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三 国 志

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〇八〇   次代の風





蜀 成都(せいと)

程畿
(ていき)
呉班
(ごはん)
張苞
(ちょうほう)

蜀の将

蜀の将

張飛の養子
張南
(ちょうなん)
馮習
(ふうしゅう)

蜀の将

蜀の将



「荊州への遠征軍は3つに分かれて進軍してもらうわ。
中軍は劉備、左軍は黄権、右軍は程畿が総大将よ。
水軍は呉班と陳式にお願いね」
張飛
(ちょうひ)


「任せるタイ!」
黄権
(こうけん)


「心得た」
程畿
(ていき)


「委細承知の介」
呉班
(ごはん)


「は、はい…………」
陳式
(ちんしき)


「中軍の先鋒はアタイ。副将に王甫、関興」
張飛
(ちょうひ)


「私の顔のように美しい戦いをお見せしよう」
王甫
(おうほ)


「………………」
関興
(かんこう)


「関興?」
張飛
(ちょうひ)


「いっちょまえに関羽様の真似をしてんだよ。
父上の心を受け継ぐんだとさ。形ばっか真似したってしかたねえのによ」
張苞
(ちょうほう)


「………………」
関興
(かんこう)


「ま、その心意気は買ってあげないとね。
わかったわ。張苞、その代わり幼なじみのアンタが通訳すんのよ」
張飛
(ちょうひ)


「げ」
張苞
(ちょうほう)


「んで、右軍の副将は張南と馮習にお願いね」
張飛
(ちょうひ)


「おう!」
張南
(ちょうなん)


「孫権の小僧など一蹴してやる」
馮習
(ふうしゅう)


「その他に馬良に一部隊を率いてもらって、武陵(ぶりょう)の蛮族を扇動してもらうわ。
武陵蛮に孫権軍の背後を襲わせて、挟み撃ちにするの」
張飛
(ちょうひ)


「………………」
馬良
(ばりょう)


「面倒くさがりの馬良に扇動なんてできるのか?」
簡雍
(かんよう)


「大丈夫。ある情報をつかんでるから、そのへんの心配はいらないわ」
張飛
(ちょうひ)


「他のみんなにはこの益州を守ってもらう。留守を頼んだぞ」
劉備
(りゅうび)


「ちょっと待ってくださいッス。自分も遠征に出たいッスよ!」
趙雲
(ちょううん)


「龍さんには白帝城(はくていじょう)に後詰めに入ってもらう。
魏を警戒しつつ、もしわしらに何かあったら救援に来とくれ」
劉備
(りゅうび)


「しかし――」
趙雲
(ちょううん)


「馬超も黄忠も倒れてるから、残る五虎将軍のうち片方が留守番やんのは当然でしょ。
アタイたちは、一番頼りになるアンタに留守を任せたいの」
張飛
(ちょうひ)


「……承知したッス。関羽先輩の仇討ちは任せるッスよ」
趙雲
(ちょううん)


「魏延さんや呉懿さん、張翼さんには漢中で魏軍に備えてもらう。
今回の戦は長くなりそうじゃ。しっかり後を頼んだぞ!」
劉備
(りゅうび)


「へ、陛下!」
孫乾
(そんけん)


「なんだ騒々しい、軍議中だぞ」
劉巴
(りゅうは)


「急ぎお耳に入れたきことが……。
り、劉封様が帰還なさいました」
孫乾
(そんけん)


「! 封さんが…………」
劉備
(りゅうび)


「孟達に上庸を奪われて逃げてきたそうね。
いくらか兵は連れてんの?」
張飛
(ちょうひ)


「残兵を500ほど。あとは孟達に降るか討たれたそうです。
あ、あと霍峻殿も上庸を脱出する時に負傷されたが、帯同しています」
孫乾
(そんけん)


「そう……。とにかく本人から話を聞くわ。ここに通しなさい」
張飛
(ちょうひ)


「待った張さん!
……霍峻さんと兵は収容してかまわん。
じゃが劉封さんは、いや劉封の入城は駄目じゃ」
劉備
(りゅうび)


「ど、どうしてよ?」
張飛
(ちょうひ)


「わしらはこれから関さんの仇を討つ戦に出る。
じゃというのに、経緯はどうあれ関さんを見殺しにした劉封を許すわけにはいかん。
もしここに劉封が来たら、わしは思わず殴っちまうかもしれん。
いや! 殴るならまだいい。斬りかかっちまうかもしれんぞ……」
劉備
(りゅうび)


「……関羽を失って、さらに劉封まで失いたくはないのね。
もしここに諸葛亮のバカがいたら、嬉々として劉封を殺すでしょうけど……。
ううん、いなくなったバカのことはどうでもいいわ。
まずは関羽の仇を討つ。劉封の処遇のことは後で考えましょ」
張飛
(ちょうひ)


「すまんな張さん……。
そうじゃな。亮さんがいたら、わしを甘いと笑ってコケにするじゃろうな……」
劉備
(りゅうび)



成都 城門前




「そうか……。義父上は俺に会わないと言われたか……」
劉封
(りゅうほう)


「劉封……殿。時機が、悪かった……のだ」
霍峻
(かくしゅん)


「無理にしゃべられるな。貴殿の入城は許された。ごゆるりと療養なされよ」
劉封
(りゅうほう)


「す、すまない……。これだけは、言わせてくれ……。
陛下は、あなたの、ことを大事に思われて、いる……。どうか、恨まれるな……」
霍峻
(かくしゅん)


「恨むわけがない! この俺が愚かだったのだ……。
かくなる上は――」
劉封
(りゅうほう)


「ど、どこに行かれる、つもりだ……?」
霍峻
(かくしゅん)


「俺のなすべきことをする。
……義父上には、劉封は死んだと伝えてくれ。さらばだ」
劉封
(りゅうほう)


「劉封……殿……」
霍峻
(かくしゅん)



呉 建業(けんぎょう)の都




「ほーう。劉備のジジイは魏じゃなくてオレらを攻撃してきたか。
関羽の仇討ちを優先させるたァ意外だな。諸葛亮のセンセとか反対しなかったんか?」
孫権
(そんけん)


「それが……どうやら弟は劉備様のもとを離れたようです」
諸葛瑾
(しょかつきん)


「離れた? 暴言が過ぎてとうとうクビにされたんか?
いや、諸葛亮センセが劉備のクビを切るならまだしも、逆はねェよな」
孫権
(そんけん)


「私も風の便りに聞いただけで、理由はわかりません。
なにぶんあんな弟ですから、私的な付き合いも無いもので……」
諸葛瑾
(しょかつきん)


「人間かどうかも怪しいもんな、あの男」
潘璋
(はんしょう)


「まあとにかく、センセがいねェってのは朗報だ。
で、劉備軍の陣立ては? ……ほうほう。地味だが無難な陣容だな。
兵力もオレらよりずっと多いようじゃねェか」
孫権
(そんけん)


「すでに孫桓(そんかん)様と朱然(しゅぜん)将軍が迎撃に出ていますが、
彼らだけでは防ぎきれません。援軍が必要です」
吾粲
(ごさん)


「おうよ。陸遜! おめェどうするよ?」
孫権
(そんけん)


「それじゃあボクが援軍に行きます!
ボクにどーんと任せちゃってください!」
陸遜
(りくそん)


「そうか。んじゃあ総大将は陸遜だ。
編成とかはおめェに任せるぜ。好きな将を連れてきな」
孫権
(そんけん)


「はーい」
陸遜
(りくそん)


「「「………………」」」
甘寧
(かんねい)
韓当
(かんとう)
徐盛
(じょせい)


「んん? どうしたてめェら。面白くなさそうな顔してんじゃねェか。
言いたいことがあんなら言ってみろ」
孫権
(そんけん)


「……呂蒙や艦長が陸遜のこと認めてんのは知ってるけどさー。
俺らは正直、ガチで陸遜やれんのか? って思ってんだよね。実績とかねーし。
それなのに陸遜が総大将デスって言われて、はいはいそうですかって気にはなれねーっつーか」
甘寧
(かんねい)


「なんでェそんなことか。
――陸遜! おめェにこれをくれてやんよ」
孫権
(そんけん)


「うわわっ! か、刀を投げないでくださいよ~。危ないなあ。
この刀、酷い刃こぼれしてるし、なんかばっちいし……」
陸遜
(りくそん)


「ただの小汚ない刀じゃねェ。オヤジが使ってた古錠刀(こていとう)だ」
孫権
(そんけん)


「そ、孫堅殿の遺品を投げた……。
それにろくに手入れもしていないのか……」
張昭
(ちょうしょう)


「いいかてめェら! この刀を持ってる奴ァ、オレだと思え。
遠慮はいらねェぞ陸遜。逆らう野郎はその刀でぶった斬っちまえ!」
孫権
(そんけん)


「ええ~。ボクって武芸は苦手なんだけどそんなことできるかなあ?
あ、べ、別にみなさんを本当に斬り捨てちゃうつもりはないですよ? た、譬えですからね」
陸遜
(りくそん)


「……艦長がそこまで言うなら、否も応もない。
我々は陸遜将軍に従おう」
韓当
(かんとう)


「それでいい。任せたぜてめェら!
――そういやあこいつはオレが呉(ご)王に封じられてから初めての戦だな。
へへっ。曹丕んとこにならって、オレらも『呉軍』と名乗るとしようぜ。
呉軍の船出の戦だ! 大戦果を上げてこいよ!!」
孫権
(そんけん)


「はーい!」
陸遜
(りくそん)


「「「「おう!!!!」」」」
韓当
(かんとう)
甘寧
(かんねい)
徐盛
(じょせい)
潘璋
(はんしょう)



呉 夷陵(いりょう)

孫桓
(そんかん)
李異
(りい)
譚雄
(たんゆう)

孫権の族弟

呉の将

呉の将
朱然
(しゅぜん)
謝旌
(しゃせい)
崔禹
(さいう)

呉の将

呉の将

呉の将



「蜀軍の先鋒の水軍が迫っている。
オレらの援軍も近づいてるようだが……どうするよ?
援軍を待たずに先制攻撃を仕掛けるか?」
孫桓
(そんかん)


「遠征軍に益州の将は黄権と呉班くらいしか連れてきていねえようだな。
その他も新顔が中心のようだ。実力がよくわからねえし、正面からぶつかるのは賛成できねえぞ」
李異
(りい)


「ムン。そういえば李異は益州出身だったな。フン」
譚雄
(たんゆう)


「火火火(ヒヒヒ)ッ。敵は燃えやすい船に乗って、燃えやすい葦の群生地に差し掛かっている。
火をつける絶好の機会をみすみす見逃すつもりか?」
朱然
(しゅぜん)


「待つアル。火計は劣勢の時に用いる奇策ネ。
一戦も交えずに奇策を頼るなんて、陳武(ちんぶ)師匠の弟子として賛成できないヨ」
謝旌
(しゃせい)


「馬鹿な。火計は戦争の美学だ。
せっかく美しく燃え広がる炎を見られるのに、火をつけないなんて理解に苦しむぞ」
朱然
(しゅぜん)


「ムン。変態放火魔め……」
譚雄
(たんゆう)


「ん? 何か言ったか筋肉馬鹿」
朱然
(しゅぜん)


「やめろ。仲間同士で争っている場合か!
――ならばまず、俺が一軍を率いて敵の力量を推し量ってこよう」
崔禹
(さいう)


「火火ッ。まーた崔禹のおいしいとこ取りが出たぞ」
朱然
(しゅぜん)


「いつもずるいアル」
謝旌
(しゃせい)


「いや、冷静な崔禹なら引き際も心得ているだろう。
譚雄とともに攻撃を仕掛けてくれ。ただし無理はするなよ」
孫桓
(そんかん)


「承知した」
崔禹
(さいう)


「ムン。任せろ!」
譚雄
(たんゆう)



夷陵 張飛軍

星彩
(せいさい)

張飛の養女



「へへへ。孫権軍め、俺らを正面から迎え撃つつもりだぜ。
腕が鳴るなあ、関興」
張苞
(ちょうほう)


「………………」
関興
(かんこう)


「おっと、関羽様にならって無口になったんだったな。
やりづれえな、おい」
張苞
(ちょうほう)


「張苞、敵が来たって?」
張飛
(ちょうひ)


「おう。5千ぽっちだから様子見ってところじゃねえか?
これなら母ちゃんの出る幕はないぜ」
張苞
(ちょうほう)


「そうね。ここはあたいらに任せてよ」
星彩
(せいさい)


「星彩! お前また軍中に潜り込んでたのか……。
女はおとなしく留守番してろよ」
張苞
(ちょうほう)


「なんですって? そのセリフ、張飛母さんや董白さんにも言えるの?」
星彩
(せいさい)


「か、母ちゃんらは別だろ。
母ちゃんは女なのは心だけだし、董白さんはすげえおっかないし……」
張苞
(ちょうほう)


「はいはい。兄妹ゲンカはやめなさい。
……ま、たしかにアタイが出るまでも無さそうね。
危なくなったら助けてあげるから、アンタたちと関興で攻撃しなさい」
張飛
(ちょうひ)


「そうこなくっちゃ! 行くぜ関興!」
張苞
(ちょうほう)


「………………ッ!」
関興
(かんこう)


「ちょっと! 黙って先に行くなんてずるいわよ!」
星彩
(せいさい)


「待ちやがれ関興ーーーッ!!」
張苞
(ちょうほう)


「…………よろしいのですか? お子らだけで行かせて」
王甫
(おうほ)


「……あの子らを見てると、若い頃の自分や関羽を思い出すわ。
関羽が死んで、アタイも引き際を考えるようになったの。
この戦が終わったら、引退しようと思ってる。
だから、アタイの後が務まるようにあの子たちを鍛えてあげないとね」
張飛
(ちょうひ)


「なるほど……。では、私はこの髭のように美しく敵の背後に回り、若武者たちの援護をします」
王甫
(おうほ)


「ええ。頼んだわよ」
張飛
(ちょうひ)



夷陵 戦場




「俺の名は張苞! 張飛の十人いる養子の長男だ!!」
張苞
(ちょうほう)


「同じく末娘の星彩よ!」
星彩
(せいさい)


「………………ッ!」
関興
(かんこう)


「そしてこいつが関羽の次男、関興だ!
――ってめんどくせえなやっぱり! 自分で名乗れよ!」
張苞
(ちょうほう)


「張飛と関羽の子か! なんと勇ましい……」
崔禹
(さいう)


「ムン。感心している場合か。
――俺は譚雄! この筋肉美の前にひれ伏すがいい!」
譚雄
(たんゆう)


「ッ!!」
関興
(かんこう)


「関興、敵の方が力は上よ! 正面から受け止めちゃダメ!」
星彩
(せいさい)


「ムン。どうした小僧?
その偃月刀はお前には大きすぎるのではないか? 手が震えているぞ」
譚雄
(たんゆう)


「………………」
関興
(かんこう)


「この偃月刀は父・関羽の愛刀と同じ物だ!
私は偃月刀から父の心をも受け継ぐのだ! ……と関興は思ってるぜ。
――だから俺に通訳させんな!」
張苞
(ちょうほう)


「ムン。心意気は買おう。だが身の丈に合った武器を選ぶべきだったな。
喰らえ! マスキュラーポーズからのダブルバイセップス・フロント!」
譚雄
(たんゆう)


「ッッ!!」
関興
(かんこう)


「なっ!? 俺の大太刀を支点にして反転し――ぎゃああああ!!」
譚雄
(たんゆう)


「譚雄!!」
崔禹
(さいう)


「………………ッッ!!」
関興
(かんこう)


「譚雄討ち取ったりい!!」
星彩
(せいさい)


「ずりいぞ星彩、それは俺に通訳させろよ!」
張苞
(ちょうほう)


「孫権軍は将を討たれて醜く狼狽しているぞ!
私の顔よりも美しく背後を襲え!」
王甫
(おうほ)


「背後にも兵を回していたか……。退け!!」
崔禹
(さいう)


「ふう。なんとか勝ったな。追撃は王甫さんに任せようぜ」
張苞
(ちょうほう)


「関興、ケガはない?」
星彩
(せいさい)


「………………」
関興
(かんこう)


「大丈夫そうだな。でもお前、運が良かったな。
長い偃月刀を譚雄の馬鹿力で押されて、たまたま偃月刀ごと身体が回っただけだろ。
テコの原理とか言うんだっけ?」
張苞
(ちょうほう)


「またあんちゃんはそういうことを……。関興は実力で勝ったんだもんね?」
星彩
(せいさい)


「おっ。なんだよ星彩。やけにこいつの肩を持つじゃねえか。
さてはお前……」
張苞
(ちょうほう)


「はあっ? なに勘違いしてるの?
あたいはヒゲモジャの男は大嫌いよ!」
星彩
(せいさい)


「え? じ、じゃあまさか俺のことを……」
張苞
(ちょうほう)


「黄巾賊顔はもっとお断りよ!!」
星彩
(せいさい)


「誰が黄巾賊だとぉ!?」
張苞
(ちょうほう)


「………………」
関興
(かんこう)








かくして張飛と関羽の子は華々しく初陣を飾った。
だが復讐戦は幕を開いたばかり。
呉の新たなる指揮官・陸遜は秘策を胸に戦場へと駒を進めていた。




〇八一   蜀の明暗