぬ)
関羽
(かんう)


「へっ……。こいつが関羽と、呂蒙の差か……」
呂蒙
(りょもう)


「や、やべえ! 関羽がこっちに来るぞ!」
潘璋
(はんしょう)


「ひいいいいいいいっ!! ま、待て関羽! は、話せばわかる!
お、お前の息子ももう死んだんだぞ! それでも誰のために戦うんだ!?」
馬忠
(ばちゅう)


「!」
関羽
(かんう)


「……………」
関平
(かんぺい)


(そうか…………。逝ったか関平…………)
関羽
(かんう)


「……………」
関平
(かんぺい)


(ならば関羽も、ここまでだ……)
関羽
(かんう)


「や、やめてくれ!! 殺さないでくれ!! ひいいいいいいいい!!」
馬忠
(ばちゅう)


「……………………」
関羽
(かんう)


「な、なんだか様子が変じゃねえか? 関羽が動かねえぞ……」
潘璋
(はんしょう)


「ぐっ……。どけ。どいてくれ。関羽……」
呂蒙
(りょもう)


「……………………」
関羽
(かんう)


「これって……。立ったまま……」
陸遜
(りくそん)


「これが…………関羽、か」
呂蒙
(りょもう)








かくして軍神は最期の戦いを終えた。
一方その頃、もう一人の巨星も長い戦いの人生を終えようとしていた。
その名は曹操。乱世の奸雄と呼ばれた男であった。




〇七八   奸雄の死