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三 国 志

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一〇一   趙雲子龍





魏 曹真軍




「罠だな」
曹真
(そうしん)


「ええ、罠でありましょうな」
郭淮
(かくわい)


「しかしこの手紙は姜維本人が書いたようですが……?
姜維と同郷の者に解読させ、ようやく寝返りを報せる内容だとわかったくらいですし」
費耀
(ひよう)


「それはなんの不思議もない。本当に姜維が書いたんだろうよ。
つまり、姜維が寝返るって話が罠だってんだ」
曹真
(そうしん)


「…………ですが、もしこれが真実ならば一気に蜀軍を撃破できますぞ」
費耀
(ひよう)


「馬鹿な! こんな与太話を信じることなどできるか!」
郭淮
(かくわい)


「ならば私の手勢だけでも出撃させていただきたい。
もし姜維が本当に寝返れば、私の手勢だけで十分に戦えます」
費耀
(ひよう)


「……お前が死ぬとわかっていて、みすみす罠に掛かれと命令しろと?」
曹真
(そうしん)


「はい、命令していただきたい」
費耀
(ひよう)


「………………すまん。行ってくれるか」
曹真
(そうしん)


「ありがとうござりまする!
――よし、行くぞ万政!」
費耀
(ひよう)


「!? だ、第一回選択希望選手……万政!?」
万政
(ばんせい)


「ここでお前も手柄を立てれば、趙雲を逃がした雪辱が果たせるぞ。
それでは曹真将軍、行って参ります!」
費耀
(ひよう)



斜谷(やこく)




「海老で鯛を釣る……逆もまた然り、か」
姜維
(きょうい)


「んだ。曹真を引っ掛けるつもりが費耀が掛かっちまったぞ」
梁緒
(りょうしょ)


「やはり罠であったか……。
万政! お前だけでも逃げろ!」
費耀
(ひよう)


「第二回選択希望選手……万政! 退却高校!」
万政
(ばんせい)


「させへんで!」
馬雲緑
(ばうんりょく)


「ええで雲緑! そらっ!!」
馬岱
(ばたい)


「だ、第三回選択希望選手……万政! 討ち死に大学ぅぅ!!」
万政
(ばんせい)


「ば、万政! く、くそ。ここまでか……」
費耀
(ひよう)


費耀殿! 助けに参ったぞ!」
王双
(おうそう)


「お、王双!? い、いかん。ここは危険だ! 近づくな!」
費耀
(ひよう)


「俺も費耀さんの意見に賛成だぜ。ここまでは付き合ってやったが、これ以上は御免だ。
アンタも早いとこ逃げたほうがいいぜ」
魏平
(ぎへい)


「いや、俺の流星鎚ならばこの距離でも……届く!
ぬぅぅぅぅぅぅぅん!!」
王双
(おうそう)


「あれは……流れ星?」
姜維
(きょうい)


「砲丸ッスよ! 危ないッス!!」
趙雲
(ちょううん)


「あ、あんた! 今は駄目や!」
馬雲緑
(ばうんりょく)


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああッッッ!!!」
王双
(おうそう)


「ぐわぁっ!!」
趙雲
(ちょううん)


「ち、趙雲将軍!!」
梁虔
(りょうけん)


「趙雲将軍が被弾した……?」
尹賞
(いんしょう)


「す、すげえ。この距離から姜維に直撃コースだったぜ。
趙雲がかばってなきゃ討ち取れてたな」
魏平
(ぎへい)


「オォォォォォォォォォォン!!」
魏延
ギヱン


「や、やべえ王双! 背後に魏延が来てるぞ!」
魏平
(ぎへい)


「ぐううっ!!」
王双
(おうそう)


「お、俺を助けるために砲丸を投げたから王双は丸腰に……」
費耀
(ひよう)


「かすり傷だ。今行くぞ費耀殿!」
王双
(おうそう)


「…………これ以上、貴殿らを危機にはさらせない。
王双殿! 魏平殿! 俺は自害する! 今のうちに逃げられよ!」
費耀
(ひよう)


「ひ、費耀! 馬鹿な真似は――――。
馬鹿が……。自害するくらいなら蜀に降伏すりゃいいだろうが……」
魏平
(ぎへい)


「費耀すでに死す。王双まさに討つべし」
姜維
(きょうい)


「王双! 早く逃げろ! 費耀の死を無駄にするつもりか!
こ、この化け物め! 王双から離れやがれ!」
魏平
(ぎへい)


「グウゥゥゥゥゥゥゥゥウ!」
魏延
ギヱン


「待つッスよ……」
趙雲
(ちょううん)


「あんた! 動いたらあかん!」
馬雲緑
(ばうんりょく)


「雲緑、そこをどくッス。やられっぱなしじゃ収まらないッスよ!
うおおおおおおおおっ!!」
趙雲
(ちょううん)


「ぐわあああああっ!!
お、俺の流星鎚を受けて……さ、さすがは趙雲、だ……」
王双
(おうそう)


「王双!! ちっきしょう……兵だけでも逃がさねえとな。退却するぞ!!」
魏平
(ぎへい)


「へへっ……。自分にも、まだこれくらいは……できるッスよ……」
趙雲
(ちょううん)


「あ、あんた! しっかりせえ! あんたーーッ!!」
馬雲緑
(ばうんりょく)



蜀軍 本陣




「敵将の費耀、万政、王双を討ち取り、多数の敵兵を降伏させましたが、趙雲将軍が重傷を負われたそうです。
百を超える戦場でかすり傷ひとつ負ったことのない将軍が負傷されるとは驚きました」
李恢
(りかい)


「馬鹿めが。こうなることはわかっていたはずだ」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「は? わかっていた?」
李恢
(りかい)


「ウス。わかっていたッスよ……」
趙雲
(ちょううん)


「ししし将軍! おおおお体に障りますからどうか動かずに……」
鄧芝
(とうし)


「もういいッス。自分はこれまでッスから、諸葛亮先輩と話したいんス」
趙雲
(ちょううん)


「………………」
馬雲緑
(ばうんりょく)


「貴様は昨日で九十九歳になったそうだな。ならば当然の結果だ」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「さすが諸葛亮先輩は全てお見通しッスね。
最後に昔話をさせて欲しいッス……」
趙雲
(ちょううん)



常山郡(じょうざんぐん)真定(しんてい)

北斗
(ほくと)
南斗
(なんと)
趙顔
(ちょうがん)

死の神

生の神

若者




「ほうほう。右上スミ小目か。ならばこう受けよう」
北斗
(ほくと)


「14ノ五カ……。ソウ来ルト思ッテイタゾ。コレデ詰ミダ」
南斗
(なんと)


「これは驚いた。その手があったか。全く気づかなかった」
北斗
(ほくと)


「暇ヲ持テ余シタ」
南斗
(なんと)


「神々の」
北斗
(ほくと)


「碁」
南斗
(なんと)
北斗
(ほくと)


「………………」
趙顔
(ちょうがん)


「それで、お主は何者じゃ」
北斗
(ほくと)


「あ、き、気づいていらっしゃったッスか」
趙顔
(ちょうがん)


「横カラ急ニ酒ヤラ料理ヤラ出サレテ気ヅカナイワケガアルカ。我々ハ神ダ」
南斗
(なんと)


「じ、自分は趙顔っていう近くに住んでる村人ッス。
た、単刀直入に言うッスよ。自分の寿命を延ばして欲しいッス!
有名な占い師に、自分は十九歳で死ぬと言われたんス! しかも明日で十九歳になるんスよ!!」
趙顔
(ちょうがん)


「人の寿命がわかる占い師というと……さては管輅(かんろ)か?」
北斗
(ほくと)


「北斗ヨ。管路ハマダ生マレテオラヌ」
南斗
(なんと)


「そうじゃった。今は西暦149年じゃったな。全く気づかなかった」
北斗
(ほくと)


「暇ヲ持テ余シタ」
南斗
(なんと)


「神々の」
北斗
(ほくと)


「メタ発言」
南斗
(なんと)
北斗
(ほくと)


「…………ええと、話を続けていいッスか?
その占い師さんの言うには、お二人にお願いすれば、自分の寿命を延ばしてもらえるそうなんスが」
趙顔
(ちょうがん)


「いかにも。わしは人の死を司り」
北斗
(ほくと)


「ワタシハ人ノ生ヲ司ル」
南斗
(なんと)


「人の寿命を延ばすも縮めるも自由自在じゃ。うらやましいか?」
北斗
(ほくと)


「うらやましいッス! ぜひその力を使ってなんとかお願いするッスよ!
母は昨年亡くなったッス。病気の親父を一人おいて自分も死ぬなんて……」
趙顔
(ちょうがん)


「ナント言ワレヨウト人ノ寿命ハ定メラレタモノ。ソノ摂理ハ曲ゲラレヌ」
南斗
(なんと)


「南斗よ。なんとと言ったのは駄洒落か?」
北斗
(ほくと)


「ソンナツモリハナイ。全ク気付カナカッタ」
南斗
(なんと)


「暇を持て余した」
北斗
(ほくと)


「神々ノ」
南斗
(なんと)


「そこを曲げてなんとかお願いするッスよ!!」
趙顔
(ちょうがん)


「人の身でわしらの決め台詞を妨害するとは小癪な……」
北斗
(ほくと)


「ダガ北斗ヨ。我々ハモウ賄賂ヲ受ケ取ッテシマッタ」
南斗
(なんと)


「わしは受け取るつもりはなかった。南斗がうまいうまいと食べるからいけないのだ」
北斗
(ほくと)


「北斗ヨ。オ前ノホウガ多ク食ベテイタハズダガ?」
南斗
(なんと)


「本当か。全く気づかなかった」
北斗
(ほくと)


「暇ヲ持テ余シタ」
南斗
(なんと)


「神々の」
北斗
(ほくと)


「それはもういいッスよ!」
趙顔
(ちょうがん)


「下界の者にはウケぬのか……。まあよい。趙顔と言ったな。
……なるほど。確かにお前の寿命は十九とこの帳面に書いてある。
その上に九を書き足してやろう。これでお前の寿命は九十九じゃ」
北斗
(ほくと)


「九十九!? そ、そんなに大盤振る舞いしてくれるんスか!」
趙顔
(ちょうがん)


「十九年モ九十九年モ我々ニトッテハ大差ナイ。マバタキノ間ニ過ギユク」
南斗
(なんと)


「…………あのう。ちょっと聞きたいんスが、自分は何があっても九十九まで生きられるんスか?」
趙顔
(ちょうがん)


「生きられる。刀で斬られようと槍で突かれようと、お前の体は自然に動き危機を防ぐ。
さながら雲のごとく、斬れども断てず突けども貫けぬのじゃ」
北斗
(ほくと)


「雲のように……」
趙顔
(ちょうがん)


「立チフサガル者アレバ適当ニ槍ヲ繰リ出シテミヨ。
アラユル防御ヲスリ抜ケ、オ前ノ槍ハ敵ヲ朱ニ染メルダロウ」
南斗
(なんと)


「無敵じゃないッスか!
ただ寿命を延ばしてくれただけじゃなくて、そんなすごい力をくれるなんて――。あざーす!!」
趙顔
(ちょうがん)


「……北斗ヨ。サービスシスギタノデハナイカ。人ノ手ニハ余ルチカラダ」
南斗
(なんと)


「確かに。全く気づかなかった」
北斗
(ほくと)


「暇ヲ持テ余シタ」
南斗
(なんと)


「神々の」
北斗
(ほくと)


「まるで生まれ変わったような気分ッス!
これから自分は雲のように生きるッスよ! 名前も趙雲に改名するッス!」
趙顔
(ちょうがん)


「……まあよい。直すのも面倒じゃ。九十九年、好きに生きるがいい」
北斗
(ほくと)


「この力、必ず正しいことに使うッスよ!
早速、親父に報告してくるッス! 本当にあざーっした!!」
趙雲
(ちょううん)



蜀軍 本陣




「          」
李恢
(りかい)


「し、し、将軍の人間離れした強さにそんな秘密が隠されていたなんて……」
鄧芝
(とうし)


「それから八十年、自分は不死身の体に驕らず、腕を磨いてきたッス。
全ての他人を先輩と思い、年齢に関わらずいつまでも後輩のつもりでいようと心がけたッス。
でも本当の自分は、王双に不覚を取る程度の実力だったみたいッスね……」
趙雲
(ちょううん)


「そんなことあらへん! 九十九のジジイが敵将を討ち取るなんてあんたにしかでけへんで!
黄忠はんや厳顔はんにだって無理やったんや!」
馬雲緑
(ばうんりょく)


「ありがとう雲緑……。あと数年で死ぬとわかってる自分と結婚してくれて感謝してるッス」
趙雲
(ちょううん)


「年数なんて関係あらへん。
ウチは世界一の旦那と結婚できて幸せやった!」
馬雲緑
(ばうんりょく)


「ああ、寒い寒い。こんな場面を余に見せつけるために来たのか? よそでやれよそで」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「サーセン。……劉備先輩や関羽、張飛先輩もみんな亡くなり、
自分にとって諸葛亮先輩は一番古い付き合いッス。いろいろ話したいことがあったッスが……。
いざこうなると、何から話せばいいかわからないッス」
趙雲
(ちょううん)


「余は貴様と話すことなど特段ない。帰れ」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「ウス。北伐もまだ道半ばだというのに、ここで離脱することだけ、詫びさせてくださいッス」
趙雲
(ちょううん)


「確かに貴様が抜ければ戦力は大幅に落ちる。余の面倒を増やしおって」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「諸葛亮先輩がこんなに褒めてくれるなんて……。長生きしてよかったッスよ。
今までお世話になりました! あざーす!!」
趙雲
(ちょううん)


「………………」
馬雲緑
(ばうんりょく)


「…………そ、それにしても驚きました。
五虎大将、最後の一人も落ちる、か。
一つの時代が終わったような気がします」
李恢
(りかい)


「馬鹿な。一将ごときに時代が作れるものか。
……まあ、あれほど馬鹿げた強さならば、物語くらいは作れるだろうがな」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「こ、後世の人々は趙雲将軍の強さをきっと信じられないでしょうな」
鄧芝
(とうし)


「フン。その目で見たものしか信じられぬ愚者には、趙雲の姿は絵空事と映るだろう。
彼奴の名は物語に閉じ込められ、歴史の表舞台に立つことはない」
諸葛亮
(しょかつりょう)


「おお……。左将軍はそれほどまでに趙雲将軍を買っておられたのですな」
李恢
(りかい)


「凡人の中ではマシだと言ったまでだ。
――さっさと趙雲と馬雲緑の部隊を張翼、呉班に引き継がせよ。
曹真の追撃を受ける前に退却する」
諸葛亮
(しょかつりょう)



魏 陳倉

孫礼
(そんれい)
戴陵
(たいりょう)
楽綝
(がくちん)

魏の元・近衛兵長

魏の将

魏の将




「蜀軍は撤退したそうだな。我々が援軍に来るまでもなかったようだ。陛下も喜ばれているぞ」
杜襲
(としゅう)


「だが陛下にお預かりした多くの将兵を失ってしまった!
蜀軍を丸呑みしてやると豪語しておきながらこのザマ……自分が不甲斐ない!」
曹真
(そうしん)


「いいえ! 曹真将軍が指揮を取られたから、これだけの被害で済んでいるのであります!
それに結果的に2度にわたり蜀軍を撃退しているではありませんか!」
郭淮
(かくわい)


「確かに多くの将を失ったが、それは曹真将軍の責任じゃあねえ。
功に逸った彼らの自己責任だろうよ」
郝昭
(かくしょう)


「子飼いの副将を多く失ったと聞いている。補充の将を連れてきたから紹介しよう」
杜襲
(としゅう)


「孫礼と申します。陛下の近衛兵を務め――ガアォ!
……失礼した。狩りのさなかに陛下を襲った虎を仕留めて以来、どうも虎の霊に祟られたらしい」
孫礼
(そんれい)


「戴陵だ! 陛下が狩りにばっかり行ってるもんだから、
遊んでる暇があったら仕事しろと諌めたら、前線に飛ばされちまった。
はっはっはっ! まあよろしくやってくれ」
戴陵
(たいりょう)


「楽綝だ。父は楽進だ。以上だ」
楽綝
(がくちん)


「……ちょっと曲者ぞろいだが、腕は保証しよう。
私も参謀として今後は世話になる。よろしく頼む」
杜襲
(としゅう)


「ああ、ありがたい。
今回も蜀軍に決定的な打撃を与えることはできなかった。
奴らは必ずやまた現れる。その時こそ一呑みに平らげてやる!!」
曹真
(そうしん)








かくして五虎大将・最後の一人趙雲の命数は尽きた。
二度目の北伐も失敗に終わったが、蜀軍・魏軍ともに兵の損耗は少ない。
諸葛亮は早くも第三次の北伐へと乗り出そうとしていた。




一〇二   第三次北伐