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三 国 志

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〇九〇   二縦二擒と三縦三擒





孟獲軍 本陣





「蜀軍の強さは想像以上だったデース……」
阿会喃
(あかいなん)


「都のひょろひょろ侍と侮っていたのは間違いだったようだ。
奴らは強い。装備や馬も俺たちよりはるかに優れてやがる……」
董荼那
(とうとな)


「ぶはははは! おいおい、なんだよお前ら。
ここは孟獲大王の葬儀場か? 俺はこう見えて死んじまってんのかよ?
だったらおくやみ申し上げねえとな! わっはっはっはっはっ!」
孟獲
(もうかく)


「だ、大王は元気デスネ……」
阿会喃
(あかいなん)


「あったりまえだろうが! お前らの目はそろいもそろって節穴だな!
俺はこの目で蜀軍を観察してわかった。奴らは俺らの敵じゃねえってな! ぶわっはっはっはっ!」
孟獲
(もうかく)


「……簡単に奴らに捕らえられたのに強気だな」
董荼那
(とうとな)


「そりゃいくら俺様でも一人じゃどうしようもねえよ。
ぶはははは! 忙牙長のバカが安い挑発に掛かって、俺様を一人にするからよ!
あーはっはっはっ! 思い出したらまた笑えてきたぜ!」
孟獲
(もうかく)


「…………面目ない」
忙牙長
ぼうがちょう


「水牛かぶった斧野郎がしょぼくれた顔してんじゃねえよ!
お、俺をもっと笑わせる気かよ。ぶあっはっはっはっ!」
孟獲
(もうかく)


「大王! 笑っている場合ではないデスヨー!
いったいどうやって蜀軍を倒すつもりデスか!?」
阿会喃
(あかいなん)


「だからお前らの目は節穴だってんだ。わざわざ倒す必要はねえ。
考えてもみろ。この南中には毒泉や毒ガス、虎に豹に狼に蛇に……。
ぶはははは! 心強い味方が山ほどいるじゃねえか!」
孟獲
(もうかく)


「そ、そうか。俺たちから先制攻撃を仕掛けたのが間違いなんだな。
俺たちはしっかりと防備を固めて、奴らを懐深くに誘い込んでやれば……」
董荼那
(とうとな)


「奴らは何もできずに全滅デスヨ!!」
阿会喃
(あかいなん)


「がっはっはっはっはっはっ! そういうこった!
俺たちはなんにもする必要はねえ。酒でも飲みながら見物してりゃあ、
楽しい森の仲間たちが奴らを屠ってくれるだろうよ。
わっはっはっはっはっはっ…………」
孟獲
(もうかく)



蜀軍 本陣




「孟獲の軍が引き上げただと?」
李恢
(りかい)


「口ほどにもない。きっと我々に逆らう愚を悟り総退却したのだろう!
いくら南蛮王といえども私や丞相の叡智には敵わないということだ! あっはっはっはっ――」
馬謖
(ばしょく)


「馬鹿め」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「はっはっはっ……へ? なんですって?」
馬謖
(ばしょく)


「馬謖はどうしようもない馬鹿だから今すぐここで死ね馬鹿めと言ったです」
黄月英
(こうげつえい)


「そこまでは言ってない! じ、丞相。いったいどういうことですか」
馬謖
(ばしょく)


「犬や猫でも己の非力さをわきまえるが、獣よりも野卑なあの孟獲とやらが、
一度敗れただけでおとなしくなるものか。
彼奴らは余を誘い込んでおるのだ。首が欲しければ、ここまで来てみよと。
……面白い」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「丞相! 孟獲軍の居所がわかったぜ! 濾水(ろすい)の向こうまで撤退して陣を布いてやがる!」
王伉
(おうこう)


「馬鈞」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「はいはい。スプレー、スプレー。ファブリーズ、ファブリーズ」
馬鈞
(ばきん)


「濾水といえば河自体が猛毒みてえなもんだ。それにあの辺りには毒蛇や猛獣が山ほど生息してるぜ。
いわゆる天然の要害って奴だな!」
呂凱
(りょがい)


「楊儀」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「は、はい。消臭スプレーが足りないぞ! 早く用意しろ!」
楊儀
(ようぎ)


「フン。河と獣を盾にしたつもりか。愚かな。
馬岱、貴様は一軍を率いて河を渡れ」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「……多少の犠牲は構わんから、とにかく河を渡る手段を探して来いって解釈でよろしいやろか」
馬岱
(ばたい)


「行け」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「はいな」
馬岱
(ばたい)


「馬岱兄やん、ウチも手伝おか? 旦那は輸送部隊の警護に回ってて、ウチは暇やし」
馬雲緑
(ばうんりょく)


「いらん。お前になんかあったら趙雲はんに申し訳が立たんやろが」
馬岱
(ばたい)


「……兄やんかて馬家の最後の一人やないか」
馬雲緑
(ばうんりょく)


「アホ。お前もおるし、董白の姐御もおる。わてに何があろうと馬家は滅びん。
せやからお前は旦那を救けることだけ考えとき」
馬岱
(ばたい)


「…………気いつけてな」
馬雲緑
(ばうんりょく)


「うるわしい兄妹愛は裏でやれ。とっとと行け」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「はいはい」
馬岱
(ばたい)



蜀 馬岱軍




「ちょっとこれはシャレにならへんで。
河を渡ろうとしただけで兵士がバタバタ死んでしまうわ。どうすりゃええんやろ……」
馬岱
(ばたい)


「お困りのようだな、馬岱殿」
関索
(かんさく)


「おう、関索か。援軍に来てくれたんか」
馬岱
(ばたい)


「キキ。李恢っちに手助けするよう言われたっキャ。
たぶんあの人、この遠征中に胃を悪くして死ぬと思うにゃ~」
鮑三娘
(ほうさんじょう)


「それに俺は師匠になるべく厳しい戦場に臨めと言われている。
馬岱殿の任務がいま最も過酷だと思った」
関索
(かんさく)


「同感や。河を渡れとか丞相も簡単に言いよるでほんま」
馬岱
(ばたい)


「キキ? なんかあっちから物音がするっキャ」
鮑三娘
(ほうさんじょう)


「え? アンタたちひょっとして……」
??
(??)


「おお、これはお嬢さん。ひょっとして付近の村人さんかい?」
関索
(かんさく)


「!(関索はんの雰囲気が変わった……?)」
馬岱
(ばたい)


「……パパに聞いたわ。蜀の遠征軍の人ね」
??
(??)


「おっと、怖がる必要はないぜ。俺たちは侵略に来たわけじゃねえんだ。
ましてや村人さんに、それも綺麗なお嬢さんに迷惑なんて掛けやしねえよ」
関索
(かんさく)


「索にゃん。鼻の下伸びてる」
鮑三娘
(ほうさんじょう)


「……だったら何をしにこの南中に来たの」
??
(??)


「んん……。それを話したらちょいと長くなるで。
そうや、そんなことよりあんさん、この河の渡り方を知らへんか?」
馬岱
(ばたい)


「河を渡って南中軍を攻めるのね」
??
(??)


「ぶっちゃけるとその通りや。わてらは南中を荒らしまわる孟獲らをこらしめに来たんやからな」
馬岱
(ばたい)


「別に大王は誰も困らせてないわ。アンタたちが孟獲が邪魔になったから殺しに来ただけでしょ」
??
(??)


「あーもう面倒くさいっキャ! とにかく河を渡る方法を知ってるならおとなしく教えるにゃ!」
鮑三娘
(ほうさんじょう)


「鮑三娘、物騒なものはしまっときな。
――なあ、お嬢さん。俺らは君と言い合いをするつもりはない。
孟獲を倒すこと。それが任務だからやるだけだ。
そのために、君の力が必要なんだ」
関索
(かんさく)


「!!」
??
(??)


「索にゃん。どさくさにまぎれて手を握ってるのはなんでキャ?」
鮑三娘
(ほうさんじょう)


「は、離して!」
??
(??)


「おっと、すまない」
関索
(かんさく)


「…………渡りたいなら、夜に渡ればいいのよ」
??
(??)


「え?」
馬岱
(ばたい)


「夜なら河の毒素が薄れるから、イカダや小船で渡れる」
??
(??)


「そうか。ありがとう、助かったよ!」
関索
(かんさく)


「……れ、礼なんて言わないでよ」
??
(??)


「……行っちまった。かわいい子だったな」
関索
(かんさく)


「索にゃん。今夜は徹夜で説教するから覚悟しといてにゃ……」
鮑三娘
(ほうさんじょう)



忙牙長軍




「へっへっへっ。蜀の遠征軍どもめ、今頃は毒河や毒蛇の餌食になってるだろうな。
こんなに楽な戦はねえぜ。俺も退屈な偵察なんてさっさと切り上げて、宴会に戻るとするか」
忙牙長
ぼうがちょう


「ほう、宴会でっか。わてもお相伴にあずからせて欲しいもんやな」
馬岱
(ばたい)


「んな!? お、お前は蜀軍の……」
忙牙長
ぼうがちょう


「馬岱や。あんま有名じゃなくてすんまへんな」
馬岱
(ばたい)


「どこから湧いて出やがった!? く、くそ。ここで始末してやる!」
忙牙長
ぼうがちょう


「人を湧いて出たとかボウフラみたいに言わんといてくれんかッ!!」
馬岱
(ばたい)


「ぎゃああああああ!!」
忙牙長
ぼうがちょう


「ほんますんまへんな。有名じゃない奴に斬られてまうなんて」
馬岱
(ばたい)



孟獲軍 本陣




「ハハハハハ。大王、もう一杯どうぞデスヨー!」
阿会喃
(あかいなん)


「がはははは! お前のほうこそ遠慮するな。
なかなかいける口じゃねえかよ!」
孟獲
(もうかく)


「だ、大王! 大変だ!」
董荼那
(とうとな)


「どうした? つまみが無くなったか?
ぶはははは! それなら弟に買いに行かせ――」
孟獲
(もうかく)


「それどころじゃねえ! 蜀軍が河を渡りやがった!
しかも敵に出くわした忙牙長が斬られちまったぞ!
このままでは俺たちの補給路を断たれちまうぜ……」
董荼那
(とうとな)


「オーマイガッ! あのリバーを越えるなんて蜀軍は空を飛んだデスカー!?」
阿会喃
(あかいなん)


「わっはっはっはっ! 俺様の見たところ奴らに羽根は生えてなかったぞ。
だが無傷で渡れたわけがねえ。蹴散らしてこいよ董荼那!」
孟獲
(もうかく)


「あ、ああ。任せろ!」
董荼那
(とうとな)



馬岱軍




「丞相に河の渡り方を連絡した。間もなく増援部隊が来てくれるだろう」
関索
(かんさく)


「おおきに。……でもうちの丞相ならこんなめんどいことせんでも、
ウチワを一あおぎすりゃ河を干上がらせられるんちゃうか?
わてらを苦労させて楽しんでるだけやあらへんかな」
馬岱
(ばたい)


「索にゃん! 董荼那のヤツが攻めてきたっキャ!
こっちよりずっと数が多いにゃ!」
鮑三娘
(ほうさんじょう)


「早速来やがったか。よし、今度は俺に任せてくれ。
増援部隊を待つまでもなく片付けてやらあ!」
関索
(かんさく)


「いや……ちょい待ち。
董荼那だったら戦うまでもあらへんやろ。わてにいい考えがあるで」
馬岱
(ばたい)



董荼那軍




「蜀軍め! これ以上の進撃は許さんぞ!
この董荼那様が殲滅してやる!」
董荼那
(とうとな)


「待て待て待て。董荼那やと?
おい、アンタ恥ずかしくないんか?」
馬岱
(ばたい)


「な、なんだと?」
董荼那
(とうとな)


「アンタも孟獲も阿会喃も、わてらに捕らえられておきながら見逃してもろうたやろ。
その恩を忘れて、わてらをいてもうたるなんて大した面の皮やな。
恥知らずとはアンタらのことやでほんま」
馬岱
(ばたい)


「ぐっ…………。
わ、我々とて恩も恥も心得ているわ!」
董荼那
(とうとな)


「だったらやることは一つやろ。
とっとと帰って孟獲はんにも降伏を勧めたらどうや。
ほれほれ、はよせんとわてらに補給路を断たれてまうで」
馬岱
(ばたい)


「むむむむむ……。
ひ、引き上げだ! いったん引き上げるぞ!!」
董荼那
(とうとな)


「……蛮族も恥は恥と知るか」
関索
(かんさく)


「おっ。索にゃんかっこいいッキャ!」
鮑三娘
(ほうさんじょう)



孟獲軍 本陣




「ぶわっはっはっはっ! そ、それでお前、言い負かされて逃げ帰ってきたのかよ!
なんてだらしのねえ野郎だ! あっはっはっはっはっ!!」
孟獲
(もうかく)


「ぬう……。し、しかし大王!
奴らの言う通り、俺たちは補給路を断たれ、しかも敵は続々と河を渡ってきている。
とうてい勝ち目は無いぞ!」
董荼那
(とうとな)


「彼らはジェントルマンデース。おとなしく降伏すればきっと許してくれマースヨ?」
阿会喃
(あかいなん)


「おいおいおいおい! 阿会喃まで降伏する気満々かよ!
だ、だったらこの前の時に降伏しとけばよかったじゃねえかよ!
ぶわっはっはっはっ! 言われなけりゃ気づかねえんだぜ! 駄目だこいつら早くなんとかしねえと!」
孟獲
(もうかく)


「オゥ……。こうなったら董荼那」
阿会喃
(あかいなん)


「な、なんだ?」
董荼那
(とうとな)


「大王を縛り上げて蜀軍に降伏しマースヨ!!」
阿会喃
(あかいなん)


「し、しかたねえ! やってやらあ!」
董荼那
(とうとな)


「だっはっはっはっ! こりゃ参った!
泥酔してて抵抗できねえや! あっさり縛られちまったぜ! わっはっはっはっはっ……」
孟獲
(もうかく)



蜀軍 本陣




「――ってえ顛末だ。わっはっはっはっ! こんなに早くまたお前に会うとは思わなかったぜ!」
孟獲
(もうかく)


「なるほど。大した人望であるな」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「ぶはははは! まったくだぜ!
――なあ諸葛亮サンよ。こりゃノーカンだろ?」
孟獲
(もうかく)


「は? ノーカン?」
馬謖
(ばしょく)


「俺様は酔いつぶれてたし、子飼いの連中に裏切られたんだぜ。
がはははは! こんなの負けたうちに入りゃしねえよ! ノーカウントだろ!
だからさっさと解放してよ、仕切り直しの一戦と行こうぜ!」
孟獲
(もうかく)


「な、なにを馬鹿なことを……。
孟獲! 人心がお前から離れていることはこれで身にしみたはずだ!
観念して我々に降伏しろ!」
李恢
(りかい)


「よかろう。この野蛮人を解放してやれ」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「な――わ、私の意見はガン無視ですか丞相!?」
李恢
(りかい)


「は? 何か言っていたのか? 羽虫のごとき貴様らのさえずりなど余には届かぬ」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「…………い、胃が…………」
李恢
(りかい)


「孟獲とやら。奇遇だな。余もまだまだ貴様を苦しめ足りぬと思っていたところだ。
さっさと蛮族の巣に帰り、戦の準備を整えるがいい」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「がっはっはっはっはっ! 話がわかるじゃねえか。
次はお前に吠え面かかしてやるからな! ぶわっはっはっはっはっ……」
孟獲
(もうかく)


「こ、心の強い男ですな……」
楊儀
(ようぎ)


「ところで丞相、先に降伏してきた阿会喃と董荼那の処遇はどういたそうか」
馬忠
(ばちゅう)


「いらぬ」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「いらぬ?」
馬忠
(ばちゅう)


「獣を飼う趣味はない。獣は獣らしく野に放してやれ」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「し、しかし彼らは孟獲を裏切った身です。
このまま帰せばきっと孟獲に殺されますぞ」
李恢
(りかい)


「それがどうした」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「う………………」
李恢
(りかい)


「蛮族の獣が死のうが生きようが余の知ったことではない」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「…………ば、馬鈞殿。
い、胃薬は作れますかな……?」
李恢
(りかい)



孟獲軍 本陣




「うう……。まさか俺たちも解放されるとは思わなかったぜ」
董荼那
(とうとな)


「てっきり蜀軍に加えてもらえると思ってましたヨ……。
大王に会ったらきっと殺されマース」
阿会喃
(あかいなん)


「こんなことになるなら、大王の首を手土産に持って行けばよかったな……」
董荼那
(とうとな)


「董荼那さぁぁん! 阿会喃さぁぁん! うわぁぁぁぁん!」
??
(??)


哭く南蛮王の弟・孟優


「ジーザス!! だ、誰かと思ったら大王の弟の孟優サンじゃないデスカ」
阿会喃
(あかいなん)


「ど、どうしたんだ号泣なんかして」
董荼那
(とうとな)


「だって……。お二人とも野蛮な蜀軍に殺されたんだと思ったんですよぉぉ……。
僕も兄ちゃんも心配してたんですよぉぉ……。
無事でよかったです。さあ、早く兄ちゃんに顔を見せてやってください」
孟優
(もうゆう)


「で、デモ……」
阿会喃
(あかいなん)


「兄ちゃんは諸葛亮に説得されて反省したんです。
蜀軍につてを持つお二人に協力してもらって、降伏したいと考えてるんですよぉぉ」
孟優
(もうゆう)


(これは……もしかしてチャンスじゃないデスカ?)
阿会喃
(あかいなん)


(お、おう。考えてみりゃ、俺たちは大王にとっても貴重な戦力だ。
それをみすみす失うほど大王は馬鹿じゃないはずだ。
よし、首尾よく大王を降伏させて蜀軍に褒美をもらおうぜ!)
董荼那
(とうとな)


(董荼那が金環三結みたいなこと言ってマスヨー!)
阿会喃
(あかいなん)


「ほらほら、兄ちゃんもお待ちかねですよ。
――早くお前らの首が見たいってねえええええ!!」
孟優
(もうゆう)


「うわぁぁぁぁあああ!!」
董荼那
(とうとな)


「ノォォォオオオオウ!!」
阿会喃
(あかいなん)


「う……うぇぇぇえええん! 董荼那と阿会喃が首だけになっちゃったよぉぉ。
かわいそうだよぉぉ……」
孟優
(もうゆう)


「ぶわっはっはっはっ! 我が弟ながらサイコっぷりに身の毛がよだつぜ!
……で、どうしてあいつらを殺しちまったんだ?」
孟獲
(もうかく)


「兄ちゃぁぁん……。董荼那と阿会喃が死んじゃったよぉぉ」
孟優
(もうゆう)


「ぶっ!! だ、だからお前が殺したんだっての!! あっはっはっ!
落ち着けよ弟。怖ええから泣いてねえで早く説明してくれ」
孟獲
(もうかく)


「うっうっ。兄ちゃんがね、董荼那たちに説得されて、降伏するって嘘をつくんだ。
それで僕が降伏の印にって、しびれ薬を入れた酒を持っていくのさ。
えぐっ。それを蜀軍に飲ませて、動けなくなったところを兄ちゃんが攻め込むんだよぉぉ」
孟優
(もうゆう)


「がっはっはっ! そりゃ妙案だぞ弟よ!
…………で、あいつらを殺す必要はあったのかそれ?」
孟獲
(もうかく)


「あいつらが密告したら台無しだから、念には念を入れたんだよぉぉ。
か、かわいそうだよぉぉぉぉ!!」
孟優
(もうゆう)


「そうかそうか! あっはっはっ! そりゃかわいそうだ!
おっと、俺に抱きつくのはやめてくれよ。怖ええからよ。
わかったからさっさと行ってこいよ! これで蜀軍は終わりだ! ぐわっはっはっはっ!」
孟獲
(もうかく)



蜀軍 本陣




「ぐふふふふ……。孟優の野郎はうまくやったかな。
そろそろ蜀軍の連中がしびれ薬で泡吹いてる頃だが……。
ええい、もう待ちきれねえぜ! 行くぞ野郎ども!!」
孟獲
(もうかく)


「あわわわわわわわわわわ」
孟優
(もうゆう)


「も、孟優!? あっひゃっひゃっひゃっ!!
お、おめえが泡吹いてどうすんだよ!」
孟獲
(もうかく)


「ぼ、ぼぼぼぼ僕らが。さ、ささささ先にしびれれれれ薬を飲まされれれれ」
孟優
(もうゆう)


「ぶほっ! い、いくら酒好きだからってお前、しびれ薬まで飲む奴があるかよ!」
孟獲
(もうかく)


「あがががががががががが」
馬謖
(ばしょく)


「しびびびびびびびびびび」
楊儀
(ようぎ)


「…………ところで、何人か蜀軍の野郎どももしびれてやがんのは気のせいかな?」
孟獲
(もうかく)


「ちょっと効き目を確かめるために味見してもらっただけだヨ」
馬鈞
(ばきん)


「てめえらは完全に包囲されてんぜ。おとなしく降伏しろってんだ!」
王平
(おうへい)


「ぶはははは! 前にも見た光景だなおい!
だがてめえら、この孟獲大王を甘く見るなよ!」
孟獲
(もうかく)


「抵抗するつもりか? ならば我が油相撲の妙技を味わうが――」
馬忠
(ばちゅう)


「うぷぷぷぷ。お、俺様を他の連中と同じだとあなどってもらっちゃ困るぜ!
はっはっはっ! 俺様は降伏するぞ!」
孟獲
(もうかく)


「こ、降伏だと? 抵抗しないと言うのか?」
張翼
(ちょうよく)


「ひゃひゃひゃひゃひゃ! どう考えたってこっから逆転できるわきゃねえからな!
ほれほれ、さっさとあの悪人面の前までつれてってくれよ!」
孟獲
(もうかく)



蜀軍 本陣




「まったくうんざりだな。一日と措かず貴様の醜悪な面を拝む羽目になるとは」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「ぶはははは! そうつれないことを言うなよ。
俺様にはお前の悪人面も好ましく思えてきたぜ!」
孟獲
(もうかく)


「そうか。ならば帰れ」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「おう! やっぱり逃がしてくれるんだな!
そうしてくれると思ったぜ! ははははは!」
孟獲
(もうかく)


「や、やっぱり逃がすのですか……」
李恢
(りかい)


「当然だ。こやつらは勝手に自滅しただけではないか。つまらぬ」
諸葛亮
(しょかつりょう)


(つまる、つまらないで戦をしないでいただきたい……)
李恢
(りかい)


「……ところで諸葛亮サンよ。
ついでと言っちゃなんだが教えてくれんか。
今回の策はなかなかうまいと思ったんだがよ。なんで簡単に見破られたんだ?」
孟獲
(もうかく)


「ほう。それは興味深い。あれを蛮族の間では策などと呼ぶのか。
余はあれを浅知恵と呼んでいるがな」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「ぶふぉっ! アンタは面相だけじゃなく口も悪いな!
だったら、どうしたらアンタに勝てるかも教えてくれねえか?」
孟獲
(もうかく)


「下手の考え休むに似たりという言葉を教えてやろう。
貴様ら脳筋の蛮族どもがいくら頭をひねろうが時間の無駄だ。
だが貴様らの中にも少しは頭の血の巡りがマシな者も一匹くらいはいるだろう。
今度はそいつを連れて来い」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「知恵者の味方か……。おお、そういえばアイツがいたな!
気持ち悪い野郎だから忘れてたぜ!
がっはっはっ! ありがとよ! 今度はそいつを引きずり出して、てめえらを倒してやるぜ!
わっはっはっはっはっ…………」
孟獲
(もうかく)


「ま、まさか丞相に助言を求めるとは……」
張翼
(ちょうよく)


「……たしかに野卑な男だが、丞相に感化されて、少しは頭を使うようになったのだろう」
李恢
(りかい)


「馬鹿な。あの者は余に勝てるとまだ思っているのだ。
何一つとして成長してはおらぬ。なんと無知蒙昧な輩であるか。
その蛮族どもの知恵者とやらが、どの程度のものであるか、楽しみになってきたな。
クックックッ……。少しは余の暇つぶしに寄与してくれればよいのだがな……」
諸葛亮
(しょかつりょう)








かくして諸葛亮は孟獲を三度捕らえ三度解放した。
孟獲は諸葛亮の助言を得て南蛮の知恵者を頼る。
はたして南蛮の智力は諸葛亮の予想を超えるのか。




〇九一   南中の知恵者