水ギョの交わり

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 ――校内においての科学実験等は、必ず教師の監督下によって行うものとする



 7月2日付 三上塚新報社会面より

 1日午後4時25分ごろ、●●県●●市三上塚の私立三上塚高等学校の教室で、実験中に爆発事故があった。
 男子学生2人(ともに17)と男性教師(60)がやけどで軽傷を負った。
 県警三上塚署と市安全管理局が爆発原因などを調べている。
 調べや同校によると、爆発事故は第一校舎1階の科学実験室で発生し、天井や実験器具などが燃えたという。



 特別産業科学技術研究部(通称ギョ研)顧問 九鬼三太夫(くき・さんだゆう)教諭の談話より抜粋


 九鬼教諭(以下九鬼)「馬鹿者! ギョルトリウムは我が国の明日を担う奇蹟の発明だ!」
 新聞部インタビュアー(以下イン)「まだなにもうかがっていませんが……」
 九鬼「どうせ貴様も我らの偉大なる研究にいちゃもんを付けに来たのであろう! そもそもギョルトリウムというものは――」
 (中略)
 九鬼「――というわけで、ギョルトリウムは明日の我が国の発展に欠かせぬものであることは、明々白々の事実であるといえよう」
 イン「はあ。御高説たいへん興味深く拝聴いたしました。つまりギョルトリウムというものは、水に反応し爆発する物質、という解釈でよろしいのでしょうか?」
 九鬼「うむ。間違ってはいない」
 イン「ありがとうございます。これでやっと本題に入れます。ところで先日の爆発事故についてですが」
 九鬼「あれはわしのせいではない!」
 イン「まだなにもうかがっていませんが……」
 九鬼「わしは我が国におけるギョルトリウム研究の第一人者である。そのわしがギョルトリウムを水と反応させるなどという初歩的なミスを犯すことなど万に一つもありえん!」
 イン「しかし爆発事故は現に起きましたよね?」
 九鬼「む……むう、た、たしかに起きたか起きていないかと問われれば、起きたと認めるにやぶさかではない」
 イン「九鬼先生と生徒2人は、爆発に巻き込まれケガをなさいましたね」
 九鬼「ほんのかすり傷だ! この程度の負傷は科学技術の発展には付き物であり、ギョルトリウムの安全性について重大な疑念を生じさせるものではない!」
 イン「軽傷で済んだのは不幸中の幸いでした。しかし科学実験室は半焼し、ギョ研は廃部を命じられてしまいましたね」
 九鬼「いつの時代も、偉大なる研究に対しての、無知蒙昧な輩による妨害は付き物である」
 イン「実にお気の毒でした。それではおうかがいしたいのですが、九鬼先生がギョルトリウムを水と反応させたのではないとすると、いったい誰が爆発事故を起こしてしまったのでしょうか」
 九鬼「そんなものは考えるまでもない。A(註:事故に遭った男子生徒の1人。プライバシーのため名前を伏せさせていただきました)だ! Aがやったに決まっておる! Aはいつもそうだ! Aは毎日のように失敗を重ね、いつもわしの足を引っ張りおった! 今度の事故もAのしわざに決まっておる!」
 イン「なるほど。後ほどAさんにもお話をうかがいたいと思います。本日は長時間ありがとうございました」



 特別産業科学技術研究部(通称ギョ研)部員 B(註:事故に遭った男子生徒の1人。プライバシーのため名前を伏せさせていただきました)氏の談話より抜粋

 B氏「愚か者! ギョルトリウムは私と九鬼先生が研究に研究を重ねて築き上げた、世界の未来を変える発明だ!」
 新聞部インタビュアー(以下イン)「まだなにもうかがっていませんが……」
 B氏「どうせお前も――」
 (中略)
 B氏「――というわけで、ギョルトリウムは(中略)といえよう」
 イン「はあ。面白い話をありがとうございました、先輩。つまり今回の事故でギョルトリウムを水と反応させたのは、先輩でも九鬼先生でもないということですね」
 B氏「当然だ。A(註:事故に遭ったもう1人の男子生徒。プライバシーのため名前を伏せさせていただきました)のせいに決まっている。Aはいつもドジをしては私や九鬼先生を困らせていた。たとえばこの前の実験の時には(中略)先日の昼食の時も(中略)さらには三ヶ月前の帰宅中に(中略)今回もAがまたドジをふんだんだ!」
 イン「しかし警察の調べによると実験室内には、水の気は一切なかったそうですね」
 B氏「当たり前だ。ギョルトリウムには一滴でも水をたらせば、即座に絶大な反応をし、膨大なエネルギーを放出する。実験室内に水道は引かれていたが、蛇口はセメントで厳重に固めていた。無論のこと、飲料物を持ち込んでもいない」
 イン「それではどうして爆発事故が起きたのでしょうか?」
 B氏「だからAだ! Aが考えもつかないような愚かなことをしでかして、なんとかして水分をギョルトリウムに反応させたんだ! それしか考えられん!」
 イン「お言葉ですがAさんも、先輩と同じように長くギョルトリウムの研究にたずさわってこられたとうかがっています。ギョルトリウムの危険性も、水分を近づけてはいけないということもご存知だったでしょう」
 B氏「う、うむ……」
 イン「それにAさんも先輩や九鬼先生と同じくやけどを負われています。たとえば極端な話、先輩たちを狙って爆発を起こしたのだとしたら、Aさんまで爆発に巻き込まれているのはおかしいと思われませんか?」
 B氏「だ、だが……。しかし……。ううむ……。と、とにかくAだ! Aは本当に愚かなヤツなんだ! 爆発が起きたのは絶対にAのせいなんだ!」
 イン「なるほど。後ほどAさんにもお話をうかがいたいと思います。本日は長時間ありがとうございました」



 特別産業科学技術研究部(通称ギョ研)部員 A(註:事故に遭った男子生徒の1人。プライバシーのため名前を伏せさせていただきました)氏の談話より抜粋

 A氏「違います! ギョルトリウムを爆発させたのは僕のせいではありません!」
 新聞部インタビュアー(以下イン)「まだなにもうかがっていませんが……」
 A氏「あ、あなたもどうせ僕があやしいと思って話を聞きに来たんでしょ? だって――」
 (中略)
 A氏「――というわけで、ギョルトリウムは使い方を誤らなければ、たいへん有意義に活用できる夢の発明なのです」
 イン「はあ。面白い話をありがとうございました、先輩。しかし爆発事故が起こったということは、誰かが使い方を誤ってしまったということですね?」
 A氏「ち、違います! ――い、いや、きっとそうなのでしょう……。そうでなければ、爆発が起こるはずがありません。現に事故は起こったのですから、きっと誰かが過ちを犯してしまったのでしょう。だって人間は、必ず過ちを犯す動物なのですから……」
 イン「しかし先輩は、ご自分が事故を起こしたことは否定されるのですね?」
 A氏「もちろんです! 天に誓って僕はギョルトリウムに水を近づけてはいません!」
 イン「ということは、B(註:事故に遭ったもう1人の男子生徒。プライバシーのため名前を伏せさせていただきました)さんか、九鬼先生がギョルトリウムと水を反応させてしまったと、考えていらっしゃるんですね?」
 A氏「そ、それは……。でも……。いや……。しかし……。ぼ、僕からはなにも言うことはありません」
 イン「ここだけの話ですが、Bさんも九鬼先生もあなたを疑っていらっしゃいます」
 A氏「そ、そんな! 濡れ衣です! 僕じゃありません! お願いですから信じてください! 僕は潔白です!」
 イン「なるほど。本日は長時間ありがとうございました」



 謎が謎を呼ぶ爆発事故の真相は果たしてどこにあるのだろうか。
 新聞部は次号で藪の中に隠された真相を必ずや突き止めてみせます。
 次回の三上塚高校新聞「ギョルトリウム爆発事故究明特別号」にご期待ください。
 (文責 編集部員H)



 「――なんだいこの打ち切りマンガみたいな締めかたは」紙面から目を上げるなり北条丈文は言った。
 「これじゃ誰も次回があるなんて思わないよ」
 「文句があるなら北条さんが書いてくださいよ」弘長隆史は冷たく言い返した。
 「北条さんはぜんぜん記事を書かないじゃないですか」
 「だいたいねえ弘長君、頼むからもうすこし気をつかってくれないかな。(文責 編集部員H)とあるだろう。考えてもみたまえ。僕も君もイニシャルは同じHなんだ。こんなみっともない記事を書いたのが僕だと誤解されたらどうするんだい」
 「文句があるなら北条さんが書いてくださいよ」弘長隆史はくり返した。
 「そもそもだね、この程度の事件を一号で解決できないなんてどうかしてるよ。なんだって次号になんかつづくんだい。時代はエコだっていうのに紙の無駄だよ」
 「ほ――北条さんには真相がわかっているんですか」
 「そんなことわかるわけないじゃないか」北条は平然と言った。
 「だって当事者の三人が三人とも犯行を否定してるんだよ。そんなややこしい事件の真相をだね、こんなどうしようもないインタビュー記事だけで突き止められるもんか」
 「わからないのにいばらないでくださいよ!」
 「わからないのは君のほうだよ、弘長君」北条は男にしては妙に長細い指を左右に振った。
 「僕はこの事件を解決できると言ったんだ。真相がわかると言ったんじゃない。そうだね、せっかくだからたまには僕が記事を書こう。次号は僕に任せたまえ。当事者の三人にもう一度インタビューして、事件を解決してあげようじゃないか」



 ※『20代最後の作品』という響きがかっこいいので久々にバカミスを書きました。今回は申し訳ありませんが推理を募集いたしません。
 なぜならこの事件は、北条の言うとおり真相を看破できるものではないからです。
 明日更新(予定)の後編にて、北条がいかにバカな方法で事件を解決するのか期待せずにお待ちください。

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