やまいたちの夜
〜事件編〜

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※ごめんなさい しおり→ゆかり です 間違えてました_| ̄|○


「なんなのよこのはっきりしない脅迫状!」真理が叫んだ。
「そもそもこれって脅迫状なの? なによ「しぬ?」って。はっきりしなさいよはっきり!」
「まあ真理、落ち着いて」脅迫状(?)をいまにも引き裂かんばかりの彼女の手から奪いとり、僕はじっと観察する。
利き手と逆の手で書いたのだろう、よれよれのボールペン文字。
裏返すと「パチンコ弟切草・本日開店」と書かれたなんの変哲もないチラシで、手がかりはまったくない。
「これはどこにあったんですか?」
「ぼ、ぼ、ぼくじゃないですよ」二木本さんは壊れたように激しく首と右腕を振った。
「ぼ、ぼ、ぼくの部屋のドアの隙間にはさんであったんです。ぼくは知りません。ぼくは被害者なんです」
「解ってますよ。誰かのイタズラでしょうね」
「こんなのイタズラじゃ済まないわよ!」真理が吼えた。
「誰がやったの? この中にいるのは解ってるのよ。おとなしく白状しなさい! 名乗り出なさい!」
「真理ちゃんおちついて。そんなに厳しく言ったら、名乗りでようにもでられないだろう」大森さんがたしなめた。
大森さんは右の中指で鼻眼鏡を押し上げながら「私はこのペンションのオーナーとして、尋ねる義務と権利があります。
この脅迫状(?)を書いたのはどなたですか?」

もちろん名乗りでる者はいなかった。

「しかたありませんね。それではみなさん、目を閉じてください。もう一度尋ねます。
これを書いたのは誰ですか? ……解りました。手をおろして結構です。あとで私の部屋に来てください」
大森さんはそう言って、騒動は解決とばかりにキッチンへ戻っていった。
本当に誰かが手を上げたのか、それとも僕らを安心させようと嘘をついたのかは解らない。
「ばってん。嫌な空気タイ」回し読みされ、自分に渡ってきた脅迫状(?)を手に、香川さんが鼻から息を吐く。
「こんなつまらんものがあるからいかんタイ」顔をしかめ、脅迫状をびりびりと破り捨てた。
「ああ……」自分の身を裂かれたように、二木本さんがうめいた。
「これでせいせいしたタイ。秋子、部屋で酒でも飲もう」
「はい、あなた」
香川夫妻はつれだって二階の部屋に消えてゆく。
なんとはなしに白けた空気が、談話室に流れた。
「絶対、あの人がやったのよ」僕に身を寄せ、真理がささやいた。
「あのコートの怪しい人。この騒ぎにも部屋から出てこないし」
食堂で見かけた、怪しい佐藤一郎氏。たしかにこの場に顔を出していないのは不審だった。

壁に掛けられたハト時計を見ると、時刻は午後10時。
なんとも言えぬ嫌な予感を、僕は覚えた。


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