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三 国 志

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一〇〇   石亭・陳倉の戦い





魏 徐州(じょしゅう)

張普
(ちょうふ)

曹休の将



「――私は反対ですな」
賈逵
(かき)


「ユーが反対しようが関係ありません。もう決定事項です。
ミーはミスター周魴(しゅうほう)の策に乗り呉軍を打ち破ります」
曹休
(そうきゅう)


「たしか赤壁の戦いの時、曹休将軍はあちらの合肥の守りにおいででしたな」
賈逵
(かき)


「黄蓋のことを言いたいのですか?
赤壁の戦いに際し、呉軍から偽装投降し我が軍のバトルシップを焼き払ったと聞いていますよ。
周魴も同じだと? 彼のレターを読んでもまだ疑うのですか?」
曹休
(そうきゅう)


「こちらの周魴の書状に記された意見はもっともです。
軍事機密に属するはずの呉軍の配置を事細かに記し、
しかも的確に我々のとるべき進撃路を示しています。
周魴の寝返りが本当ならば、間違いなく我々は勝利を得られるでしょう」
賈逵
(かき)


「周魴は些細なことから罪に問われ、
髠刑(こんけい 罪人の烙印として強制的に剃髪させる刑)に処されています。
呉軍を恨む気持ちはリアルでしょう」
曹休
(そうきゅう)


「処刑されたと言っても、たかが髪を切られただけです。
――将軍、提案があります。こたびの戦は私が指揮を取りましょう」
賈逵
(かき)


「なんだと? さては曹休様の手柄を横取りするつもりだな!」
張普
(ちょうふ)


「落ち着きたまえ張普君。
賈逵君は周魴の寝返りをトラップだと信じているから、
ミーの代わりにトラップにかかってやろうと言っているんだ」
曹休
(そうきゅう)


「そこまでおわかりならば、なぜ私の意見を聞かれないのですか」
賈逵
(かき)


「すでに呉を攻める詔勅もいただいた。
ここまで準備を進めてきて、今さらユーに役割を代わってもらうなんてミーのプライドが許さないよ」
曹休
(そうきゅう)


(……誇りのために多くの将兵を危機にさらすつもりか)
賈逵
(かき)


「周魴の寝返りがリアルであれば、ノープロブレムだよ。
そしてミーはリアルだと確信している」
曹休
(そうきゅう)


「……わかりました。それでは私は手はず通り、豫州(よしゅう)の兵を率いあちらから進撃します」
賈逵
(かき)


「イエス。周魴の待つ皖城(かんじょう)で落ち合いましょう」
曹休
(そうきゅう)



呉 寿春(じゅしゅん)




「そうか。曹休のヤローは周魴の寝返りを信じたか。
へへっ。やったな陸遜!」
孫権
(そんけん)


「曹休さんに狙いを絞ったのが良かったよね。
あの人なんだかんだいってお坊ちゃまだから、甘い話に弱いんだよな~」
陸遜
(りくそん)


「だが想定していたより兵力は多いようだぞ。
徐州に加え豫州、荊州(けいしゅう)の兵も動員していると聞く」
全琮
(ぜんそう)


「ボクらが兵力で劣るのは当たり前の話だからしょうがないですよ~。
ここでも狙いを曹休さんだけにググッと絞って、曹休さんを袋叩きにしちゃいましょ!」
陸遜
(りくそん)


「そうと決まればもうじっとしておられん。ワシは先に行くぞ!」
徐盛
(じょせい)


「艦長、俺も行くぜ。ジジイに先を越されるわけにはいかねえ。
作戦は陸遜に任せっから、おって指示を伝えてくれ」
朱桓
(しゅかん)


「おう、魏軍を盛大にもてなしてやんな。錨を上げろ! 出航だ!!」
孫権
(そんけん)


「はーい!」
陸遜
(りくそん)



呉 皖城

周魴
(しゅうほう)

呉の将




「し、将軍! 城には陸遜の兵が入っています!」
張普
(ちょうふ)


「……賈逵の不安が的中したというわけですね。
陸遜の兵はメニーですか?」
曹休
(そうきゅう)


「めにい? 兵数のことならせいぜい5千くらいです」
張普
(ちょうふ)


「なるほど。罠だとわかっていても、アタックしたくなる小勢ですね。
しかし呉軍はミーたちが豫州、荊州の兵まで結集しているとは知らないでしょう。
これは陸遜の首を挙げるチャンスですよ!」
曹休
(そうきゅう)


「よっしゃ! 俺に任せてくれ将軍!」
張普
(ちょうふ)


「り、陸遜将軍! 曹休軍はひるむことなく攻めかかってきますぞ!」
鮮于丹
(せんうたん)


「あはは。ボクらが小勢だから罠にかかりながらでも勝てると思ってるんだよ。
ホントにお坊ちゃまだよね~。面白いくらい思い通りに動いてくれるよ」
陸遜
(りくそん)


「じ、冗談を言っている場合ではありませんぞ! 我々の兵が少ないのは事実です!」
吾粲
(ごさん)


「あれれ? そこはお前もボンボンだろ! ってツッコむところでしょ。
潘璋さんや呂範さんが生きてたら絶対そう言ってたよ。ノリが悪いなあ」
陸遜
(りくそん)


「で、ですから将軍!」
鮮于丹
(せんうたん)


「あわてなくても大丈夫だよ。城門のところを見てごらん」
陸遜
(りくそん)


「来た来た」
周魴
(しゅうほう)


「あ、あれは周魴殿!? たった一人で城門の前に……」
鮮于丹
(せんうたん)


「し、しかも城門が開いていく…………ッ!?」
吾粲
(ごさん)


「ストーーーーップ!! ウエイトしなさい張普!」
曹休
(そうきゅう)


「すと? うえ? そ、そんなことより周魴です! 周魴が一人で待ち構えています!」
張普
(ちょうふ)


「これはこれは、曹休殿下ではありませんか。ようこそいらっしゃいました。
さあさあ、遠慮なく城にお入りください」
周魴
(しゅうほう)


「じ、城門を開きたった一人で立ちふさがるだと……!?
し、将軍! これは罠ですよ!」
張普
(ちょうふ)


「見ればわかりますよ! さっさとあの裏切り者をアローで射殺しなさい!」
曹休
(そうきゅう)


「いやいや、私は誰も裏切ってなどいない。はなから呉の臣だ。
そしてそして、私に矢など通用しない。
ほらほら、私を殺したければ近づいていらっしゃい」
周魴
(しゅうほう)


「よ、よくも我々をコケにしおって……。
望み通り殺してやる!!」
張普
(ちょうふ)


「ち、張普! ウエイト! ストップ! ハウス!!」
曹休
(そうきゅう)


「手遅れだ」
朱桓
(しゅかん)


「な!? い、いつの間に背後にんぎゃああああああ!!!」
張普
(ちょうふ)


「や、やはり伏兵が潜んでいましたか! 張普め、なんとフールな……」
曹休
(そうきゅう)


「悪いな周魴。あいつがあんまり隙だらけだったんでつい横取りしちまった」
朱桓
(しゅかん)


「構わん構わん、どうせ三下だ。その代わり曹休は私の獲物だぞ」
周魴
(しゅうほう)


「くっ……。朱桓が出てきたがまだたったの二人。
しかしこの分では何人が潜んでいるかわかりませんね。
ここはエスケープしますよ!」
曹休
(そうきゅう)


「えへへ。思った通り曹休さんったら尻尾を巻いて逃げてくよ。
朱桓さんは一人で来てるのに、伏兵がたくさんいると騙されちゃってるよ~」
陸遜
(りくそん)


「こ、これが空城の計というものですかな……。いやはや、冷や汗をかきましたぞ」
吾粲
(ごさん)


「それじゃあ曹休さんの背後に回ってる徐盛さんに合図を送って。
ボクらも出撃して挟み撃ちにしちゃいましょう!」
陸遜
(りくそん)



魏 曹休軍




「往生際が悪いぞ曹休! ここがお前の墓場じゃああッ!!」
徐盛
(じょせい)


「これほどの伏兵が潜んでいたとは……。
しかしネバーギブアップですよ! ユーたち、ミーを無事に逃がしなさい!」
曹休
(そうきゅう)


「お前は完全に包囲されている! 観念しろ!」
全琮
(ぜんそう)


「こ、殺される……。み、ミーが、この曹休がこんなところで…………」
曹休
(そうきゅう)


「それっ! あちらの包囲が手薄だ! 突破して曹休将軍を救出しろ!」
賈逵
(かき)


「か、賈逵!? そこにいるのはミスター賈逵ですか!?」
曹休
(そうきゅう)


「どうにか間に合ったようですな。ご安心されよ、続々と援軍が到着しています」
賈逵
(かき)


「痛い目に遭ったようだな曹休。功を焦るとこういうことになる。まあ、俺が言えた義理じゃないがな」
曹洪
(そうこう)


「そ、曹洪様もおいででしたか。荊州のガードに着いていたのでは?」
曹休
(そうきゅう)


「今の荊州都督は俺じゃない。曹仁の兄貴や徐晃が死んで、後任は司馬懿になったんだ。
暇だったから賈逵に呼ばれて助けに来てやった。お礼を払えとは言わないが感謝しろよ」
曹洪
(そうこう)


「ふ、フン! 助けに来るのがトゥーレイトですよ!」
曹休
(そうきゅう)


「曹休将軍! 曹洪様になんということを――」
賈逵
(かき)


「気にするな。ただの強がりだ。
……背中に矢が刺さってるぞ曹休。さっさと治療してもらってこい」
曹洪
(そうこう)


「呉軍は十分な戦果を得ましたから、あまり無理はしないでしょう。
今のうちにあちらから退却しましょう」
賈逵
(かき)



魏 洛陽の都




「ご苦労だったね曹真君。
曹休君は失敗したようだが、君は無事に蜀軍を退けてくれた」
曹叡
(そうえい)


「いや、蜀軍を撃退できたのは街亭の重要性に着目した司馬懿や、馬謖軍を撃破した張郃殿のおかげです。
指揮官の私はおやつを食べながらそれを眺めていただけです。それに第一――」
曹真
(そうしん)


「第一、なんだい。言ってみたまえ」
曹叡
(そうえい)


「蜀軍は街亭を奪われ撤退しただけで、戦力の大半は温存しています。
いや、天水・南安・安定の兵を加え戦力は増強されたと言えます。
奴らは必ずや、遠からぬうちに再び侵略を再開するでしょう」
曹真
(そうしん)


「たかが一度勝っただけで喜んでいる場合ではないということだね。
ふむ。それならば君に聞こう。蜀軍は次にどこを攻めると思うんだい?」
曹叡
(そうえい)


「ズバリ、陳倉(ちんそう)です」
曹真
(そうしん)


「陳倉……? 確か朽ちかけた古城があったな。
あんな僻地を攻めてくるというのか?」
鍾繇
(しょうよう)


「それより街亭を奪い返しに来たり、
子午谷(しごこく)を突っ切って長安に攻め入る進路のほうが考えられるのではないか?」
王朗
(おうろう)


「実を言うとこれは俺だけの意見じゃなくて、司馬懿や楊阜の考えを合わせたものだ。
司馬懿、なぜ陳倉が攻められると思うのか話してくれ」
曹真
(そうしん)


「………………。はて? この場に私以外にシバイなるお人がいただろうか。
しかし魏の重臣が居並ぶ中で私ごとき木っ端のような存在が意見を求められるわけはないし……」
司馬懿
(しばい)


「ああめんどくせえ! 楊阜、代わりに話してくれ」
曹真
(そうしん)


「はッ。――蜀軍の動員兵力は我々と比べはるかに少ない。
それは人口の不足から兵が足りないだけではなく、
世に蜀の桟道と呼ばれるように道が険しく兵糧の輸送がままならず、
多くの部隊を運用できないという理由もあるのだ」
楊阜
(ようふ)


「なるほど。長く関中で益州の動向を見てきた楊阜殿の言葉は説得力がありますな」
華歆
(かきん)


「従って防備を固めた街亭や、子午谷を通って一か八かの戦いを挑む力は蜀には無いと考える。
奴らの限られた戦力で落とせ、しかも我々の意表を突ける要地――それが陳倉である」
楊阜
(ようふ)


「妥当な考えだな。それでお前たちのことだ。もう備えもしてあるのだろう」
劉曄
(りゅうよう)


「ああ、すでに陳倉には郝昭(かくしょう)を入れ、城の改装をさせている。
関中では知らぬ者のない名将だ」
曹真
(そうしん)


「頼もしい限りだね。曹真君に任せておけばなんの心配もいらない。吉報を待っているよ」
曹叡
(そうえい)


「はッ!」
曹真
(そうしん)



陳倉 蜀軍




「むむむ……まさか魏軍め、すでに陳倉の守りを固めていたとはな」
李恢
(りかい)


「その守将のカクショウってなあ有名なのか?」
王平
(おうへい)


「関中に輝くその名……さながら明けの明星のごとし。
されど月見草のごとく密やかに咲けり」
姜維
(きょうい)


「隠れた名将ってヤツだぞ。特に籠城戦じゃ負け知らずだ」
梁緒
(りょうしょ)


「ほう、それは厄介そうだな。なんか弱点でもないのか」
馬忠
(ばちゅう)


「私だ」
尹賞
(いんしょう)


「うおっ! 急にぬっと出るなよ! お前の顔はなんか怖ええんだからよ!」
呂義
(りょぎ)


「郝昭の弱点は知らんが、私の部下に郝昭と同郷の男がいる。ヤツに説得させてみよう」
尹賞
(いんしょう)


「…………説得に応じるようなヤツじゃなさそうだがな」
梁虔
(りょうけん)



陳倉

郝昭
(かくしょう)
靳詳
(きんしょう)

魏の将

蜀の臣




「おーい郝昭! 私だ、靳詳だ。ちょっと顔を出してくれないか。久々に話そうじゃないか」
靳詳
(きんしょう)


「帰(けえ)んな」
郝昭
(かくしょう)


「え?」
靳詳
(きんしょう)


「てめえの魂胆はわかっている。俺を降伏させようとしても無駄だ。帰れ」
郝昭
(かくしょう)


「ま、待て待て。お前は何か誤解しているぞ。私は単に旧交を温めようと思って――」
靳詳
(きんしょう)


「ほう。ならば入れてやらんでもねえが、本当に昔話をしてえだけか?
もし一言でも蜀に降れとかくだらねえことをほざけば、その場で首をはねんぞ」
郝昭
(かくしょう)


「そ、それは、なんというか、その。私も少しは仕事で来ている面もあるというか」
靳詳
(きんしょう)


靳詳、てめえとの付き合いは長げえからこうして紳士的に話してやってんだ。
だが私情を断てばてめえと俺は敵同士。話を聞く道理はねえ」
郝昭
(かくしょう)


「か、郝昭! 私も友人として忠告するんだ。
蜀軍の兵力は数万、しかし見たところ陳倉には千人も詰めていまい。
全滅するよりも生きる道を選べ!」
靳詳
(きんしょう)


「言いてえことはそれだけか。
靳詳、この矢が見えんな。俺はてめえを知ってんが、この矢はてめえを知らんぞ。
さあ、今すぐここを去れ。さもなくばてめえを射抜く!」
郝昭
(かくしょう)


「郝昭…………。わかった、もう何も言わん。さらばだ!」
靳詳
(きんしょう)


「…………すまねえな、 靳詳
郝昭
(かくしょう)



陳倉 蜀軍




「感動の再会は終わったか。ならばさっさと城を落とせ」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「はッ! 馬鈞殿の発明した攻城兵器を押し出します!」
李恢
(りかい)


「雲梯(うんてい)と衝車(しょうしゃ)を改良してみたんだ。どうなるかネ」
馬鈞
(ばきん)


「…………駄目ですな。雲梯は火矢で、衝車は投石でどちらも城に取り付く前に破壊されています」
李恢
(りかい)


「ふむ。敵はどうやら兵器に万全の備えをしていたようだヨ。
城に近づけなければせっかくの改良も無駄だネ。アハハハハ」
馬鈞
(ばきん)


「わ、笑いごとではあるまい!
丞相、いや左将軍! 次は工作部隊に地下から城へ潜入させます!」
李恢
(りかい)


「どうせ城内には堀が張りめぐらされ、全員溺れ死ぬだろうがそれも一興だ。やれ」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「…………や、やはり別の手を考えましょうか」
李恢
(りかい)


「後続部隊から連絡です! 我が軍の背後に曹真の大軍が現れました!」
張翼
(ちょうよく)


「来たか! 陳倉の攻略に手間取っていれば、曹真に背後を襲われ挟み撃ちになりますぞ!」
李恢
(りかい)


「ならばとっとと城を落とせばいいだけだ。曹真は張嶷に足止めさせろ」
諸葛亮
(しょかつりょう)



陳倉 蜀軍

龔起
きょうき)
魏平
(ぎへい)

蜀の将

魏の将




「張嶷将軍! 曹真軍の先鋒が迫ってますぜ!」
龔起
きょうき)


「迎撃」
張嶷
(ちょうぎょく)


「見たところ3千程度か。あれしきの相手に将軍が出るまでもない。俺が行こう!」
龔起
きょうき)


「敵さん焦って飛び出してきたぜ。どっちがやるよ?」
魏平
(ぎへい)


「ここは俺に任せてもらおう。
虜囚の辱めを受けた俺を曹真様は拾ってくれた。その恩に報いる時だ」
王双
(おうそう)


「泣かせるねえ。それじゃあここは譲るぜ。行ってきな」
魏平
(ぎへい)


「我が名は王双! 曹真様に仇なす者は俺が討つ!」
王双
(おうそう)


「俺は張嶷将軍の副将・龔起! いざ尋常に勝負だ! うりゃああっ!!」
龔起
きょうき)


「なんだその槍は? 遅すぎて蝿が止まりそうだ! フン!」
王双
(おうそう)


「う、うおおっ!? こいつ鉄球使いか!」
龔起
きょうき)


「ただの鉄球と思うな! 呉軍に捕らわれ狭い牢獄の中で磨き上げた我が奥義をとくと見よ!
必殺! 流星鎚ィィィィやああァァァァァ!!」
王双
(おうそう)


「な、なに!? その場で回転して鉄球に遠心力を与えぶふぉおおおおおおおっ!!」
龔起
きょうき)


「ァァァァァァァァァァッッッ!!!」
王双
(おうそう)


「記録、84メートルってところか?
鉄球もろとも相手の顔面をふっ飛ばすなんて、何度見ても恐ろしい技だぜ」
魏平
(ぎへい)


「強敵……」
張嶷
(ちょうぎょく)


「んん? 敵将のお出ましか?
王双は鉄球を84メートル先までほっぽり出しちまって丸腰だ。今度は俺が相手になるぜ」
魏平
(ぎへい)


「覚悟」
張嶷
(ちょうぎょく)


「おっと! へへっ。俺はアンタと接近戦をやるつもりはねえぜ。
俺の武器はこいつだ!」
魏平
(ぎへい)


「石礫…………」
張嶷
(ちょうぎょく)


「そうさ、俺の得物は石ころさ。弾数は無制限、当たりどころが悪けりゃ死ぬぜ。
そして俺は悪い所に当てるのが得意だ!」
魏平
(ぎへい)


「無駄」
張嶷
(ちょうぎょく)


「大した剣の腕だな。だが石ころだって何発も弾いてりゃ刀身が耐えられねえぜ。
そらそらそらあっ!!」
魏平
(ぎへい)


「無為」
張嶷
(ちょうぎょく)


「! こいつは驚いた。剣の柄と鞘で弾いてやがる。
やべえ、俺の手には余る敵だったか」
魏平
(ぎへい)


「魏平! 俺は譲った覚えはないぞ!」
王双
(おうそう)


「おおっ! もう鉄球を拾って戻ってきたのか!」
魏平
(ぎへい)


「待たせたな! 喰らええぇぇぇェェェッッ!!」
王双
(おうそう)


「入魂!」
張嶷
(ちょうぎょく)


「り、流星鎚を正面から受け止めた!?
む、無茶だ! 鉄球を両断できるわけがねえ!」
魏平
(ぎへい)


「ェェェェァァァァアアアアアッッ!!」
王双
(おうそう)


「!? 不覚………………」
張嶷
(ちょうぎょく)


「と、とんでもねえ剣士だがさすがに無茶だよな。
顔面直撃の軌道は反らしたものの、肩口に命中し気絶したぜ」
魏平
(ぎへい)


「そのまま馬の背に乗って自軍のもとへ逃げていったか。
見よ、流星鎚が半ば両断されている。すごい男だ。
気絶した所を討つのは忍びない。見逃すとしよう」
王双
(おうそう)


「まあこれで敵将を二人討ったも同然だ。蜀軍はさぞ慌てふためくだろうぜ」
魏平
(ぎへい)



蜀 陳倉




「副将を討たれ張嶷は重傷か。
フン、大勢に影響はない。張嶷に代わり王平に曹真軍の相手をさせろ。
その間に総退却する」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「はッ。
…………え。そ、総退却!? 総退却するのですか?」
李恢
(りかい)


「後方で長雨が続き兵糧の輸送が滞っている。
さっさと陳倉を抜き、隴西(ろうせい)で麦を刈りしのぐ予定だったが、
いつまで経っても陳倉が落ちぬ。これ以上の戦は無為だ」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「長雨で兵糧が来ない? はてさて、兵站を担当している李平さんからそんな連絡はありましたかな?」
呉班
(ごはん)


「三日後には来る。余の言葉を疑うのか」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「さ、左将軍が仰られるならばその通りなのでしょう。
至急、総退却の準備にかかります!」
李恢
(りかい)


「姜維、貴様には別命を与えてやる」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「出会いあれば別れあり。さよならだけが人生さ……」
姜維
(きょうい)


「賢しらに余の考えを読むな。
フン。わかっているならとっとと行け。副将には魏延をつけてやる」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「え? あ、はい! す、すぐに起動いたします!」
楊儀
(ようぎ)


「陳倉ごときにいつまでも構うことはない。本隊は祁山(きざん)に向かう。
クックックッ……。これで曹休の首が獲れるとは思わぬが、なんの獲物がかかるか見ものだな」
諸葛亮
(しょかつりょう)








かくして曹休は石亭に敗れ、蜀軍は陳倉を抜けずに撤退にかかった。
だが諸葛亮は転んでもただでは起きない。
追撃を狙う曹真の前には陥穽が待ち受けていた。




一〇一   趙雲子龍