DEATH TIMER
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――加藤は目を覚ました。
パイプで組まれたベッドが2つ。それ以外にはなにもない部屋。
頭が痛むのか、額に手をあて、しきりに首を振りながら、寝ぼけ眼であたりを見回す。
視界に入るのはベッドが2つきり。外に通じているのはドアが1つ。窓すらもない。
意識がようやく事態の異様さに気づき、加藤はベッドを飛び降りた。
「おい、佐々木。起きろ。おい」
隣のベッドに寝ていた佐々木の身体を乱暴に揺する。
佐々木はくぐもった声でうなり、重たげにまぶたを持ち上げた。
「加藤……?」
やはり頭痛がするのか、佐々木は後頭部をおさえながら、不審そうにつぶやいた。
「どうしてお前が僕の部屋にいるんだ」
「寝ぼけるな。ここはお前の部屋じゃない」加藤は枕元の眼鏡をむりやり佐々木にかけさせ、強引に首をめぐらせて部屋の様子を観察させる。
「どこだここは。どこなんだここは」
「どこ……だろうな」
まばたきごとに意識を覚醒させ、佐々木は呆然とつぶやく。
「まるで独房だ。――君の部屋じゃないんだな」
「牢屋に住む趣味はねえよ」
「だろうな。ここがどこかということより、君にそんな趣味があった方が怖いよ」
事態の把握に苦しみながらも、普段と同じ冷静な口調で佐々木は言う。
「ホテルの一室――には見えないな」
「広いのは結構だが、カプセルホテルより待遇悪いぜ」
「昨晩は同窓会だった」軽口はここまでと、佐々木は頭をかきながら状況の整理を始める。
「三次会まで付き合って、帰宅したのが午前3時だ。帰り道は君といっしょだったな」
「ああ。駅前でタクシーを拾おうとして、それから……」
「問題はそれからだ。それからの記憶が全くない。――君も同じか?」
加藤は大きくうなずき、頭痛で顔をしかめた。
「俺もそうだ。駅に向かって、それから、それから……」
2人は顔を見合わせ、そろってため息をついた。
「とりあえずここを出よう」
佐々木はベッドから腰を上げ、部屋にひとつきりのドアノブを握った。
ノブはすんなり回り、隣室への扉を開く。

「――同じだな」
加藤がつぶやいた。
リノリウムの床。壁にも天井にも飾り付けはなく、寒々しい印象を与える。
隣の寝室――と便宜上呼んでみるが――との違いは、部屋の真ん中にテーブルと冷蔵庫が備え付けられていることだった。
「参ったな。やっこさん、僕らに長期戦をしかけているようだ」遠慮なしに冷蔵庫の中身をのぞき込みながら、佐々木がぼやいた。
「やっこさん?」
「僕らをこんな所に閉じこめたヤツさ」
加藤も冷蔵庫を開ける。
中にはスポーツドリンクとバランス栄養食品がぎっしり詰まっていた。
漂いでた冷気に鼻をくすぐられ、加藤はくしゃみをした。
「1週間分は入っている」イスに座りながら佐々木がそっけなく言う。
「よかったな。飢え死にだけはせずに済みそうだ」
「1週間もこんなの食うのかよ。冗談じゃねえぜ」
「こっちはトイレだ」ご丁寧にも"WC"と書かれたドアを開き、佐々木が言う。
「紙も十分あるし、最低限の生活はさせてくれるらしい」
大股で部屋を横切り、加藤はもうひとつのドアに突進する。
ノブをひねるが、動かない。
それ以上の道は閉ざされていた。
「僕らに与えられた世界は二部屋+トイレ それっきりだとさ」
「ちきしょう。ふざけやがって」
「おちつけ。怒っても腹が減るだけだ。――それよりこれを見てくれ」
佐々木は人さし指と中指ではさんだ封筒を投げ渡した。
どこにでもある平凡な茶封筒。
表にはただ一言。

ルール説明

と書かれていた。
「こいつの意味が書いてある」佐々木はつまらなそうに、それをこづいた。
部屋に入った時から目に入っていた。
真っ先に目に入るほど、それは目立っていた。
赤い液晶数字の浮かんだタイマーが2つ。
加藤の顔写真が貼られたタイマーは60。
佐々木の顔写真が貼られたタイマーは100を示していた。
封筒を乱暴に破り、加藤は紙面に目を通す。
そこに書かれたのはたった二行。

"1000点で死が訪れる どちらかが死ねば扉は開く"

「だとさ」
「――なんだこれは」
「見てのとおりさ」佐々木は肩をすくめた。
「それ以上でもそれ以下でもない。僕らはゲームに招待されたんだ」
「ゲームだと。ふざけるな! 俺はこんな茶番に付き合う気は」
「なら、部屋を出ていくか? だがどうやってここを出る? 出口はドアがひとつきり。ドアは開かない。ノブに鍵穴はない。電話もない。ネットもない。そもそも助けを求めようにもここがどこだか解らない」

チーンと無機質な音が響き、佐々木のタイマーが30上がって130に、加藤のタイマーが50上がり110に変わった。

「いまのセリフ、まずかったみたいだな」
「なんだってんだよこれは!」タイマーをつかみ、投げ捨てようとした加藤の手を、佐々木が止める。
「やめろ。せっかくの手がかりをつぶすつもりか」
「手がかりだと」
「そうだ。僕らをここに閉じこめたヤツに迫る、唯一の手がかりさ」
「お前は犯人に見当がついてるのか」
「さあね。でもこれだけは確かだ。

黒幕が誰かを推理しなければ、僕らは2人とも殺される」

「どうして、そんなことが言えるんだ」加藤が反駁した。
「ルールには"どちらかが死ねば扉は開く"とある。2人とも死ぬことはないだろ」
「まったく君はおめでたいな」佐々木は肩をすくめ嘆息する。
「いいか。この悪だくみをした黒幕の目的を考えろ。目的は僕らのどちらかを殺すことか? 違う。
それだったら殺したい一方だけを閉じこめるはずだ。
黒幕は僕らを2人とも殺したいから、2人いっぺんに閉じこめたんだ」
「俺たちを2人とも……」
「だから黒幕の正体を暴かなければいけない。
正体さえ解れば、なにか反撃の糸口がつかめるはずだ。
ぼうっとしてたら、2人とも殺される。お前と心中なんて絶対にごめんだからな」

吐き捨てるように言い、佐々木は横目でタイマーをにらんだ。
こうしている間にも
加藤:160
佐々木:160
にタイマーは上がっていた。



「ぐずぐずしてるヒマはない。まずは、このタイマーが動く仕組みを解き明かそう。
どうやって僕らの寿命を減らしているのかをね。
ざっと考えたところ、4つの可能性が考えられる。

1つ。言葉に反応している。
2つ。行動に反応している。
3つ。生理に反応している。
4つ。心理に反応している。

……君にも解る言葉で話してやるよ。
1つ目の"言葉に反応している"は解るな?
僕たちが発するなんらかの言葉に反応して、ポイントが加算されている可能性だ。
たとえば「暑い」とか「寒い」。「嫌だ」とか「疲れた」とか。
極端な話、「は行の言葉」すべてに反応していることもあるかもしれない。

2つめの"行動に反応"も解るだろ。
たとえば「頭をかく」「くしゃみをする」「腕を組む」そんな動作で加算されるのかもしれない。
酷いところでは「まばたき10回」で1点なんてこともありえる。

3つ目の"生理に反応"はいちばん厄介だな。
「脈拍の上昇」や「発汗状態」、「血圧」「血中酸素濃度」が一定の値を越えるとポイントが増えるんだ。
自分の力では制御するのが難しいし、もしこれが原因ならば特定するのも無理だ。

4つ目は"心理に反応"。
「怖い」とか「嫌だ」「疲れた」と思うたびにポイントがもらえる仕組みだ。
これも自分では操作しようがないから厄介きわまりないな。
どうやって僕らの心理を観測しているのかも解らないがね。

――こんなところかな。さて加藤、君はどれが正解だと思う?

ひとつひとつ検証してみよう。まずは"言葉に反応"のケースだ。
いまから僕が五十音を順番にしゃべる。君はしばらく黙っていてくれ。いくぞ。
あ。
い。
う。
え。
お――


わ。
を。
ん。
タイマーは2人とも動かなかったな。これで解ったことが2つある」
「なんだ」
「さすがの黒幕も、五十音のどれかに反応する――なんて非道なマネはしていないこと。
そして、3分間なにもしゃべらなくても、タイマーは動かないということだ」
「――てめぇ、俺をはめやがったな」言葉の意味を察した加藤はつかみかかった。
「五十音のテストと言いながら、俺を黙らせて"沈黙"がポイントの上昇につながるか実験してやがったのか」
「否定はしない。だが、それで怒られるのは心外だな。リスクが高かったのは明らかに僕のほうだ。
沈黙よりも、言葉に反応していると考えるほうが自然だからな」
佐々木の胸ぐらを放し、加藤は息をつく。
「言っておくぞ。絶対に俺をだますな。俺をはめたら、ただじゃおかない」
「ああ、約束するさ。二度とお前をはめたりはしない」

チーン

無愛想な音が険悪な空気を縫うように響き、佐々木のタイマーが240に加藤のタイマーも240になった。



「便宜上、タイマーを動かすための言葉ないし行動ないし生理を"キーワード"と呼ぶことにしよう。
タイマーが言葉で動いているとは限らない以上、"キーワード"と呼ぶのは厳密にはおかしいんだが、かまわないかな」
「好きにしろ」
「ありがとう。それでは早速検討に移ろうか。
形容詞の検討は必要ないだろう。この部屋は"暑く"もなければ"寒く"もない。
僕らがわざわざ嘘をついてまでそんな言葉を吐く理由もないし、もし形容詞がキーワードなら、簡単にばれてしまう。
僕が黒幕なら、そんな仕掛けは絶対にしない」
「ああ。仮に"暑い"がキーワードなら、この部屋にガンガンに暖房をつけて、言わざるを得ないようにし向けるだろうな。
それに、"暑い"と言うたびにタイマーが上がってたら、なにがキーワードなのか猿でも解る」
「そういうことだ。正直言って僕は、"言葉に反応"している可能性は低いと思う。
"言葉に反応"はポイントこそ稼ぎやすいが、キーワードが露見するリスクが高すぎる」
佐々木は冷蔵庫からペットボトルを取り、一息に飲み干した。
ごくりごくりと上下する喉を見て触発されたのか、加藤も自分の分のペットボトルを出した。

「2つ目、"行動に反応"の検証に移ろう。いまから10分間、なにもせずにじっとしているんだ」
「10分――つっても、ここには時計もなんもないぜ。どうするんだ」
「いまから僕が1から600までかぞえる。それで10分だ」
「そりゃ原始的だな」
「同時にまばたきの回数とタイマーの因果関係も調べたい。10分間我慢するのは無理だろうから、1秒ごとにまばたきをしてくれ。いくぞ。
1。
2。
3。
4――

598。
599。
600。
――タイマーは動かず、か」
「ごくろうさん。目が疲れたぜ」加藤は眉間をもみほぐし、わざとらしくあくびをする。
「脈拍も測ったが、タイマーとの因果関係はなさそうだな。血圧や発汗状態は測りようがないし関係ないだろうから、次は――おい、どこへ行くんだ」
加藤は席を立ち、首を左右に振って骨を鳴らしている。
「お前の実験に付き合ってても退屈だ。俺は俺の調査をする」
「調査って、なにをする気だ」
「まずドアを壊す。それが無理なら抜け穴を探す」
「無駄だ。壊せるドアじゃない。抜け穴なんてある訳がない」
「探す前から諦めてんじゃねえよ」言いつつ加藤は、ドアにつづけて蹴りを入れた。
頑丈なドア板はびくともしない。
「ちきしょう。足がいかれちまう」
「やれやれ」佐々木はこれ見よがしに嘆息した。
「もっと頭を使え。道具がないなら作ればいいんだ。ベッドを壊して脚をカナヅチ代わりにすればいいだろ」



「頭をかく」
「くしゃみをする」
「腕を組む」
「あくびをする」
「鼻をほじる」
「唇をなめる」
「背伸びをする」
「指を鳴らす」
「……なあ、言いながらじゃないとできないのか?」加藤が舌打ちした。
「黙ってやれないのか。いちいち動作を実況しなくてもいいだろ」
「ひとつひとつ慎重に確認しているんだ。そのくらい我慢しろ」
「で、当たりはあったのか」
「ない」
「けっ。ご苦労なこった」
「そういうお前はなにか成果があったのか」ほおづえをつき、つまらなそうに佐々木は問い返す。
「ねえよ。見てれば解るだろ。ドアは壊れない。床にも壁にも天井にも抜け穴はない。なーんにもなしだ」
「お前も徒労じゃないか。おたがいさまだ」
「うるせえや」
加藤はイスを蹴倒すと、ずかずかと大股で"寝室"に向かう。
「俺のは壊しちまったから、お前のベッド借りるぜ」
「待て。なにをするんだ」
「寝るに決まってるだろーが。寝室で他になにすんだよ。俺はお前と違って肉体労働で疲れたんだ」
「勝手な行動をとるな。よくこんなときに寝られるな」
「俺に命令するな」
加藤は指を突きつける。
「寝たいときに寝る。食いたいときに食う。飲みたいときに飲む。お前の指図は受けない」
「……」
佐々木は黙って鼻を鳴らした。
「キーワードが解ったら起こせ。黙ってやがったら殺す」
物騒な捨てゼリフを残し、加藤は乱暴に"寝室"のドアを閉めた。

チーン。
ドアと競うようにタイマーが鳴った。

加藤:300
佐々木:340



加藤は目を覚まし、まばたき3回で状況を把握した。
見知らぬ部屋。時間も天気も日付も解らない。
いったい何時間ほど寝たのだろうか。
枕を壁に投げつけ、腹筋の要領で起きあがる。
壊した隣のベッドは――当然ながら――使った形跡はなかった。
盛大にあくびをしながら、"居間"へのドアを開く。

そこに佐々木の姿はなかった。

「――――んの野郎ッ!」
外界へと通じている(?)ドアに突進する。
ノブをひねる。開かない。ノブをひねる。開かない。ノブをひねる開かない。
蹴り飛ばす蹴り飛ばす蹴り飛ばす。
開かない。
ドアに拳を叩きつけ、加藤は獣のような唸り声をもらした。

「なにしてんだお前」
怒りに震える背中に、冷めた声がかけられた。
佐々木がトイレのドアにもたれ、腕を組んでいる。
「てめぇ――ッ」
「察するところ、僕がひとりで出ていったと思ったらしいな。早まるな。トイレに入ってただけだ。
3秒でいい。まずは3秒考えてから動く癖をつけろ。僕が君をおいて出ていくもんか」
「佐々木……」
「せっかくここから生きて出られたのに、ひとりで出ていって君に殺されたんじゃ元も子もないからね」
「………」
「それより加藤、タイマーを見てみろ。面白いことになってるぞ」佐々木は口とは裏腹に、つまらなそうにアゴをしゃくった。
運命を刻むタイマーは、

加藤:300
佐々木:340

だった。
「――は? なに言ってんだお前。俺が寝る前と、なんも変わってないじゃねえか」
「3秒考えろ。だから面白いんじゃないか。
いいか、お前が寝ている間、このタイマーは全く動かなかった。全くだ。
一度上がってから元の数字に戻ったなんてことはない。全く動かなかったんだ」
「………どういうことだ」三点リーダ3つ分悩んでから、加藤はつぶやいた。
「まだこの段階では明言できない。だがこのタイマーは、どうやら僕らの関係に反応して動いているらしい」

チーン。
まるでそれが正解だというように、タイマーが甲高く鳴り響いた。
加藤:350
佐々木:370

「いったん視点を変えてみよう」バランス栄養食品を水でのどの奥に流し込み、佐々木は指先で机を叩いた。
「キーワードを探すよりも、別のことを検討してみるんだ」
「別のこと」4つ目のバランス栄養食品を噛みながら、加藤はオウム返しする。
「黒幕を特定する」
「なんだと。黒幕ってのは、犯人のことか」
「当たり前だ。他に誰がいる」
「特定できるのか」
「できる。話は簡単だ。僕ら2人をこんな目に遭わせるほど恨んでいる者といえば――」
「ススムか」加藤は鼻から息を吐いた。
「ススムしか考えられない」佐々木は自分の額を男にしては細い指で叩く。
「だが、ススムを……その、なんだ。からかってたのは俺たちだけじゃないだろ」
「からかってた、か」佐々木は鼻で笑う。
「たしかに僕らにとっては、単なるからかいだ。だがススムにとっては、そんな他愛ないものじゃなかったんだろう」
「ススムなら、この部屋を用意できたのもうなずける。あいつの親は資産家で、自由にできる金はいくらでもあるしな」
「動機もある。条件も合致する。ただ意外といえば、ススムにこんなことを実行する根性があったということだ」
「ススムが黒幕……」加藤はうつむき、その言葉をくり返す。
佐々木は無地の壁に目をこらし、思索にふける。
なんとはなしに、重たい沈黙が立ちこめた。

「……ススムの目的はなんだ」
加藤がうめくようにつつぶやいた。
「こんなことをして、いったいなんになるんだ。俺たちに恨まれこそすれ、ススムにとって得なんて一つもないはずだ」
「得がない? お前は本気でそんなことを思ってるのか? 3秒――いや1秒も考えれば解るだろ。
お前はいまなんと言った? 『俺たちに恨まれこそすれ』? なにをのんきなことを言っているんだ。いいか。

ススムは僕らを殺すつもりなんだぞ。

殺された人間が、どうやってススムを恨めるんだ?」
「ススムが、俺たちを、殺……す?」
「僕はそんなに意外なことを言ったか? ススムはこれだけのことをしてるんだぞ。僕らを生きてここから出すつもりがあるものか。
ここから僕らが脱出したら、僕らに恨まれる=僕らが脱出できなければ恨まれない だ」
「ススムはそこまで俺たちを……」
「生きてここを出たければ考えろ。逆転の手をな」
「逆転なんてできるのか」加藤は上目づかいでにらみ上げる。「俺たちは圧倒的に不利な立場に立たされてる。こんなわけの解らないところに閉じこめられ、わけの解らないゲームに、強制的に付き合わされてるんだ。それなのに逆転なんてできるのかよ」
「できる」佐々木は力強くうなずいた。
「ここまでのタイマーの鳴り方で、僕はひとつの確信を得たんだ」
「確信」
「このタイマーは自動的に動いているわけじゃない。なんらかの条件に基づきススムがリアルタイムに動かしているんだ。
――そうだろう? ススム」

返事はなかった。
どこからも答えは返ってこなかった。
だが佐々木は、いっそう自信を深めたように、何度もうなずいてみせた。
「ススムは必ず、どこからか僕らを監視している。それは確実だ。
だって考えてもみろ。せっかく獲物を2匹捕らえておいて、あとは機械任せになんてしておくもんか。
僕がススムなら、絶対に様子を見て楽しむね。この部屋の中をかぶりつくように観察するさ。間違いない。
断言する理由はもうひとつある。タイミングだ。
さっきからタイマーが動くタイミングで、なにか気づくことはないか?
――すまん。君に聞いた僕が悪かった。もったいぶらずに説明する。
タイマーは必ず、僕らの会話が途切れたときに鳴っているんだ。
これがどういうことだか解るか。つまり、タイマーは自動的に動いているわけではなく、ススム自身が会話が途切れるのを待ってから動かしている可能性が高いんだ。
なぜそんな手間のかかることをしているのかは解らない。
キーワードが機械で検知できない複雑なものなのか、それとも会話の途中――キーワードが出た瞬間――に鳴らしたのでは、僕らにヒントを与えすぎてしまうからなのか。それは解らない。
だがこの2つの事柄から、これだけは言いきれると思う。

ススムは僕らをじっと監視しているんだ」

「――ってことは、どこかに監視カメラがあるんだな」加藤が意気込んで言った。
「さっきは見つけられなかったがちくしょう、姑息なマネしやがって。カメラぶっ壊してやる」
「よせ」佐々木は短く制した。
「カメラを探すのはいい。だが壊すのはやめろ」
「なんだと。てめえ正気か」
「いいか加藤。君はまだ、このゲームがどういうものか理解していないようだな。
僕らにはこのゲームを勝つことはできないんだ。勝負は初めからついている。
キーワードを当てることが僕らの勝利か? 違う。
たしかにキーワードが解れば、タイマーの上昇を止めて、それだけ与えられた時間を伸ばすことができる。
でもそれじゃ意味がないんだ。ルールに書かれていたのは「どちらかが死ねば扉が開く」だ。
キーワードを当ててタイマーを止めてしまえば、どちらも死なないことになる。
それじゃいつまで経ってもここから出られないだろう?
だから僕らにできることは――ゲームをなかったことにすることだけだ」
「い、意味が解らねえ」加藤はとまどいがちに正直な感想を述べた。
「お前、なに言ってんだ。ゲームをなかったことにする?」
「勝負に勝ち目がないのなら、初めから勝負しなかったことにすればいいんだ。
どうにかしてススムに接触し、交渉する。それだけが僕らにできる唯一の対抗策だ。
そのために、監視カメラはいい交渉道具になる。カメラは僕らとススムをつなぐ橋渡しなんだ」
「………佐々木。お前の言いたいことは、つまりこういうことか?
"俺たちはススムに許してもらうしかない"ってことなのか?」
「そうだ」
佐々木は無表情にうなずいた。

だが今度は同意しないつもりか、タイマーはすこしも鳴る気配はなかった。



30分後、2人は天井に埋め込まれたカメラを発見したが、まったく手出しはせず、その日は英気を養うように、眠りに就いた。
外界では午前2時10分のことだった。





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