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三 国 志

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〇九二   女王と獣王





銀坑洞





「悪人面にはああ言ったけどよ。だはははは!
頼りになりそうな部族なんて他にいたっけか?」
孟獲
(もうかく)


「兄ちゃん……心当たりが無いのにあんな大口叩かないでよぉぉ」
孟優
(もうゆう)


「ぶあっははは! だってああでも言わないとあの場で殺されてたぜ!
なあ朶思王よ、なんか強い部族に心当たりはねえか?」
孟獲
(もうかく)


「む、むう……。ちょっと今は思い当たらんが……」
朶思王
(だしおう)


「こいつ本当に使えないよぉぉ。やっぱり殺しちゃおうよ兄ちゃん」
孟優
(もうゆう)


「ま、待て! もう少しで思い出す! もう少しで思い出すから刃物をしまって――」
朶思王
(だしおう)


「お困りのようだな、大王」
帯来
(たいらい)


南蛮の交渉人・帯来洞主


「ああ、帯来義兄ちゃん。援軍に来てくれたんだね!」
孟優
(もうゆう)


「兵も連れてきたが、それよりも俺に名案があるぜ。
木鹿(ぼくろく)大王を頼ったらどうだ?」
帯来
(たいらい)


「おお木鹿か! がはははは! そいつはいい! あの野郎を忘れてたぜ!
あいつが力を貸してくれたら蜀軍なんざ恐るるに足りねえぞ!」
孟獲
(もうかく)


「それでは、俺が木鹿大王を説き伏せてこよう。
なに、我々が敗れれば次は自分たちも危ないとわかっているだろう。
利害は一致する。必ずや協力を得られるはずだ……」
帯来
(たいらい)


「ぐふふふふ……。これで勝ったな!
悪人面や蜀軍どもの驚く顔を見るのが待ち遠しいぜ!
よし、酒盛りしながら帯来の帰りを待とうぜ!」
孟獲
(もうかく)


「おやおや、妾(わらわ)の弟の帯来や木鹿大王に仕事を任せて、自分たちはのん気に酒盛りかい?
まったく呆れたもんだねえ! 一度や二度負けたくらいで蜀軍が怖いのかい?
自分たちだけで蜀軍を蹴散らしてやろうっていう気概のある男はいないのかねえ」
祝融
(しゅくゆう)


猛る南蛮王の妻・祝融夫人


「か、母ちゃん!」
孟獲
(もうかく)


「ね、義姉ちゃん……。で、でも一度や二度じゃなくてぼくらはもう五度も負けてるんだよぉぉ」
孟優
(もうゆう)


「妾はまだ一度も負けちゃいないよ!
だらしのない連中ばかりだね。だったら妾が手本を見せてやるさね!」
祝融
(しゅくゆう)


「ああ……義姉ちゃんが出撃しちゃったよぉぉ」
孟優
(もうゆう)


「ぶはははは! あいかわらず母ちゃんはかっこいいなあ!
なあに、母ちゃんの腕なら心配いらねえよ。
さあ、母ちゃんが敵将の首を挙げてくるのを、酒でも飲みながら楽しみに待とうぜ!」
孟獲
(もうかく)



蜀 馬忠・張嶷軍




「張嶷殿、孟獲軍が珍しく攻撃を仕掛けてきたぞ。
連敗してからそうそう動かなくなったんだが……何か策でもあるのかな?」
馬忠
(ばちゅう)


「笑止」
張嶷
(ちょうぎょく)


「おおっ。さすが張嶷殿だ! 敵の思惑など全く意に介さずに出陣したぞ。
勝負を挑まれたら応じるだけってわけだな!」
馬忠
(ばちゅう)


「…………!!」
張嶷
(ちょうぎょく)


「のこのこ出てきやがったね! さあ、南中王の妻・祝融が相手になってやるよ!」
祝融
(しゅくゆう)


「…………御免」
張嶷
(ちょうぎょく)


「なんだい? 戦わずに逃げ出すなんてだらしのない奴だねえ!
逃がしゃしないよ! このブーメランを喰らいなッ!!」
祝融
(しゅくゆう)


「!?
…………不覚」
張嶷
(ちょうぎょく)


「くっ! 張嶷殿が捕らわれてしまった……」
馬忠
(ばちゅう)


「あっははは! 蜀軍の男なんてこんなものかい。
アンタは逃げずに向かってくるんだろうねえ?」
祝融
(しゅくゆう)


「誤解するな。張嶷殿は御婦人に向ける刃は無いと、戦いを避けただけだ。
だが私は捕らわれの張嶷殿を見殺しにはできぬ。受けて立とう!」
馬忠
(ばちゅう)


「フン! 戦場で男も女も関係ないさね。アンタらの軍にも女戦士はたくさんいるだろうが」
祝融
(しゅくゆう)


「張嶷殿は己の信条に従ったまでのことだ。
さあ、そんなことよりも行くぞ! 西の果て! シルクロードの果ての果て!
土耳古が奥義、油相撲の真髄をとくと味わうがいい!」
馬忠
(ばちゅう)


「む!? 奴の体から滝のように汗が吹き出している……。
そ、それで何をするつもりだ! な、なんと不潔な! 近寄るなあッ!!」
祝融
(しゅくゆう)


「甘い! 張嶷殿を襲った時に軌道は見極めた!
そんな攻撃は私には――ん? こ、これは……」
馬忠
(ばちゅう)


「おやおや、ギリギリで避けられたようだが、摩擦で火がついたようだねえ」
祝融
(しゅくゆう)


「わ、私としたことが! うわああああああっ!!」
馬忠
(ばちゅう)


「あっはははは! ざまあないったらありゃしないよ!
ほらほら、火は消してやるからおとなしくおし!」
祝融
(しゅくゆう)



蜀軍 本陣




「ち、張嶷と馬忠が孟獲の妻に捕らわれただと!?」
李恢
(りかい)


「そうか。蛮族は女も野蛮なのだな。
それで兵糧の手配はどうなって――」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「じ、丞相! そんなことよりも早く孟獲と交渉をしなければ張嶷らが殺されてしまいますぞ!」
李恢
(りかい)


「知ったことか。女子供に負けるような弱将を処刑してくれるなら手間が省けるではないか」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「んぐっ…………」
李恢
(りかい)


「張嶷先輩たちは優しいから、女性相手に遠慮があったんじゃないスか。
でも放ってはおけないッス。自分が行って取り返してくるッスよ!」
趙雲
(ちょううん)


「待ちやアンタ。目には目を、女には女や。祝融はんとやらはウチが射倒してやるっす!」
馬雲緑
(ばうんりょく)


「ちょっと待ったコーーール! 面白そうだからアタシがやるっキャ!」
鮑三娘
(ほうさんじょう)


「脇役は引っ込んでろです。私が殺ってやるです」
黄月英
(こうげつえい)


「横から出てきてずるいっすよ! だったらジャンケンで決めようや」
馬雲緑
(ばうんりょく)


「よーし、恨みっこなしだにゃ。ジャーンケーーン!!」
鮑三娘
(ほうさんじょう)


「ああ、姦しい。誰でもいいから外でやれ」
諸葛亮
(しょかつりょう)



蜀 馬雲緑軍




「――ってことでジャンケンに勝ったウチが戦うっすから、アンタらは手ぇ出さんといてや」
馬雲緑
(ばうんりょく)


「わかってるっキャ」
鮑三娘
(ほうさんじょう)


「死んだら次は私が戦うです。安心して殺されて来るです」
黄月英
(こうげつえい)


「ウス。飛び道具に気をつけるッスよ」
趙雲
(ちょううん)


「……で、女の戦いになんでアンタがついてきてるんや?」
馬雲緑
(ばうんりょく)


「妻の戦いは夫の戦いッスよ。自分が見てるから安心して戦うッス!」
趙雲
(ちょううん)


「ヒューヒュー!」
鮑三娘
(ほうさんじょう)


「ただでさえ暑いのに熱くて死にそうです」
黄月英
(こうげつえい)


「やかましわ!」
馬雲緑
(ばうんりょく)


「さっきから小娘どもがうるさいねえ。
捕虜を取り返しに来たのかい? だったら安心おし。
亭主を5回も解放してくれた礼に、生かしておいてやってるよ」
祝融
(しゅくゆう)


「そりゃおおきに。でも勝負となれば話は別っすよ!
ウチは趙雲が妻、馬雲緑や! この矢の照準からは逃がさへんで!」
馬雲緑
(ばうんりょく)


「フン! 距離をとれば妾と互角に戦えるとでも思ったのかい?
その浅はかな考えを南中王が妻、祝融が粉々に砕いてやるさね!」
祝融
(しゅくゆう)


「!? チッ……。ブーメランの回転が強すぎて矢が弾かれとるわ……」
馬雲緑
(ばうんりょく)


「どうしたんだい? 威勢が良かったのは最初だけかいッ!?」
祝融
(しゅくゆう)


「雲緑! 一矢では足りなくても、二の矢、三の矢と継げば話は変わるッスよ!」
趙雲
(ちょううん)


「言われんでもわかっとるわ! ちっとは自分の妻を信用せんかいッ!」
馬雲緑
(ばうんりょく)


「む……。こ、これは立て続けに同じ場所を狙い撃つことで、威力を倍増させてるのかい……ッ!?」
祝融
(しゅくゆう)


「高速回転するブーメランの同じ場所を狙い撃つなんてさすが雲緑っキャ!」
鮑三娘
(ほうさんじょう)


「妾のブーメランの軌道を変えられただと!? な――――ッ!?」
祝融
(しゅくゆう)


「――勝負あり、やな」
馬雲緑
(ばうんりょく)


「すごい! ブーメランに意識を向かせて、その隙に間合いを詰めて剣を喉元に突きつけたにゃ!」
鮑三娘
(ほうさんじょう)


「それにしても鮑三娘は解説キャラがお似合いです」
黄月英
(こうげつえい)


「な――なぜ殺さない!? 情けを掛けたつもりかい!?」
祝融
(しゅくゆう)


「アンタが死んだら、亭主が泣くやろ」
馬雲緑
(ばうんりょく)


「ぐっ…………。張嶷とやらといい、蜀の連中は甘ちゃんばかりだね!
貸しは作らないよ! 捕虜は返してやるからさっさと消えな!」
祝融
(しゅくゆう)


「うす。おおきに」
馬雲緑
(ばうんりょく)


「雲緑にゃんかっこいいっキャ! 姐さんと呼ばせてもらうにゃ!」
鮑三娘
(ほうさんじょう)


「雲緑! 鮮やかな勝利ッスよ! 惚れ直したッス!」
趙雲
(ちょううん)


「やめや。ひとが見とるわ」
馬雲緑
(ばうんりょく)


「ママ! 大丈夫?」
??
(??)


「花鬘! ここは危険だよ! 妾は平気だから近寄るんじゃないよ!」
祝融
(しゅくゆう)


「へ? あの子…………」
鮑三娘
(ほうさんじょう)


「………………」
花鬘
(かまん)


南蛮王の娘・花鬘


「なんや、娘もおったんか。なおさら殺さへんで良かったわ」
馬雲緑
(ばうんりょく)


「馬雲緑と言ったね。次に戦場で会った時は、手心を加えるんじゃないよ!」
祝融
(しゅくゆう)


「うす。捕虜も返してもろたし、貸し借り無しや」
馬雲緑
(ばうんりょく)


「面目ない。助かりましたぞ馬雲緑殿」
馬忠
(ばちゅう)


「感謝」
張嶷
(ちょうぎょく)


「さあ、帰るよ花鬘! 出直しだ!」
祝融
(しゅくゆう)


「うん」
花鬘
(かまん)


(あの子、孟獲の娘なのに索にゃんを助けてたっキャ? どういうことだにゃ……?)
鮑三娘
(ほうさんじょう)



孟獲軍 本陣




「……蜀軍は強い。いまいましいけどそれは認めるしかないさね。
女が強い国ってのは本当に強い国だ。あれだけ強い女が揃ってる国はそうはないだろうよ」
祝融
(しゅくゆう)


「がははははは! 蜀軍が強ええなんて、そんなことは母ちゃんに言われなくてもわかってんよ!
俺はもう奴らに5回もとっ捕まってんだぜ!」
孟獲
(もうかく)


「自慢することじゃないよ兄ちゃん……」
孟優
(もうゆう)


「で、どうすんのさアンタ。強い蜀軍をどうやって倒すつもりさね」
祝融
(しゅくゆう)


「ぶほっ! おいおい、もう忘れちまったのか?
母ちゃんの弟の帯来が、そろそろ援軍を連れて戻ってくるところじゃねえか」
孟獲
(もうかく)


「そんなことは承知だよ! 妾が言いたいのは、南中王・孟獲ともあろうものがね、
他人任せにするだけじゃなくて、自分でやってやろうって気にならないのかいってことさね!」
祝融
(しゅくゆう)


「わっはっはっはっはっ!
…………そう言ったってよ、母ちゃん。だってもう5回も負けてんだぜ、俺ら」
孟獲
(もうかく)


「かーーーっ! なんて情けないツラしてんだい!
もうアンタには愛想が尽きたよ。花鬘! 実家に帰るよ!」
祝融
(しゅくゆう)


「え。で、でも……」
花鬘
(かまん)


「お、おいおい。待てよ母ちゃん! やぶから棒に別れるなんてそりゃあねえだろうよ!
もうすぐ木鹿大王のヤツだって援軍に来てくれるし――」
孟獲
(もうかく)


「だからそういう他人任せなところを改めろって妾は言ってんのさ!
まったくアンタは昔っから――」
祝融
(しゅくゆう)


「………………」
帯来
(たいらい)


「おやあ、これは間の悪い所に来ちゃいましたかねえ。
いったん出直した方がいいでしょうかな?」
木鹿大王
(ぼくろく)


猛獣国の長・木鹿大王


「ぼ、木鹿大王!!
ひゃっひゃっひゃっ! これはみっともないところを見せちまったな!
なあに、母ちゃんと俺の間じゃよくあることだよ。まあまあ、そこに座ってくれよ。
ほらほら、母ちゃんも遠路はるばる来てくれた木鹿に挨拶しろや」
孟獲
(もうかく)


「フン! 調子のいい男だよ本当に!」
祝融
(しゅくゆう)


「……お茶、いれてくるね」
花鬘
(かまん)


「いやいやお構いなく。しばらく見ない間に花鬘ちゃんも綺麗になったねえ。
俺が来たからにはもう大丈夫だよ。いや、本当にお茶は結構だ。
連れてきた子供たちがお腹を空かせてるからね。すぐに餌をやらないといけないんだよ」
木鹿大王
(ぼくろく)


「え、餌っていうのはもしかして…………」
孟優
(もうゆう)


「ああ、今すぐ蜀軍の兵どもを、かわいい子供たちの餌に変えてやるよ!」
木鹿大王
(ぼくろく)



蜀 趙雲軍




「ち、趙雲将軍! け、獣です! 猛獣の群れがこちらに向かってきます!」
張翼
(ちょうよく)


「ウス。見ればわかるッスよ」
趙雲
(ちょううん)


「聞いてもわかるヨ。吠え声、鳴き声、叫び声。こうもうるさくっちゃ読書もできやしないネ」
馬鈞
(ばきん)


「は、博士も将軍も何を悠長に……。
す、すぐにギヱンを起動させましょう!」
楊儀
(ようぎ)


「ああ。目には目を、獣には獣だヨ」
馬鈞
(ばきん)


「オオオォォォォォンンン!!」
魏延
ギヱン


「おや? 妙なものがこっちに向かってくるね」
木鹿大王
(ぼくろく)


「あ、あれは敵の将軍だよ! 四つ足で疾走し爪と牙で切り裂く魔獣なんだ!!」
孟優
(もうゆう)


「ほほう。獣と人の合いの子、獣人といったところかな。
――半分でも獣なら問題ない」
木鹿大王
(ぼくろく)


「ウアァァァァァァァァア!!」
魏延
ギヱン


「おすわり」
木鹿大王
(ぼくろく)


「ウオン!?」
魏延
ギヱン


「よーしよしよしよし。いい子だいい子だ。
お前のことはチャトランと名付けようね。よしよしチャトラン」
木鹿大王
(ぼくろく)


「ゴロゴロゴロゴロ……」
チャトラン
ちゃとらん


「ギ、ギ、ギ、ギ、ギ、ギヱンが…………。
わ、私や博士、諸葛亮丞相にしか従わないはずなのに……」
楊儀
(ようぎ)


「そういえば聞いたことがある。
南中には猛獣を意のままに操る、獣王と呼ばれる男がいると。
まさか魏延殿をも手なずけられるとはな」
馬忠
(ばちゅう)


「猛獣使いっすか。そらすごいわ!」
馬雲緑
(ばうんりょく)


「か、感心している場合ではありませんぞ!
あれでは魏延将軍を人質に取られたも同然です!」
張翼
(ちょうよく)


「よーしよしよしよし。チャトラン、今度は俺のために働いてくれるかい?
さあ、あっちの緑色の連中は敵だよ。一人残らず蹴散らしてくるんだ」
木鹿大王
(ぼくろく)


「ガアァァァァァァァァオ!!」
チャトラン
ちゃとらん


「人質どころか魏延はん、わてらに襲いかかってきとるで。
えらいアグレッシブな人質やな」
馬岱
(ばたい)


「は、は、博士! い、いったいどうすれば!?」
楊儀
(ようぎ)


「ふむ……。ワタシはちょっと急用ができた。
ここは楊儀クンたちに任せるヨ。それじゃあ」
馬鈞
(ばきん)


「は、は、は、は、は、博士!? こ、こんな時にいったいどこへ――」
楊儀
(ようぎ)


「兵たちは猛獣と魏延殿におびえて逃げ惑っている。
これでは勝負にならんぞ!」
馬忠
(ばちゅう)


「魏延先輩をバッサリ行っちゃうのも気が引けるッスからね。
ここはいったん退却するッスよ!」
趙雲
(ちょううん)



蜀軍 本陣




「いやあ、93年も生きてきてあんな敵は初めてッスよ。
兵たちも混乱して戦うどころじゃなかったッス」
趙雲
(ちょううん)


「し、しかも魏延が敵に手なずけられたそうだな。
丞相! このような相手とどう戦うおつもりですか!?」
李恢
(りかい)


「黙れ。余がこの程度の事態を想定していないとでも思ったか?
馬鈞、貴様の出番だ」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「はいはい。こんなこともあろうかと用意しておいたヨ。
虎戦車のお披露目だヨ!」
馬鈞
(ばきん)


虎戦車
(とらせんしゃ)


「こ、これは……戦車、ですか? し、しかし虎の形をした戦車とは……」
馬謖
(ばしょく)


「もともとはギヱンの脚部パーツとして開発していたものだが、
中に人が入って操縦できるように改修したのサ。
でも虎戦車の一番のウリはそんなことじゃないヨ。ほおら、この通り!」
馬鈞
(ばきん)


「うおおおっ!? こいつはすげえ! 車が火を噴いたぜ!」
呂凱
(りょがい)


「獣は何よりも火を恐れる。そら、何をぐずぐずしている。
さっさと野蛮人どもに文明の叡智をとくと味わわせてやるのだ」
諸葛亮
(しょかつりょう)



木鹿大王軍




「い、いったいなんなのだあれは!?
く、車が火を噴いているぞ!?」
木鹿大王
(ぼくろく)


「だーはっはっはっ! さすが諸葛亮サンだぜ!
俺らの思いもよらないとんでもねえ代物を隠してやがった!」
孟獲
(もうかく)


「か、感心している場合じゃないよ!
火にまかれて獣たちがみんな逃げちゃったよぉぉ!」
孟優
(もうゆう)


「ま、まだ俺たちにも切り札はある!
行け! チャトラン!」
木鹿大王
(ぼくろく)


「グオォォォォォォォォン!!」
チャトラン
ちゃとらん


「伏せ」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「!?
…………クゥゥゥゥゥゥン」
チャトラン
ちゃとらん


「な、なに!? チ、チャトランがあっさり寝返った、だと……!?
お、俺にいったんなついた獣が、別人になつくなんてありえねえ!!」
木鹿大王
(ぼくろく)


「フン。余の手をわずらわせおって。
くだらぬサーカスはここまでだ。道化どもを殲滅しろ」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「ウス! 覚悟するッスよ!」
趙雲
(ちょううん)


「突撃」
張嶷
(ちょうぎょく)


「虎戦車が巻き起こしたこの業火……。
いい! 実にいい汗がかけるぞ!」
馬忠
(ばちゅう)


「ぬぬぬぬぬ……。
こうなったら俺が自ら蜀軍を蹴散らしてやる!
プースケを出せ!!」
木鹿大王
(ぼくろく)


「な、なんだあれは!? 灰色の化け物が現れたぞ!!」
張翼
(ちょうよく)


「あ、あれは……木鹿大王が乗っているのは噂に聞く象というものか!?」
李恢
(りかい)


「なんてえ野郎だ! 火も矢もものともせずに虎戦車を次々と踏み潰してやがるぜ!」
王平
(おうへい)


「行くぜ鮑三娘! あれこそ俺たちが戦うべき強敵だ!」
関索
(かんさく)


「さっすが索にゃん! あいつを倒すっキャ!」
鮑三娘
(ほうさんじょう)


「象は関索はんが仕留めてくれる! 関索はんに敵兵を近づけるな!」
馬岱
(ばたい)


「バァァァァルカン!!」
関索
(かんさく)


「はっはっはっ! 指弾ごときでプースケの分厚い皮膚を貫けるものか!」
木鹿大王
(ぼくろく)


「必殺必中! 円月りぃぃぃぃん!!」
鮑三娘
(ほうさんじょう)


「無駄だ無駄だ! プースケを倒せる武器などあるものか!」
木鹿大王
(ぼくろく)


「くっ……。どうすればあの装甲を破れるんだ……?」
関索
(かんさく)


(人よ………………)
??
(??)


「!?」
関索
(かんさく)


(人を狙うのよ、関索…………)
??
(??)


「この声は…………!?
よし、もらったああああ!! 俺のこの掌が光って叫ぶ! お前を倒せときらめき唸る!」
関索
(かんさく)


「な、なに!? プ、プースケの身体を駆け上がって俺のところまで――」
木鹿大王
(ぼくろく)


「ラァァイトニング!! フィンガァァァァァァアア!!」
関索
(かんさく)


「ぎゃああああああああああああ!!!」
木鹿大王
(ぼくろく)


「やったっキャ!!」
鮑三娘
(ほうさんじょう)


「エェェェェェンド! ヒット!!」
関索
(かんさく)


「うわぁぁぁぁ!! ぼ、木鹿大王までやられちゃったよぉぉ!!」
孟優
(もうゆう)


「ぶわっはっはっはっはっ!
こうなったら弟よ、やることは一つだな!」
孟獲
(もうかく)


「え? 一つって?」
孟優
(もうゆう)


「おとなしく降伏するに決まってんだろ!
いやあ、参った参った。ひゃっひゃっひゃっひゃっ…………」
孟獲
(もうかく)


「おい見ろ! 孟獲のヤローが白旗上げてやがんぜ」
王平
(おうへい)


「やったで関索はん! あんさんが木鹿大王を倒してくれたおかげや!」
馬岱
(ばたい)


(それにしても……。
あの子の声が聞こえたのは、気のせいだったのか……?)
関索
(かんさく)


「索にゃん……? 他の女のことを考えてるのは気のせいかにゃ……?」
鮑三娘
(ほうさんじょう)








かくして木鹿大王の猛獣軍団を破り、蜀軍は六度目の孟獲捕縛に成功した。
だが追い詰められた孟獲と南中軍にはまだ最後の切り札が残されていた。
切り札の名は藤甲軍。いよいよ最後の決戦の幕が切って落とされようとしていた。




〇九三   不死身の兀突骨